(閑話)少し残念なボッチ vs 真夜中の図書室
歓迎パーティの翌日の夜。
治療室を出た太一は、ランプを持ったメイドに案内されて、夜の庭園を歩いていた。
(はあ、酷い目にあった。まさか二日酔いになるなんて……)
念のため今夜も治療室に泊まっていけと言われたのだが、
部屋に帰りますと言って強引に出て来たのだ。
庭園を歩いていると、太一たちが住む立派な洋館が見えて来た。
ほとんどの窓が真っ暗で、寝静まっているように見える。
(もうみんな寝たのかな)
入口を守っている兵士に挨拶すると、太一は中に入った。
メイドを先頭に暗い廊下を歩き、太一の部屋の前に到着する。
太一が部屋の鍵を開けると、メイドが中に入った。
あちこちひねって灯りを点けると、
「私はこれで失礼します」
と、お辞儀をして帰っていく。
太一は、はあ、と息を吐くと、ソファに座り込んだ。
今日は1日中治療室で寝ていたのに、なんだか妙に疲れた気がする。
そして、新鮮な空気を入れようと窓を開けると、そこは月明かりに照らされた中庭だった。
昼間とは違う神秘的な雰囲気で、ひんやりとした空気の中、ホーホーというふくろうのような声が聞こえてくる。
太一は窓の縁に頬杖をついた。
(車の音がしないって、こんなに静かなんだな)
と思いながら、しばらくぼんやりと庭をながめる。
そして、彼は寝る準備を始めた。
部屋に付いているバスルームに入って、
「これ、どういう原理なんだろう」
と首を捻りながら、陶器で出来たバスタブにお湯をため、置いてあった石鹸やシャンプー、リンスを恐る恐る使う。
(へえ、結構いい感じだな)
定期的に異世界召喚をする世界とのことなので、もしかしたら前に召喚された人々が、こういった衛生面の知識を広めていったのかもしれない、などと考える。
(知識チートは使えなさそうだな)
ちなみに、この世界の主な動力は電気ではなく魔力で、ランプも魔石のようなものを光らせる感じになっている。
その後、彼はお風呂から上がると、てぬぐいのようなタオルで体を拭いた。
あんまり水を吸わないなと思いながら、似たような素材のガウンを着て、ソファに座る。
そして、ぼんやりと天井をながめながら思った。
なんかものすごく暇だな、と。
(ネット環境がないとこんなに暇なんだな)
寝ようかとも思うが、昼間散々寝たせいで、全く眠くない。
そして、ふと思い出した。
そういえば、この館の2階に図書室があるって言ってたよな、と。
(ちょっと見に行ってみるか)
彼はランプを持つと、部屋をそっと出た。
気配を消して廊下を歩いて、広い西洋風の階段を上がる。
そして、上がった先の空いている扉をのぞくと、そこは本棚が並んだ大きめの部屋だった。
ヨーロッパっぽい雰囲気で、壁際に本が詰まった背の高い棚が並んでいる。
彼はそっと中に入ると、ランプを掲げて本の背表紙をながめた。
「ええっと、『ナーロッパ王国史』に、『ナーロッパ英雄譚』か。結構歴史ものが多いんだな。――お、こっちは料理本だ」
そして、本棚の一番端までいき、彼はとある本に目を止めた。
「へえ、『ナーロッパ王国の文化経済における考察』か。なんだか難しそうな本だな」
こういう本を読む自分っていうのもカッコいいよな、思いながら、太一はその本を手に取った。
パラパラと開いて見て――
「…………え?」
ピシリと固まった。
そこに描かれていたのは、金髪碧眼の美しい女性だった。
スケスケの面積の少ない服を着ており、挑発的な表情でポーズを決めている。
(……ほぼ裸だな)
次のページにも似たような女性が描かれており、その次も、そのまた次も同じような絵が続く。
そこからパラパラと10ページほどめくって、太一は悟った。
これは、異世界のエロ本だ、と。
(なるほど、こういう感じなのか……)
本をパタンと閉じると、太一はその表紙を見つめた。
『ナーロッパ王国の文化経済における考察』
という、明らかに中身を誤魔化すためのタイトルに、
「まあ、確かに文化経済の考察か」
と訳の分からない感想を持つ。
そして、彼は思った。
この本をどうしようか、と。
見なかったフリをして戻すのが正解だろうとは思う。
でも、興味がなくはないため、もうちょっと読んで考察したい気はしている。
(でも、もしもこの本を持っているところを見られたらどうなる……?)
ここから部屋までかなりある。
もしも誰かに見られて、「あいつエロ本持っていた」などという噂が広がったら……?
もしも、エロボッチ、などと陰口をたたかれることになったら……?
それらを想像して、太一は身震いした。
(……やめよう、これはきっと死地だ)
そう自分に言い聞かせながら、さりげなく本を元に戻した。
自分は何も見ていない自分は何も見ていない、と、心の中で念じる。
そして、
「闇も深まった、もう寝よう」
と、部屋を出ると、最後にチラリと本を一瞥して、少し残念な気持ちで1階の自分の部屋へと降りて行った。
これにて第1章終わりです
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