表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/33

(閑話)少し残念なボッチ vs 真夜中の図書室

 歓迎パーティの翌日の夜。

 治療室を出た太一は、ランプを持ったメイドに案内されて、夜の庭園を歩いていた。


(はあ、酷い目にあった。まさか二日酔いになるなんて……)


 念のため今夜も治療室に泊まっていけと言われたのだが、

 部屋に帰りますと言って強引に出て来たのだ。


 庭園を歩いていると、太一たちが住む立派な洋館が見えて来た。

 ほとんどの窓が真っ暗で、寝静まっているように見える。


(もうみんな寝たのかな)


 入口を守っている兵士に挨拶すると、太一は中に入った。

 メイドを先頭に暗い廊下を歩き、太一の部屋の前に到着する。


 太一が部屋の鍵を開けると、メイドが中に入った。

 あちこちひねって灯りを点けると、



「私はこれで失礼します」




 と、お辞儀をして帰っていく。


 太一は、はあ、と息を吐くと、ソファに座り込んだ。

 今日は1日中治療室で寝ていたのに、なんだか妙に疲れた気がする。


 そして、新鮮な空気を入れようと窓を開けると、そこは月明かりに照らされた中庭だった。

 昼間とは違う神秘的な雰囲気で、ひんやりとした空気の中、ホーホーというふくろうのような声が聞こえてくる。


 太一は窓の縁に頬杖をついた。


(車の音がしないって、こんなに静かなんだな)


 と思いながら、しばらくぼんやりと庭をながめる。


 そして、彼は寝る準備を始めた。

 部屋に付いているバスルームに入って、



「これ、どういう原理なんだろう」



 と首を捻りながら、陶器で出来たバスタブにお湯をため、置いてあった石鹸やシャンプー、リンスを恐る恐る使う。


(へえ、結構いい感じだな)


 定期的に異世界召喚をする世界とのことなので、もしかしたら前に召喚された人々が、こういった衛生面の知識を広めていったのかもしれない、などと考える。


(知識チートは使えなさそうだな)


 ちなみに、この世界の主な動力は電気ではなく魔力で、ランプも魔石のようなものを光らせる感じになっている。




 その後、彼はお風呂から上がると、てぬぐいのようなタオルで体を拭いた。

 あんまり水を吸わないなと思いながら、似たような素材のガウンを着て、ソファに座る。


 そして、ぼんやりと天井をながめながら思った。

 なんかものすごく暇だな、と。


(ネット環境がないとこんなに暇なんだな)


 寝ようかとも思うが、昼間散々寝たせいで、全く眠くない。


 そして、ふと思い出した。

 そういえば、この館の2階に図書室があるって言ってたよな、と。


(ちょっと見に行ってみるか)


 彼はランプを持つと、部屋をそっと出た。

 気配を消して廊下を歩いて、広い西洋風の階段を上がる。


 そして、上がった先の空いている扉をのぞくと、そこは本棚が並んだ大きめの部屋だった。

 ヨーロッパっぽい雰囲気で、壁際に本が詰まった背の高い棚が並んでいる。


 彼はそっと中に入ると、ランプを掲げて本の背表紙をながめた。



「ええっと、『ナーロッパ王国史』に、『ナーロッパ英雄譚』か。結構歴史ものが多いんだな。――お、こっちは料理本だ」



 そして、本棚の一番端までいき、彼はとある本に目を止めた。



「へえ、『ナーロッパ王国の文化経済における考察』か。なんだか難しそうな本だな」



 こういう本を読む自分っていうのもカッコいいよな、思いながら、太一はその本を手に取った。

 パラパラと開いて見て――



「…………え?」



 ピシリと固まった。

 そこに描かれていたのは、金髪碧眼の美しい女性だった。

 スケスケの面積の少ない服を着ており、挑発的な表情でポーズを決めている。


(……ほぼ裸だな)


 次のページにも似たような女性が描かれており、その次も、そのまた次も同じような絵が続く。


 そこからパラパラと10ページほどめくって、太一は悟った。

 これは、異世界のエロ本だ、と。


(なるほど、こういう感じなのか……)


 本をパタンと閉じると、太一はその表紙を見つめた。


『ナーロッパ王国の文化経済における考察』


 という、明らかに中身を誤魔化すためのタイトルに、

「まあ、確かに文化経済の考察か」

 と訳の分からない感想を持つ。


 そして、彼は思った。

 この本をどうしようか、と。


 見なかったフリをして戻すのが正解だろうとは思う。

 でも、興味がなくはないため、もうちょっと読んで考察したい気はしている。


(でも、もしもこの本を持っているところを見られたらどうなる……?)


 ここから部屋までかなりある。

 もしも誰かに見られて、「あいつエロ本持っていた」などという噂が広がったら……?

 もしも、エロボッチ、などと陰口をたたかれることになったら……?


 それらを想像して、太一は身震いした。



(……やめよう、これはきっと死地だ)



 そう自分に言い聞かせながら、さりげなく本を元に戻した。

 自分は何も見ていない自分は何も見ていない、と、心の中で念じる。



 そして、



「闇も深まった、もう寝よう」



 と、部屋を出ると、最後にチラリと本を一瞥して、少し残念な気持ちで1階の自分の部屋へと降りて行った。




これにて第1章終わりです

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


もしよかったら、下の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!


イマイチだな思った方も、☆1つでも良いので付けて頂けると、作者としてはとても参考になりますので、是非ご協力いただければと思います。m(_ _)m


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 猫のお話からとんできました。そして、シオンくんとエリクサーを探す旅のファンです。  久しぶりに優木さんの物語を読んでいるのですが、相変わらず軽快で、ストレスレスで読めます。  このお話も、ボッチがど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ