(閑話)影の薄いボッチ vs 女子たちの会話
部屋割りが行われたあと、まずは女子から部屋に案内されることになった。
可愛らしいメイド服を着たメイドたちが、ぺこりと頭を下げる。
「どうぞこちらです」
女子たちは、メイドたちに付いて神殿の外に出た。
外は手入れの行き届いた西洋風の庭園で、木々の若葉が少し冷たい風に揺れている。
「……なんか別世界って感じだね」
「本当に異世界なんだね」
そんなことをヒソヒソ話ながらメイドたちに付いて歩いて行くと、目の前に大きな建物が見えてきた。
西洋風の豪邸といった感じで、アニメや漫画に出てきそうな雰囲気だ。
メイドの1人が口を開いた。
「皆様のお住まいはこちらになります」
どうやら、この豪邸は異世界勇者のために用意した屋敷らしい。
女子たちが思わずといった風に声を上げた。
「え? 貸切ってこと?」
「マジか!」
その後、彼女たちはメイドたちに付いて建物に入った。
中は、広々としており、洒落た雰囲気が漂っている。
メイドによると、建物内には食堂もあるようで、普段はそこで食事をしたり食べ物をもらったりできるらしい。
「わあ! 貴族令嬢っぽい!」
「こういう所、1回住んでみたかった!」
キョロキョロと周囲を見回して歩きながら、女子たちが嬉しそうな声を上げる。
そして、案内されたのは教室くらいありそうな大きくて立派な部屋だった。
部屋の中には、西洋貴族が使っていそうなベッドが3つ、クローゼット、机、ソファセットなどが置いてある。
女子たちから驚きの声が上がった。
「え、広ーい!」
「天蓋付きベッドだ!」
「家具も超かわいい!」
喜ぶ彼女たちを見て、メイドたちがどこか嬉しそうに
「ごゆっくり、後ほどまた参ります」
と言って去って行く。
残された女子たちは、部屋中をチェックした。
「あ! お風呂、猫足だ!」
「良かった! トイレもある!」
「さすがにネットはないか……」
「スマホ圏外だし終わったわ……」
など隅から隅まで調べて回る。
――そして、約30分後。
1軍女子と2軍女子の一部が、1つの部屋に集まってソファやベッドに寝転んでくつろいでいた。
学級委員長の黒髪美人・近藤萌がため息をついた。
「それにしても、本当に異世界に来ちゃったね」
「ホントびっくりだよね!」
「最初いきなり脅されて驚いたよね」
「ねー! うちらのこと試してただけっぽいけど、本当かな?」
「本当だといいけど、気を付けないとね」
女子たちが、うんうん、とうなずきあう。
うち1人が口を開いた。
「それにしても、あの王女様に反抗した彼、びっくりしたね」
「いきなり出てきて何事かと思ったよ」
「驚いた」
他の1人が心配そうな顔をした。
「あれって無事だったんだよね?」
「うん。普通に部屋割り当てられてたみたいだから、多分大丈夫だと思う」
「そっか、そっか、とりあえず良かったよね」
女子たちが安堵する。
そして、誰からともなく声を潜めた。
「……てか、冷静に考えたら、あの彼やばかったよね」
「あー、分かる。正気じゃない感じだったよね」
「私も思った! 目がいっちゃってた!」
誰かがボソッとつぶやいた。
「……あの人、なんて名前だっけ?」
「うーん、何だっけ?」
「西田とかいう名前じゃなかったっけ」
「誰か東田って言ってたよ?」
茶髪の元気そうな女子――ダンス部所属の北川梨花が思い出すような顔で口を開いた。
「……南田太一、だったと思う」
「南田太一? ……あー、なんか聞いたことある気がする! よく覚えてたね」
うん、と梨花がうなずいた。
「同じクラスになったことはないけど、同じ小学校だった。確か学級新聞の四コマ漫画描いてた気がする」
「へえ、どんな話?」
「ニセパンマンっていう変なパンのヒーローが世界を救う話」
「ふ、ふうん」
何となく引き気味になる女子たち。
その後、女子たちは取り留めもない話に花を咲かせた。
王女様のファッションや今日の夕食についなど、楽しそうに話し合う。
そして、
「じゃあ、一旦部屋に戻るね」
「またね~」
そう挨拶しあうと、女子たちはそれぞれ部屋に戻っていった。