03.チャンス到来に意気込むボッチ vs 偉そうにしたい王女(2)
「お前、ふざけんな! 勝手に呼びつけておいて、なんだその態度は!? 自分たちで魔王を倒せないクセに、偉そうにしてんじゃねえよ!」
太一からそう突き上げられ、王女は思った。
(な、何なんですの、この少年は!?)
*
約1カ月前、ナーロッパ王国の第1王女バカンスは王命を受けた。
『異世界から来た勇者を管理せよ』
ここ数年、魔獣が爆発的に増加している上に、魔王復活の兆しがあるらしい。
そこで、異世界から勇者を召喚する計画が持ち上がった。
側近によれば、勇者召喚は50~100年に1度発生するイベントらしい。
「勇者たちは最初弱いですが、強力な職業とギフトを持っているそうです。そして、すぐに強くなって魔王を倒すとか」
それを聞いたバカンス王女は思った。
(これは最初が肝心ですわね)
まだ弱い異世界人に上下関係を叩き込んで、分からせる必要がある。
故に、騎士の中でも屈強の者を20名選び、威圧的にいったのだが……。
「ちょっと待った!!!!」
突如現れた異世界人が、王女の目論見を一瞬で打ち砕いてしまった。
一見、何の取柄もない小柄な少年。
しかしその目には、怒りが燃え盛っており、自分たちの権利を守るためには死をも厭わない、という強い決意が感じられる。
威圧してやろうと、騎士に槍を突きつけさせてみるが、少年は全く怯まない。
それどころか、「さあ、殺せ!」と言わんばかりに睨みつけてくる。
バカンス王女は動揺した。
こんな気骨のある若者がいるなんて、想定外だ。
殺すなんてもちろん出来ないし、かといって謝る訳にもいかない。
引くに引けない状況に、彼女は完全にピンチに陥った。
(ど、どうしましょう)
背中に冷たい汗がダラダラと流れる。
そして、考えた末、彼女は決めた。
ここは全力で誤魔化そう、と。
(方向転換、それしかありませんわ!)
彼女は息を吸い込むと、朗らかに笑い始めた。
「おほほほほほ!」
王女の突然の高笑いに、会場中の全員がポカンとした表情をする。
勢いで押し切るしかないとばかりに一頻り笑うと、王女は生徒たちに王族スマイルを向けた。
「その死をも厭わぬ勇気、それでこそ異世界勇者ですわ! 私たちは貴方たちを歓迎いたします!」
会場に「えぇ……なにそれ……」といったような戸惑いのざわめきが広がった。
** *
王女の突然の宣言に、太一は戸惑った。
死ぬ気満々だったのに、殺気立っていた雰囲気が霧散してしまった。
(もしかして、これはもう死ねないってことか?)
クラスメイトたちが、
「よかった」
「脅かさないでくれよ」
と言っているのを聞きながら、せっかくのチャンスだと思ったのに、と、がっかりする。
その間、王女が鎧男たちを壁際まで下がらせた。
そして、階段を降りてくると、太一ににこやかに話かけてきた。
「貴方がこの集団のリーダーかしら?」
太一は慌てて目を逸らしながら両手を胸の前で振った。
「ち、ちち、違います。……ええっと、その、リーダーは吉川君……デス」
『思い切りが良くなる』というスキル効果が消えつつあるのを感じながら、何とか声を絞り出す。
王女が「そうですのね」と意外そうな顔をすると、声を張り上げた。
「ヨシカワクンなるものはいるかしら?」
「……はい、俺です」
クラス委員でありサッカー部副主将の、吉川涼が前に出てきた。
それと入れかわるように、太一は気配を消しながらそろりそろりと後退し始めた。
このまま前にいたら、代表みたいな扱いを受けてしまう。
それだけは避けねばならない。
(時は満ちた、撤退だ)
幸いなことに、皆安堵しているせいか、誰も太一が後退していることに気が付かない。
そして、彼が無事に一番後ろ端の定位置に到着すると、王女が朗らかに口を開いた。
「色々と説明して差し上げたいところですが、皆様お疲れでしょうから、ひとまずお部屋にご案内させていただきますわ」
「それはありがたいですが、……私はあなたたちを信用していいのですか?」
慎重な吉川の言葉に、「もちろんですわ」と王女が真剣な顔でうなずいた。
「わたくしの名誉にかけて信用してもらってかまわないですわ」
「……そうですか」
吉川がくるりと皆の方を振り向いた。
「どうする? みんな」
みんな、コソコソと相談し始めた。
一番後ろにいる太一は、気配を消してその様子を見守る。
やがて何となく話がまとまり、吉川が王女に言った。
「では、最初に部屋への案内をお願いいたします」
「ええ、わかりましたわ」
王女が合図すると、紙を持った文官らしき男性とメイド服を着た女性20名ほどが現われた。
「それでは皆様をお部屋にご案内いたしますが、想定より人数が多く、申し訳ありませんが相部屋をお願いしたいと思います」
生徒たちが顔を見合わせた。
「相部屋の方が安心だよな」
「うんうん、そっちの方がいいよね」
といったポジティブな声が上がる。
太一はゲンナリした。
相部屋ということは、ペアを組むということだ。
正にボッチの天敵じゃないか!
(……ん? でも、待てよ)
太一のクラスは、男子16人、女子15人の31人だ。
部屋はさすがに男女別だろうから、
【男子】16人÷2人部屋=8部屋
【女子】15人÷2人部屋=7部屋 あまり1人
こんな感じで、冷静に何度も計算して、太一は胸を撫でおろした。
(良かった……、1人あぶれるのは女子だ)
異世界でいきなり1人あぶれるとか、ちょっとキツイよな、と安堵する。
(誰と同室になるのかな、小倉君あたりかな)
そんなことを考えていると、文官の男性が声を張り上げた。
「では、3人同室でお願いします!」
(…………は?)
太一の頭が高速回転し始めた。
【女子】15人÷3人部屋=5部屋
【男子】16人÷3人部屋=5部屋、あまり1人
……あぶれるのは男子だ!
そして、案の定
「1人部屋になります」
3つベッドが並ぶ広い部屋にポツンと案内され、彼はガックリと膝をついた。
「や、やっぱりこうなるのか!」
彼は心の中で決意した。
絶対にさっさと死んで、さっさと日本に帰るぞ、と。
本日はここまでです
お付き合いいただきありがとうございました!
また明日!
良かったブクマしてくれると嬉しいです!
ちなみに、ナーロッパ王国というのは、国名です