02.チャンス到来に意気込むボッチ vs 偉そうにしたい王女(1)
神様と別れてしばらくして、
気が付くと、太一は知らない場所に立っていた。
そこは広々とした白い石造りの建物の中で、見上げると、天井は高く、どこか荘厳な雰囲気が漂っている。
(大神殿って感じだな)
周囲を見渡すと、クラスメイトたちが興奮気味にしゃべっていた。
「うわ! マジで異世界召喚されちゃったよ!」
「ここって本当に異世界なのかな?」
ちなみに、太一のクラスの人数は、
男子16名、女子15名、合計31名のだ。
ぱっと見、誰も欠けていないようだから、全員まとめて召喚されたらしい。
中には、職業やスキルについて話している者もいる。
「お前、職業何にした? 俺は聖騎士にした!」
「おお、かっけーじゃん。俺は魔術師、特典スキルは『魔力量超向上』だ!」
「わたしは錬金術師にした! 昔から憧れてたんだ!」
そんな会話を聞きながら、太一は思った。
なんだよ、そのチートっぽい職業は、と。
自分が提示された職業リストには、1つもそんな職業はなかった。
(くそっ、陽キャはこんなところでも優遇されてしまうのか?)
半ば不貞腐れつつも周囲を見回し、ふと気づいた。
(そういえば、召喚してきた奴らってどこにいるんだ?)
ボッチゆえ、友人とのコミュニケーションに気を取られない分、彼は冷静に周囲を観察していた。
そして、低い階段の上に大きな扉を見つけ、それが怪しいと考えていたその時。
バタンッ!
突然、扉が開いて、鎧を着た屈強な男たち――恐らく騎士がゾロゾロと入ってきた。
*
ゾロゾロと入ってきた男たちを見て、生徒たちは軽く目を見開いた。
その数は20人ほどで、ギラリと光る槍や剣を持っている。
日本では見慣れない物々しさに、誰もが口を閉じる。
そんな中、1人の金髪碧眼の美しい女性が悠然と現れた。
マリー・アントワネットっぽい豪華なドレスを着て、ジャラジャラと宝石を身に付けている。
ふわふわの扇を持っており、ツンと澄ましているその様子は、まるで悪役令嬢のようだ。
彼女は、階段の上に立つと、偉そうに生徒たちを見下ろした。
「よく来ましたね、異世界の勇者たちよ」
そして、傲慢そうに顎を上げると、声を張り上げた。
「わたくしはこの国の第1王女バカンスです。これから貴方たちは我々に服従してもらいます!」
王女の突然の言葉に、生徒たちの間に動揺が走った。
「なによあれ?」
「どういうことだ? 俺たち勇者じゃないのか?」
話が違うじゃないか、とざわめきが起こる。
王女は、鼻を鳴らしながら馬鹿にするような態度を見せると、片手を軽く上げた。
それを合図に、騎士たちが生徒たちを取り囲み、厳しい顔つきで槍を構えた。
「ひっ!」
「きゃあ!」
生徒たちから怯えた声が上がる。
そんなものなど意にも介さず、王女が横柄に口を開いた。
「逆らうことは許しません。もし逆らうようなことがあれば……、」
王女がパチンと指を鳴らすと、鎧男たちが無言で槍を生徒たちに向ける。
「……っ!!!」
物騒な刃物を向けられ、息を飲む生徒たち。
女子の何人かがシクシクと泣き始めた。
「帰りたい……」
「こんなの無理だよ」
男子も怯えながら後ずさりをする。
絶体絶命のピンチに、誰もが異世界など来なければ良かったと絶望していた、
――そのとき。
「ちょっと待った!!」
後方から叫ぶような声が聞こえてきた。
その場にいる全員が、ビクリと肩を震わせて声の方向に目をやると、そこには小柄な男子生徒(太一)が立っていた。
瞳を怒らせ、すごい勢いで王女を睨みつけている。
生徒たちは驚きの目で彼を見た。
「……ええっと、あれ、誰だっけ」
「南野じゃなかった?」
「いや、東田だろ?」
見たことはあるけどよく知らない生徒の登場に、戸惑いの声が上がる。
そんな声を物ともせず、男子生徒は生徒たちの間をズカズカと歩き始めた。
驚くような視線も、突き付けられる槍も全く意に介さず、一番前に突き進んで行く。
そして、仁王立ちになって王女をキッと見上げると、ビシッと指を突きつけた。
「おい、お前! ふざけんな!」
「え、ええええええ!」
男子生徒のあまりに大胆不敵な言動に、生徒たちは思わず驚愕の声を上げた。
「あれ危ないよね」「あいつヤベーだろ」という声が上がる。
王女と騎士たちも動揺を隠せない。
そんな中、男子生徒が王女を睨みつけながら叫んだ。
「勝手に呼びつけておいて、なんだその態度は!? 自分たちで魔王を倒せないクセに、偉そうにしてんじゃねえよ!」
*
遡ること1分前。
王女が登場して、誰もが怯えおののく中、
我らが主人公・南田太一は、1人明後日の方向に思考を巡らせていた。
(もしかして、これって、ものすごいチャンスじゃないか?)
彼の頭の中のロジックはこうである。
――――
みんなのために抗議する
↓
生意気だ!
↓
見せしめに○される
↓
最強!
↓
魔王をソロで倒す
↓
日本に帰還!
――――
(キタコレ!)
太一は思わずガッツポーズを決めた。
このタイミングで抗議すれば、間違いなくクラスメイトたちのためになるし、死ねば最強になって魔王を倒して速攻帰れる!
彼は、壇上でふんぞり返っている横柄な王女に、感謝の目を向けた。
召喚から10分でこんなチャンスをくれるなんて、あいつはなんていいヤツなんだ。
(……よし、やるぞ)
緊張で汗ばむ手をギュッと握り、気合を入れるように息を大きく吸い込むと――
(……っ!)
突然、胸の奥に小さな火が灯るような感覚を覚えた。
その感覚は体全体に広がり、どんどん体が熱くなっていく。
(もしかして、これがスキル発動?)
そう思っている間にも、気分はどんどん高揚し、中2病を患っていた時並みの万能感を感じる。
(よしっ! これならいけるっ!)
彼はガバッと顔を上げると、躊躇なく叫んだ。
「ちょっと待った!!!」
いつもなら気になる視線も、今は全く気にならない。
彼は勢いのまま足を踏み出すと、クラスメイトたちの間をズカズカと歩き始めた。
途中で、
「あいつ誰だっけ」
「東田だろ」
という言葉に、心の中で
(南田だよっ!)
とツッコミを入れつつも、一番前に進んで行く。
そして、王女をキッと見上げると、指を突きつけた。
「お前、ふざけんな!」
「勝手に呼びつけておいて、なんだその態度は!? 自分たちで魔王を倒せないクセに、偉そうにしてんじゃねえよ!」
そして、驚きと怒りの混じった表情を浮かべる王女を睨みつけながら、心の中で叫んだ。
(さあ! 殺れ!)