表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/33

02.チャンス到来に意気込むボッチ vs 偉そうにしたい王女(1)

 

 神様と別れてしばらくして、

 気が付くと、太一は知らない場所に立っていた。


 そこは広々とした白い石造りの建物の中で、見上げると、天井は高く、どこか荘厳な雰囲気が漂っている。


(大神殿って感じだな)


 周囲を見渡すと、クラスメイトたちが興奮気味にしゃべっていた。



「うわ! マジで異世界召喚されちゃったよ!」

「ここって本当に異世界なのかな?」



 ちなみに、太一のクラスの人数は、

 男子16名、女子15名、合計31名のだ。

 ぱっと見、誰も欠けていないようだから、全員まとめて召喚されたらしい。


 中には、職業やスキルについて話している者もいる。



「お前、職業何にした? 俺は聖騎士パラディンにした!」

「おお、かっけーじゃん。俺は魔術師ソーサラー、特典スキルは『魔力量超向上』だ!」

「わたしは錬金術師アルケミストにした! 昔から憧れてたんだ!」



 そんな会話を聞きながら、太一は思った。

 なんだよ、そのチートっぽい職業は、と。

 自分が提示された職業リストには、1つもそんな職業はなかった。


(くそっ、陽キャはこんなところでも優遇されてしまうのか?)


 半ば不貞腐れつつも周囲を見回し、ふと気づいた。


(そういえば、召喚してきた奴らってどこにいるんだ?)


 ボッチゆえ、友人とのコミュニケーションに気を取られない分、彼は冷静に周囲を観察していた。

 そして、低い階段の上に大きな扉を見つけ、それが怪しいと考えていたその時。



 バタンッ!



 突然、扉が開いて、鎧を着た屈強な男たち――恐らく騎士がゾロゾロと入ってきた。




 *



 ゾロゾロと入ってきた男たちを見て、生徒たちは軽く目を見開いた。

 その数は20人ほどで、ギラリと光る槍や剣を持っている。


 日本では見慣れない物々しさに、誰もが口を閉じる。


 そんな中、1人の金髪碧眼の美しい女性が悠然と現れた。

 マリー・アントワネットっぽい豪華なドレスを着て、ジャラジャラと宝石を身に付けている。

 ふわふわの扇を持っており、ツンと澄ましているその様子は、まるで悪役令嬢のようだ。



 彼女は、階段の上に立つと、偉そうに生徒たちを見下ろした。



「よく来ましたね、異世界の勇者たちよ」



 そして、傲慢そうに顎を上げると、声を張り上げた。



「わたくしはこの国の第1王女バカンスです。これから貴方たちは我々に服従してもらいます!」



 王女の突然の言葉に、生徒たちの間に動揺が走った。



「なによあれ?」

「どういうことだ? 俺たち勇者じゃないのか?」



 話が違うじゃないか、とざわめきが起こる。


 王女は、鼻を鳴らしながら馬鹿にするような態度を見せると、片手を軽く上げた。

 それを合図に、騎士たちが生徒たちを取り囲み、厳しい顔つきで槍を構えた。



「ひっ!」

「きゃあ!」



 生徒たちから怯えた声が上がる。

 そんなものなど意にも介さず、王女が横柄に口を開いた。



「逆らうことは許しません。もし逆らうようなことがあれば……、」



 王女がパチンと指を鳴らすと、鎧男たちが無言で槍を生徒たちに向ける。



「……っ!!!」



 物騒な刃物を向けられ、息を飲む生徒たち。

 女子の何人かがシクシクと泣き始めた。



「帰りたい……」

「こんなの無理だよ」



 男子も怯えながら後ずさりをする。

 絶体絶命のピンチに、誰もが異世界など来なければ良かったと絶望していた、



 ――そのとき。



「ちょっと待った!!」



 後方から叫ぶような声が聞こえてきた。


 その場にいる全員が、ビクリと肩を震わせて声の方向に目をやると、そこには小柄な男子生徒(太一)が立っていた。

 瞳を怒らせ、すごい勢いで王女を睨みつけている。


 生徒たちは驚きの目で彼を見た。



「……ええっと、あれ、誰だっけ」

「南野じゃなかった?」

「いや、東田だろ?」



 見たことはあるけどよく知らない生徒の登場に、戸惑いの声が上がる。


 そんな声を物ともせず、男子生徒は生徒たちの間をズカズカと歩き始めた。

 驚くような視線も、突き付けられる槍も全く意に介さず、一番前に突き進んで行く。


 そして、仁王立ちになって王女をキッと見上げると、ビシッと指を突きつけた。



「おい、お前! ふざけんな!」


「え、ええええええ!」



 男子生徒のあまりに大胆不敵な言動に、生徒たちは思わず驚愕の声を上げた。

「あれ危ないよね」「あいつヤベーだろ」という声が上がる。


 王女と騎士たちも動揺を隠せない。


 そんな中、男子生徒が王女を睨みつけながら叫んだ。



「勝手に呼びつけておいて、なんだその態度は!? 自分たちで魔王を倒せないクセに、偉そうにしてんじゃねえよ!」





 *




 遡ること1分前。

 王女が登場して、誰もが怯えおののく中、

 我らが主人公・南田太一は、1人明後日の方向に思考を巡らせていた。


(もしかして、これって、ものすごいチャンスじゃないか?)


 彼の頭の中のロジックはこうである。


 ――――

 みんなのために抗議する

 ↓

 生意気だ!

 ↓

 見せしめに○される

 ↓

 最強!

 ↓

 魔王をソロで倒す

 ↓

 日本に帰還!

 ――――



(キタコレ!)



 太一は思わずガッツポーズを決めた。

 このタイミングで抗議すれば、間違いなくクラスメイトたちのためになるし、死ねば最強になって魔王を倒して速攻帰れる!


 彼は、壇上でふんぞり返っている横柄な王女に、感謝の目を向けた。

 召喚から10分でこんなチャンスをくれるなんて、あいつはなんていいヤツなんだ。


(……よし、やるぞ)


 緊張で汗ばむ手をギュッと握り、気合を入れるように息を大きく吸い込むと――


(……っ!)


 突然、胸の奥に小さな火が灯るような感覚を覚えた。

 その感覚は体全体に広がり、どんどん体が熱くなっていく。


(もしかして、これがスキル発動?)


 そう思っている間にも、気分はどんどん高揚し、中2病を患っていた時並みの万能感を感じる。


(よしっ! これならいけるっ!)


 彼はガバッと顔を上げると、躊躇なく叫んだ。



「ちょっと待った!!!」



 いつもなら気になる視線も、今は全く気にならない。

 彼は勢いのまま足を踏み出すと、クラスメイトたちの間をズカズカと歩き始めた。


 途中で、

「あいつ誰だっけ」

「東田だろ」

 という言葉に、心の中で

(南田だよっ!)

 とツッコミを入れつつも、一番前に進んで行く。


 そして、王女をキッと見上げると、指を突きつけた。



「お前、ふざけんな!」

「勝手に呼びつけておいて、なんだその態度は!? 自分たちで魔王を倒せないクセに、偉そうにしてんじゃねえよ!」



 そして、驚きと怒りの混じった表情を浮かべる王女を睨みつけながら、心の中で叫んだ。



(さあ! れ!)






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ