きゅうけつきさん③-吸血鬼の日光浴
「また助けられてしまったな、感謝するぞ」
にっこりと笑顔で、ぐーと指を出す彼女。
なんとか遊びに来た小学生の親戚が、目を離したスキに――ということで誤魔化した。
免許証(笑)のカードはもちろんのこと偽造。
というかほぼオモチャ。
どうもきゅうけつきさんの無知につけこんだ輩がいたそうで。
5万払えば20歳以上と認めらるカードをあげるよ、これできみも酒が飲めるね、と、彼女は居酒屋近くの路地で昨夜言われたらしい。
彼女は喜々としてなんとか稼いだ金を全額渡したそうだ。
雀を鷺と騙すレベルの詐欺だ……
もうはや哀れというかなんというか……
そのことについては彼女、そうなのかと些かの不満の態度を表すだけであった。
「そいつに仕返しとかしないんですか?」
自分でも若干どうかと思う発言だが、一応聞いてみる。
だが彼女はからりと、そういうこともあるーーと返すだけ。
この異常な程の心の広さは始祖故なのか。
それとも慣れっこだからなのか?
彼女の場合……どっちもある気がする。
「…………きゅうけつきさん……他にも色々と質問したいんですが……」
…………まさか昼間に吸血鬼が日の下で、職質を受けてピンチになるなんて、私はいっさい想像していなかった。
吸血鬼は、基本日の光を浴びると灰になる。
紫外線ではない、特別な太陽の光に吸血鬼は弱い。
それは人間による縛りらしい。
吸血鬼と人間が遠い昔、とある戦争をした。
そこで吸血鬼は敗北。
常人百人が束になろうと力及ばないその吸血鬼の強大な力を恐れ、人間たちは或る縛りを設けた。
それが――太陽の光のもとへ出られないという縛りである。
単純なれど強力な縛り。世界の均衡を変化させ、吸血鬼という種に、その特性を人間は付与したのだ。
「どーした、今日はわしは機嫌が良い。陽気な気分になるな、やはり日本の冬のおてんと様の下ではさ。夏は地獄だが、やはり冬は丁度が良い気候だからな。なんでも答えるぞお?」
のだが――あれえ?
河川敷。きゅうけつきさんは太陽の下で、溶けるどころかのんびりとーー羽根を休めていた。




