或る少女の旅③-及んでもないし未遂でもない……はず。
「……いやあの……実は……」
「どうせ、ロクなことじゃないでしょう。なんですか?またまた昨夜に続いて不法侵入ですか?――ああそうね、あなた人間じゃないし無法者だし関係ないんですね?ああ。庭に……いや……部屋に入り込む猫ならぬライオンか………」
…………昨夜?
自分自身の発言に、ちくりと胸をつかえる違和感を感じた。
「おお…落ちついて下さい……」
「何……?落ち着ける状況ですか?そうですね、草原でうさぎが獅子を目の前にして包丁まな板スパイスガスコンロでも用意しろと言うのですか?――本……当っ、またまたまた貴女は何時も何時も私を苛立たせる……!」
「……貴女、昨日の夢の五倍喋りますね!?」
…………昨日の……夢……?
「……………………」
「……に…睨まないで……綾さま……」
そうだ。
何か――を忘れているような。
まるまる何らかの記憶をごっそりと無くした。
この感覚は――そんな違和感に違いない。
「……………何をしに、やって来たんです」
リーリスは安堵の表情。
この、施しを与えて懐いた猫科のような表情がなんとも腹立たしい。
「良かった……本当に…色々と…謝りたくて…………」
……夢魔は、他人の愛情につけ込むことでしか生きながらえない……もの。だから、このつい生物を名乗るものであるならついつい甘やかしてしまいそうな程の、私に見せるリーリスのこの仕草も――そう、であることが当たり前のもの。
――酷い、言葉に形容するならば、偽物。
「……………………」
「……眠っていた私が…この世界にまた足を踏み入れた時……ベス姉様の転生を知って……舞い上がっていて……ちょっと、色々と迷惑をかけてしまって……」
「…………」
ちょっと?
そう、つっこんでしまいたいこの衝動を抑えて話を聞く。
……ん…………?
つっこむ………………?
「ですから昨夜、貴女様の夢にお邪魔して……伝えたかったことが………ありまして。決して……すけべな用事ではなく……!」
すけべ…………!
ひとつ、絡まった紐が解けたような感覚。
リーリスの言う、その、昨夜の夢というものについて。
「思い出した!昨日貴女が私を穢そうとしてきたあの悪夢のことですか……!!」
不思議な夢を見ていたこと。
それが今現在、私が忘れていたことのひとつだった。
「違います……ほんと違うんですよ!!まだ貴女様は精神から爪先まで新品未使用でいらっしゃいますから……!!」
「言い方!どこで覚えたんですかその定型分!」
一拍置いて。
「……え?思い出した……ですか?」
「……そうですよ。忘れていたんです、私。昨日の夢のこと」
昨夜のすけべ未遂は水に流すことにして。
私は一度、リーリスに状態を説明することにするのであった。




