ヤツが来る④-好奇の心は吸血鬼をも殺すのだ
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「しかし……こういう箱は開けない方が良いと相場は決まってますよ。そこらに放っておきましょう」
「って言いながら開けるのな、綾」
「……つい反射で」
その宛名のないダンボールの中に、一冊の古びた本がぽつんと真ん中にあった。その外見には泥や砂など物理的な汚れは見えず、ただしかし風化しているのか、表紙には毛羽立ち、側面に見える紙の束は淡い黄色を見せている。
唐紅の表紙に載せられているのは、ラテン文字と――吸血鬼のイラスト。刻まれているそのイラストの人物の口に、ベスや森さんに有るような異様にふたつ尖った歯が描かれていたため、吸血鬼と私は推定しているのだ。
「これは……?」
「――ふむ?随分と古ぼけした本だの。」
「綾。その本開けるのなら、一応手袋しておいたらどう?ばっちいだろうし」
森さんが言うので、私は台所から取ってきて、手袋をした。が。
「こういうのはそっとしておくのが良い――と言うのは常識です。本なんか開かず蓋を閉じて放っておきましょう」
「って語りながら開くのなあ、綾」
「……好奇心に負けてしまいまして、ね?」
「それで――何が書いてるの?」
「うん……わかりません。アルファベットのようなラテン文字のようなギリシャ文字のような文字達が並んでて……」
「つまりわからんといーことじゃな、見せてみろ」
ベスに向けて適当にページを開く。
「――まさか、な……?」
「どうしました?」
「いや――まあ、わしにも読めんのだが。うん、それには違いない。燃やすなり煮るなりすれば良いだろう」
「――まあ、じゃあとりあえず取っておきましょう。警察にでも届けておけば良いかな……」
「うっ……綾、届けるのは頼むぞ……わし警察苦手なのよな」
「……警察に一体どんなトラウマがあるのよ?」
森さんがベスにそう言った。




