ヤツが来る③-夢の中でじっとしていてくれ
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「――というのが、二時間くらい前のことです。うん」
私はここでひとつ、ため息をついた。大きな大きなため息を。
「うん…………」
地に足がついていない、そんな感覚だった。
いや実際、正確にと言われれば――分からないのだ、自分でも。
暗い空間に自分は在る。
それ故なのか、五感のそれぞれがどうもしっくりと来ない。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、その全てが。
「……ここ、一体どこなんです」
私は目の前のその女に問うた。
「夢――と申しましょうか……♪」
日本人女性の平均以上は、ゆうに越していると目視で確認できるほどの高身長の背丈。肌は白く、その眼は美しい緑色。そして赤っぽく、しかし金色であるその長い髪は――結ばれていない。そして当たり前のように半裸だった、黒い下着が上下だけ。
リーリス。夢魔であり、ベスの妹を自称する女がそこにいた。
「……えぇ…………………………」
数日前とは違い尻尾と角が彼女に付いている。
尻尾は細長く、角は頭にふたつ、そしてそのどちらも真っ黒い。
「ほんとだ……ほっぺた痛くない」
「ふふ――ところでフロイトさんの、とある……大変に興味深い学説をご存知ですか……?」
「あ……ああ、なんとなく知ってますけど」
「夢分析……ユングさんとフロイトさんでそれは異なりますが……フロイトさんはこう唱えました。夢には、性の欲求の不満が現れると……」
「ふんふん」
「とがっているものや突き出ているもの……は男性のごにょごにょな部分で……穴などの凹みは……女性のごにょごょな部分……」
「ふんふん」
「綾さま、武道の構えを取らないで下さいな……♪続けますと、今綾さまが見ているものは……私です、半裸ですけべな格好の私……」
「ふんふん」
「つまり――綾さまは、えっちですけべと言うことに違いないのです――!」
「なワケないでしょ――があ―――ッ!!!」
「やあん♡手慣れてますね……♪一体イク度の……実際に肌を擦り合わせるケイケン…を積めばそう……上手くなるのですか♡」
「うーんアクセル全開ですね貴女。私、貴女を投げて床に叩きつけただけなのに。その勢いのまま私の夢からご退場下さいませんか?」
「ふふふ……お断りします……まだまだ前戯に過ぎませんので……♡」
来ちゃった♡




