ヤツが来る①-綾の家族
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表情に抑揚が無く、つまり殆ど無表情。そこから感情は伺えない。だが…その顔つきは少女らしく、かわいらしい。
黒く長い髪に日本人らしい真っ黒な眼。
その美しい髪は風になびかれ踊っている。
しかしその立ち姿は、精悍そのもの。
そんな少女は、あたりは暗いがしかし、人の通る――午後九時程の東京某所の街を歩く。たまに、ふと止まりながら。
一二月。
――ふわりとしていると、少女はそんな感情を覚える。
クリスマスに向けてなのだろうか?
一二月までとは違い、窓に色彩豊かな飾りをつける家がある。
スーツを着ている人間はどこか皆忙しそうだ。この寒々しい空の下で、まるで汗をかいているかと少女から見ればそう錯覚するくらいに。
そして、そこに親子がいた。
歳はとおに満たぬであろう少女と、金に髪を染めている、両親。
きっと彼女らは家族なのだろうと、思うだけ。
ただ――じっと見ていた。
少女は冬が来るたび思う。
――ふわりとしている。
そして浮いているのは、自分だ。
だからふわりとしていると、少女は思うのだ。
そう思っていた。
少女は自身の恩人と、居候吸血鬼の待つ家へと、足を運んだ。少女がそう意識すると――その足取りは、不思議と確かなものになった。




