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寝不足さんには吸血鬼の膝枕⑥-ほこりまみれ眼鏡は曇る


「しかし――小音、なぜアイドル好きを、私に言わなかったんでしょうか」

「そりゃあ綾が聞かなかったからじゃろ」


木造の高い高い本棚には、漫画がぎっしりと詰まっている。本屋のように整頓されているのでなく、出版社作者タイトルの規則性は殆どない。


床にも炙れたのであろう漫画が高く積み上げられていて、それに隠れていたスペースに絶版になっていた漫画を見つけた時から、どかして毎回チェックするのは私のくせ。


小音には毎回チェックする意味あるの?と良く言われる。

確かに新作はここには入って来ずらいのだろうが――なんとなくやってしまう。


私のひとつの習慣だ。


「そーなんですが……小音、語る時少し恥ずかしそうでしたし。その――何で、恥ずかしそうな顔をするんでしょう?」

「そりゃあな綾。受け入れられるかどうか、怖かったのだろうさ」


脚立の上にベスは立つ。それでも届かない場所に位置している本があるようだ。彼女は脚立がぎりぎり揺れる程度にほんの少しだけ跳ねて――しかし、諦め。私に本を取るよう頼む。


脚立に登りながら私は会話を続ける。ベスにどの本か指示されて、私はつま先立ちで落ちぬよう気をつけながら、その本を取った。

自分より高い位置にある本を取り出す時、ほこりが目に舞って、かゆくなるのも古本屋あるあるだ。


「受け入れ――られる?」

「何を好むか、それとも好まないのか?なんてのは――人それぞれの個性だろう。そして個性は必ず皆。異なるからな、どれだけ似通っているように見えても――必ず」


ほい、と私がベスに本を渡す。ふわふわであろうその金の髪を揺らしてベスは落ち着きなく待っていた。彼女は渡された本をちらとめくって閉じ、また口を開く。


「特にだ。誰を、好きかなんてのは――それが如実に現れているじゃろ。背が高い女のことが好きなものもいれば嫌いなものもいるだろ。そして――共感して貰えないかもしれない。その恐怖は人間であるのなら、もはや本能的に抱えてしまうものだ。大なり小なり、皆持っているものだ」


「小音みたく……人の気持ちが手に取るように分かる人間でも、ですか」

「そうさな。小音はきっとお前が、自分の趣味性癖を受け入れてもらえるなんてことなど、はっきりと分かっていただろうよ」

「そんなものですか」


「それにあいつ、ちょっと戦慄レベルで察しがいいしな……綾の感情の変化など分からないじゃろ普通」

「良く言われます」


「しかしな――うん、綾も少しは、表情で感情を外に出す努力をしてみてはどーなのだ?」

「……良く言われます」


ほんの数秒、沈黙。



「朝の小音の言葉、少しだけ理解できたような気がするぞ……」

「……似たようなことを、良く言われます」

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