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その血を頂けますか-プロローグ⑥


悪とは何か。

人間にとっての悪。


例えば人に暴力を振るうこと。

例えば人に嘘をつくことか?


――例えば、人の血を吸うことか?


***


貴女は、悪い吸血鬼ですか?


その自称伝説の吸血鬼は、私がそう質問すると、動揺しはじめた。


「……そんなことないぞお、わしはいいきゅうけつきじゃぞお」

「……………………」


泳ぐ目、棒読みの声、そして彼女は口笛を吹き始めた。


「……………………」

私は彼女が背中に隠したペットボトルを奪い取った。


「あ――っ!な、何するんじゃーつ!」

「……これ、人間の血ですか?」


そのペットボトルは赤く染まっている。

ボトルの口は固まって赤黒くなっていた。


肩をすくめて吸血鬼がこちらを見る。


「ト、トマトジュース……じゃ……」

「………………」


私が拳銃を隠しておいた右の腰に手を当てると、彼女はいきなり喋り出した。


「わーつ!分かったよ!それは人間の血じゃよー!!!」

「………………?私はメモを取り出そ……」


「あーもー!!吸血鬼が人間の血を吸わずに生きられるとでも思ってんのかこんにゃろー!!!豚の血でも啜ってろってか!?あーどうせ私は家畜以下の化け物で…………」

「落ちついて下さいビンタ」

「ぐべつ」


彼女は落ち着いた。


一秒後、真顔。

二秒後、口が震え、

そして三秒後、泣きだす。


全然落ち着いてなかった。


「…………あーもー殺すなら殺せえ……う……うぅ……そら吸血鬼なんじゃから血は吸うだろ……何を当たり前のことを聞くんじゃ――!!」


…………もしかして、何か勘違いをしているのだろうか?


「………………?人間から血を吸っただけですよね?」

「………………………………は?」


私がそう聞くと、彼女は泣きながら返答する。


「殺さないのお…………?」


こちらを振り向く。

なんかこう、悪事がバレた犬みたいで、……可愛かった。


完全に服従体制の彼女はこちらを恐る恐ると見ていた。


「嬲りません殺しません。私達が取り締まるのは、吸血鬼同士の殺害事件だとか、暴行事件だとか……つまり、人間がどうこうされて動く組織じゃないのです。派手めなやらかしをしやがったら流石に温厚な私達も動きますが」

「……………………よかっ……たあ…………」


彼女はその場にへたり込む。

……とりあえず持っていたハンカチを渡しておいた。


「情けない……我が人生…………二回分くらいの不覚…………」

「………………なんで、こんなに弱いんですか?私が知る限りの吸血鬼の中で一番弱いんですけど?それも…始祖なのに」


「……精神のことか?戦闘能力のことか?身長のことかあ……?」

「全部です、諸々脆すぎて弱いです」

「……ぜんぶかあ……ははは」


私は彼女の腕を掴む。


「…………!?」

「細い…………これ、やっぱり飢えてる吸血鬼の症状ですよね。もっと人間から吸わないと駄目ですよ?」


「人間のお前さんが言うのか……まあ、最低限しか吸えてないからな…」

「……なんで最低限しか吸ってないんです?」


そう言うと、こんな答えが。


「……血を吸っていいって、そう言う人間が全然おらなんだ……やっと今日、ひとりだけ見つけたが……まあ、害がない程度の分となると…ちょびっとしか吸えてない…。貯蓄もボトル一杯分もないし……」


「は?吸血鬼が人間に血を吸っていいかわざわざ聞いてるんですか?それに人の命まで気にしてるんですか……?」

「……まあ、わしのぽりしー?の様なものじゃ。気にするな。」


「………………」

「……どうした?」


「…………あげます。私の血を少しだけ。」


と言うと、彼女はバッと振り向いた。


「あ、直接吸われるのはヤですよ。ほら、舐めて下さい」


私は手持ちのナイフで、慎重に、少しだけ腕にキズを付ける。

丁度ーー消毒液も鞄にある。


「私の血はどうもーー吸血鬼には絶品らしいんですよ。魔力が入ってるからだなんとか」

「…………いいのか?」


「早くしないと全部流れますよ」


彼女はそれを――私の……腕の血を、舐める。

顔が近づき、ゆっくりと、その小さな舌で、血を舐めた。


……なんか、恥ずかしい。

彼女は、いやに艶っぽかった。


「………ひと舐めで魔力がほとんど回復したぞ……本当に魔力を帯びているな……」


その吸血鬼の顔色が、少しだけ良くなったような気がする。

ならまあ、良かったけれど。


「そんなこと言われてもあんまりいい気分はしませんけどね、私は」


「…………お前、優しいやつじゃなあ」


そんなことを彼女は言うので、私はこう返した。


「…………貴女は、優し過ぎますよ」


そしたら、なんか、顔がわかりやすく真っ赤になって――



「……そんなことないもーん!しょ……そんなことないもーん!!」


と、何故か走り出した。


嬉しがっているのか恥ずかしいのか怒っているのか?

察しの悪い私には良く分からない。

ーーあの子なら分かるのかな。



と、そしたらなぜか一旦止まり。



「……あ、あと!ありがとうな――!!」


私は。


「ちょ……今度は気をつけて下さいね――!」


そんなことを言って、彼女は東京の夜の街の闇へ消えていった。


金の髪が――ゆらゆらと、揺れていた。

ご閲覧ありがとうございます。本作を見て頂けること、それは私にとっての執筆への確たる原動力です。


ご愛読頂けるのならば、それは私の創作活動においての最大の喜びです。


ブクマ、評価、いいね、感想、全て本作の大きな後押しとなります。本作がお気に召されましたら、是非とも宜しくお願いします。

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