寝不足さんには吸血鬼の膝枕⑤-ほら、トイレに行きたくなるあの匂い
「しかし……小音がアイドルを好きだとは……」
スマホで調べてみれば――文学少女たちよ。
最初、たちよ……の部分が古めかしいネーミングの名前の人なのかと思ったが、どうやらまるっと女性グループの名前らしい。
ライブハウス?の舞台をかわいい服で踊ったり――シャレおつな――なんかめちゃくちゃでかい野外の公園のセットの上で踊ったり――するらしい。ですよ?
「アイドルって、つまるところなんなのじゃ?」
「芸能人です、つまり芸能の人です」
「うむわからん。小音にまた聞いてみるとしよう」
小音と学校で分かれたあと、雀猫への帰り道。人で賑わう東京夕方の道、学校から職場から帰宅から出勤に限らず、多種多様な人々が歩いている。彼ら彼女らが手に持つものは、ちいさな鞄から大きなキャリーケースまで――幅広い。
ベスは相も変わらずきょろきょろと辺りを見回してはいるが、そろそろ道にも慣れてきたらしく、彼女は私の少し先を歩いていた。
こちらを振り向いて、彼女は私に話しかける。
「そういえば、だ。お前さんにも好きなものはないのか?小音のように、つらつらと早口で語れる程度の」
「そうですね…………」
私は隙間なく並ぶ店の中から――そのひとつを指差す。
「強いていうなら漫画です」
「……コーヒイを飲みながら漫画って、読めるのか?」
「勘違いしてません?喫茶の隣ですよ、隣」
「あ……?ああ古本屋――?けれど小説しか置いていないのではないのか?」
「いや、あそこなら漫画も置いてますよ、格安で」
「ほう――?」
ベスは興味を惹かれたようで、とてとてと本が乱雑に積まれているその入り口へ歩んだ。その古本屋にはーービニール製ののれんがぶら下がっているのだが、果たして意味はあるのだろうかなんていつも考える。
つまりつまるところ、はっきり言ってさびれた雰囲気の古本屋だ。
その店名は『あらすか』と、筆で書いたような文字でそう看板にあった。出張買取歓迎と、電話番号も。
「……なんかけむい……」
きれいなUの字ターンで入り口から帰ってきたベスがそう言う。
古本屋独特の、いつものこのほこりの匂い。
「あるあるですね」
「こーんなとこから本を買うのか?いやに甘いほこりの匂いが……するが」
「古い本で古本、なんだから仕方がないですよ。その分が割引き分みたいなものなんですから――それに私は割と好きですよ」
「この匂いが………………?」
ベスはくんくんとまた匂いを嗅ぐ。
「うむわからん」
「分かるようになりますよ」
「………………なるの、かあ?」
たぶん。
そして私とベスは、その薄いビニールののれんをくぐった。




