寝不足さんには吸血鬼の膝枕③-近眼が友達とかに絶対やられるテスト
さて放課後。
眠かった、一日ずっと眠かった。いつもよりもそれぞれの教科の先生の声がうざったらしく聞こえるし目も痛いし頭も働かない。
「大丈夫〜?綾さん〜?」
担任の先生が声をかけてくれる。
「だ…………大丈夫です…………ほんと…………」
「これ何本に見える〜?」
「…………三本です」
「じゃ――ん。隠してた左指一本足して四本〜」
「……………………」
「やっぱり不調ね綾さん、こんなことしたら、いつもなら私、白い目で一瞥されるのに〜」
「せ…………先生は私をなんだと…………」
「とにかく、お大事に〜早寝早起きが、万病への近道〜。万病ってのは、言い過ぎかもしれないけど〜」
「あ……有難う御座います……お気遣い……」
彼女は、私が唯一まともに名前を覚えている先生だ。
林先生。
優しい……んだけど、変わってる。
だからだろうか、インパクトが強くて覚えてる。
「下の名前は?」
「……………………」
と、小音に聞かれたらこまるけど。
とにかく、いい先生だ。
手をひらひらこちらの方に、彼女は教室を後に職員室に向かった。
症状がここまでだと――最近魔力を消費し続けているのが原因かもしれない。ベスに確か三回、吸血による魔力の譲渡を行ったはずだが――その三回で予想以上に魔力を失っていたのだろう。
魔力を持つ人間がそれを消費しすぎると色々と体に不調が起きる。
その貯蓄がゼロに近づくにつれて――ぼおっとしやすくなったり、体調を崩したりもし易くなる。
「そしてゼロに近くなったら、気絶状態になる。身体が自動的にそうする――らしい、んですよね」
「大丈夫なん?」
最後の時限の授業が終わったばかりの夕の教室は、どこか皆浮足立っている。明日が土曜日で学校が休みだからというのもあるのだろう。皆んなの行動は様々で、お喋りしていたり部活に向かったり、あるいは勉強をしている生徒もいた。
そして私たちは――三人集まりお喋りだ。
「ま――安静にしておけば回復する。体調が悪くなるのも、急激に失った魔力を回復する為じゃからな。吸血鬼には出来ない、人間の特権ってやつだ。魔力持ちの人間限定だが」
「―――そういやなんで、魔力を持ってる人と持ってへん人間に別れとるん?魔力持ちのうちのお姉ちゃんは知らんと言うとったけど」
「さあ。私も知りませんし―――そもそも私、魔力を持ってるって自覚があんまりないんですよね……」
「魔法が使える訳でもあらへんしな、綾ちゃん。引くレベルで足は速いんやけど。50メートル五秒くらいやなかった?」
「もっと出せますよ、たぶんあと二秒分くらいは」
「分速60キロ……怒らせたらアカンな」
「綾って怒るのか?」
「私の魔力をメイド服を縫うだとかで無駄に使う人には怒るかも知れませんね」
「すいま千円」
「時速60キロで引き摺りますよ?」
「ごめんなさい」




