寝不足さんには吸血鬼の膝枕②-友人関係成立難易度MAX
「これが朝帰りっちゅーやつ?」
小音は楽しそうに歩きながら、私とベスに冗談をかける。
暦は十二月。具体的には小音がうちに泊まりにやってきて、一泊を終えた直後。
「ふふ。朝帰り……か。一体誰が何をシたんじゃろーな?」
「私達皆でお片付けや、具体的には二十時五分まで。あとは森はんの治療やな」
「はは!事実じゃ………………がくり…………」
時刻は午前六時、曜日は金曜日。
いつもの鞄を抱えて、冬独特の空気感のある、外に出た。
いつもよりもだいぶに早く学校に行く。これも小音の生活リズムに合わせてのことだが、夜型生活をくるくると回している私にとっては辛い。
森さんは怪我の再生で体力を消費したので休養中。
吸血鬼なので、大事という怪我でもないが、いかんせんだいぶ精神的にやられているらしい。森さんは修理費に、血だらけの頭を抱えて項垂れていた。
森さん曰く、変な使い方をしない限り金には困らないくらいには貯蓄はある。らしい。
もちろんのこと雀荘雀猫も臨時休業だけれど、一応今日は平日。殆ど誰も来やしないだろうし関係はないだろう。
最近の森さん、何故か雀荘の営業に熱心な気がするから少し心配だったし……休ませる一点、その点ではむしろ丁度良いのかもしれない。
ただし店の備品と引き換え……となると勘弁してほしいが。
「綾ちゃん、いつもの数倍沈んだカオやなあ」
「朝…………なので余計に………………元気が………」
「いっつも元気のない顔だが、それ以上があったのだなア」
「失礼では?」
「お、少し元気になったか?」
はははと、ベスと小音。
しかし本当に疲れた……主に精神的方面で。
「まず半裸のベスを目撃、次に森さんの声なき戸棚の悲鳴を聞いて、ついでに露出狂に泥棒猫あつかいを受ける……あと備品も色々ぶちこわされて……疲れました……」
「リーリスのあのやつ……あそこまでこじれておったかの……?昔も確かにおかしかったが……今と比べれば可愛らしいで済まされる程度じゃったのに……」
ちらり。
「私にその原因を推理しろやなんて……無理やで、綾ちゃん?」
「さいですか……」
この間、数秒の沈黙。
「待てよ?どういうそれで綾と小音、ちらっと見ただけで会話が成立するのだ……?」
「小音は察しがいいですから」
「そういう次元か!?」
「はははベスちゃん。無口な綾ちゃんと会話するには、これくらい必要ってことや」
シツレイな。
と反論しようと一瞬思ったけれど、事実なのでやめた。
「例えば今綾ちゃんがシツレイな、って思ったのもお見通しや」
「バレました?」
「綾ちゃん顔以外は分かりやすいのよ、だから分かるで」
そしてまた、数秒後。
「…………わかるかあ!?」
ベスがそう漏らした。




