表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/87

自称、姉妹百合の女⑩+③-芽生えた?


「……では…決まりと……」


と、リーリスが言った瞬間。


「……悪いなリーリス。その話は断ろう」

「……え?…………ねえ様?」


私が予想もしていなかった答えが、ベスの口から出てきた。


「ベス…………?」

「ま――吸血鬼の力など、この世界では時代遅れの産物。手放すことに後悔など無いし――そんなものは最早どうでもよいよ、わしにとっては」


さらにベスは、リーリスに向かって言う。



「それにな―――放っておけん娘が、一人いてな?」


ベスはこちら側を見て言う――


「ほっとけない娘――?どじっこの森さんですか?」

「綾ちゃん素面で言うとんの!?」


「え――私のことなんですか?」


「あーもう誰でも良いっ!だからまあリーリス。その気遣いには感謝するが――わしはここに残る!」


ベスは、そう高らかに告げる。


「ベス………………」


なぜ、ベスが残るのか。

そのわけを完全に推測する察しの良さなんてのは私にはないし、考えるつもりもない。私にとっては、どうでも――良いことだ。


「………………嬉しいです」


けれどその宣言は、私にとってこれ以上ないくらいに――嬉しい言葉だった。


それは、何故だろう。

兎にも角にも、嬉しかった。



「こ…………………………………………………………」

「…………っ!」


そうしたら……リーリスが拳を握りしめてそこに立ち尽くしていた。このエリザベス大好き露出狂、もしやベスを力ずくにでも――連れて行く気なのか――


今持っている唯一の武器は――ベスに血を分ける時に使ったナイフ!……夢魔相手の戦闘に、これで役に立つわけがない。これで人間以外を相手するには酷く荷が重――



「こンの………………泥棒猫――――――――!!!!!!」


すると、リーリス。

途端泣き出し走り出す。


向かっているのはベスの方でなく――ドアの方だ。


「ちょ――え?」

「ぶぇッ――――――――――!!」


リーリスの目の前に立っていた森さんをふっ飛ばし、ついでに麻雀の自動卓ひとつを薙ぎ倒し、脇目も振らずドアへ。森さんはくるくると回転壁にぶつかり止まる。ぐしゃりと音がしたのは気のせいにしておこう。


じゃらじゃらと麻雀牌の散らばる音がして、内蔵されていた牌はカーペットにばらばらと落ちた。


そしてリーリスは、外開きのドアを思い切り内に開き――逃げる様に出ていった。


窓から、ここより二階下の高さの道路でリーリスは狂ったような速さで走っていた。彼女と並走している――あの黄色の小さい車よりも、リーリスは早かった。


空を見上げれば――もう黄昏のオレンジ色でなく、暗めの青色が覆っていた。

私は外から――視線を、魑魅魍魎と化したこの部屋に移した。


ベスは呆気にとられて凍りついたようになっていて、小音は麻雀牌の後片付けに勤しんでいて、吹っ飛ばされた森さんは血だらけで横たわっている。


一同沈黙。

血が飛び散り、部屋はまるで殺人現場のような状態だ。


ここが人で賑わうような人気雀荘じゃなくて助かった。

人に見られたら即通報ものだ。



「…カーペットが赤くて良かったですね……血がしみになっても目立たない……」

「そ…そう……さな…………」



「絶対気にするとこそこやない――!」

「修理費…修理費が………………うう………」


森さんはうめいた、心から。


ひん曲がった、雀荘の錆だらけのドア。

基盤のようなものがはみ出した児童卓。

ついでに血だらけの壁と麻雀牌とカーペット。

あと壁は軽く凹んだ。


「ねえ小音……被害額はどのくらい?」

「………………ごにょごにょ額は行くやろうな…………」



……今月の小遣いの額については覚悟しよう。

どころか明日のご飯についても考えなくては……


なんかもう、私は半笑いだ。

笑うしかない。


「本当…ベスといると、退屈しませんね…………」

「………………すまん……うちの愚妹が…ほんとすまん………」


ベスが麻雀牌を片付けながら、そして頭を下げながらそう言った。


リーリス、ベスをねえ様と慕う夢魔。

嵐のような人……いや夢魔…だった………………。

予想以上に長くなりましたね…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 泥棒猫w 森さん修理費が大変なことに笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ