その血を頂けますか-プロローグ⑤
「先程、貴女は危ない状態でした。私があの少年の吸血鬼を殺していなければ、貴女は死んでいたでしょう」
その女、というか少女は言う。
黒髪に赤黒い……制服?のようなものを中に着ており、異常に丈の長い……コート?を上に着ている。右の腰には、小さな膨らみがあり、何かを仕込んでいることだけは分かる。
「――まさか、儂が目を瞑っている間……その数秒で、お前が少年の吸血鬼を倒したのか……」
ほんの数分前。わしが襲われていた時で、具体的にはナイフを振り下ろされたその瞬間だ。
文字通りに風を断ったのではないかと疑う程の、そのくらいの大きな音がしたのだ。少年のナイフは地面に、カタンと音を立てて落ちた。そして、この少女が儂がを見下ろしていた。
少年の吸血鬼は殺されたことにすら気づいていなかった。少女の右の手には拳銃が握られていた。たった一発、正確無比に心臓の一点を撃ち抜いたから吸血鬼は声すら上げなかったのだろう。
その身体は、死ねば皆等しく吸血鬼は皆例外なくそうなるのだが――灰となって消えた。
「そうです。この少し前にも一匹いましたが、殺しておきましたので残党にはご心配なさらず、どうぞ」
カラりと、なんでもない事のように少女は説明する。
「……強くない?」
そう言うと、少女はムフーと胸を張る。
その姿は――その。猫のようでかわいらしい。
「――私は、秋葉原綾。といいます。悪性吸血鬼の取締り実行役を任されています。」
「……組織があるのか?」
「そうです。日本では『吸血鬼殺し』と呼ばれていますね」
……到底組織の名前とは呼べないようなそのまんまのネーミングだが、ツッコむと話が進まなそうなので、控える。
「そして私が質問するのはひとつです。たったひとつ。」
少女は続ける。
「――貴女は、悪い吸血鬼ですか?」
そう、綾と名乗る少女は言った。