自称、姉妹百合の女⑥-燃え尽きた身体に魔力が染み渡る
「……じゃあなんで……森さんが縛られてるんですか!?」
「せやせや。私もそれは気になるわ」
もう揺れてはいないその白い戸棚、女はベスを床に残してそこに向かう。真っ赤なカーペットの床に、横たわるベス。
「ベス…………」
私がベスのもとへ向かって彼女を見ると――ベスは……なんかこう……精魂尽きたみたいな感じになっている。腕はだらんと力が入っていないし、顔なんかより白くなっている。というか青い。
……死んでないよね?これ。
「――ああ……綾…うん……色々説明したいから……血を……下さい………あと一応、リーリスは敵じゃない………一応……」
「あ、ああ……はい」
生きてた。
「これじゃまるでゾンビやなあ」
「わしは……腐っと……らん……」
小音への、彼女の力のない反論から、色々……吸い取られたのだろうというのが伝わる。ベスは吸血鬼だのに、しかしてあの夢魔……些かストライクゾーンというのが広すぎないだろうか。
というより、一応敵ではない。引っかかる。
その言葉の裏を考える――が、其れよりも先にやるべきことがあるか。
――私は消毒液とガーゼ、そしてナイフを自分のカバンから取り出す。血を彼女に分けるために必要な道具だ、衛生管理はしっかりと、というのが森さんの言葉。
ナイフを消毒してから、左腕の皮膚に少しだけそれを食いこませる。微妙に痛いし数日傷も残るし、私の精神的に色々と怖いからできる限りやりたくないが、この状況だと仕方がない。
それに、彼女になら――彼女にだけ、血を分けること。
何故だか、嫌ではない。
近頃、そう思うようになったのは何故だろう。
「……とりあえず、舐めて下さい」
「助かる……………感謝じゃ…」
いや――それは後で考えよう。
私はこの人のことを、未だ何も知らない。
あの満月の夜に出逢ってから。
職質される幼女の姿、始祖の『分け与える』魔法、エリザベス・ルチア・クラークという名前にベスというあだ名、そして――この人をお姉さまと呼ぶ半裸の女。
彼女と出会って――そろそろ一週間。
「……退屈しませんねえ、ベスと居ると。」
「はん……それはお互い様じゃて……」
魔力を回復し、乱れていた息を整えたベスはそう言う。




