血を吸ってもいいですか-プロローグ②
青白い雲に覆われた、夜空を見上げる。
命の終わりとは、こんなにもあっけない。
看取るものなど当然側にはいない。
どころか、処刑人がそこにいる。
「――あんたが、吸血鬼の始祖?」
少年の声をしたその吸血鬼の顔は、こちらを見下し笑っている。
「ふん、もう、好きにしろ」
投げやりに言う。
「そんな顔しないでよ。いやね、信じられなくってさ。こんなに弱いの?始祖って、ぼくのご先祖みたいなものじゃない」
「…………………………」
「ま、嘘だろうが真だろうが。ぼくにはどうでもいいんだけどね。どっちにしても殺す、し。」
「好きにせよ、と下したぞ?わしは」
言葉に一瞬だけ、相手はひるむ。
「その気迫、そしてその赤の目……始祖……」
「……何千じゃろなあ?封印されて、それが解けたと思えば、極東の……日本とかいう島国にいたという……」
「ふ……ふふふ…あ…ははは!」
その吸血鬼は、右手に儂の血が付着したナイフを構えた。
文明が発展すれば、魔法も進化するのはたしかな摂理。
それについていけない生物は、例え伝説と呼ばれていた、始祖なる吸血鬼でも、無様に死ぬしかない。
「現代の魔法をやけに使ってこないと思ったよ!運命はぼくに味方してくれてるみたいだ!」
「血をーー奪うつもりか、貴様」
「気に食わなそうな顔だねえ!けどさ現代じゃ、老人はさっさと死んで、若いものに後を託すのが良しとされてるんだよ。だから……」
はあ。なんだってこんなカスで、小物の吸血鬼に血を吸われなきゃならないのか。
「……死ねっ!僕の為に、死ね!!死ね!!」
奴は儂に向けてナイフを振り下ろし――
ゆっくりと、ゴミだめの中で、儂は目を閉じた。
一秒。
二秒。
……おかしい。
自分の血が、流れ出る感触が無い。
痛みに鈍い吸血鬼の身体でも、致命傷となりうる痛みを感じない程には鈍感ではない。
三秒目、目を開けると、そこにやつは居なかった。
奴は灰と化していた。