働けきゅうけつきさん④-彼女は吸血鬼
「……悪いな。気を使わせてしまっての」
「森さんに感謝して下さい」
確かに仕事はない。が、治安を守るためという名目で、私に森さんからパトロールの命令が下された。
きゅうけつきさんは助手として。
やるべきことはーー要するにきゅうけつきさんの護衛である。
昼はともかくとして、この街の夜は確かに……少し危険だから。
「あの人は気がきく人なんです」
「だろうな。居候させてもらっている恩もある。――だから香登にちいと、礼をしたくなったのよ」
「礼?」
「まあ――それは、さぷらいずというやつじゃ」
「もったいぶらないで、私には教えて下さいよ」
「だから、さぷらいずと言っとるじゃーろ♪」
機嫌が良い……?のだろうか。
メイド服で、きゅうけつきさんは夜道を跳ねる。
街灯が彼女を照らしている。
ネットで調べれば、この日本人として見慣れたメイド服は、ヴィクトリアンという種類のものらしい。
ちょっと着てみたい気もする。
「わしはな、香登という吸血鬼を始祖として誇りに思うぞ。あのような優しさを、そして機転の良さを持つ吸血鬼を、わしはついぞ見たことがなかった」
「人間から許可取って血を吸う吸血鬼が何言ってるんです」
「…………ま、そーじゃな……」
「………………?」
跳ねるように進んでいた彼女は、急に態度が落ち込む。
……私、何か気に触ることでも言ったのだろうか?
「ああ、いやまあ。本当に香登は気持ちの良いやつなのじゃよ。まず匂いで分かる」
「……それは――はい、分かります。」
森さんは、いい人なのだ。
いや人ではないけど。
私の保護者代わりとしての彼女とは、長い付き合いになる。吸血鬼ゆえの苦労もある筈だが、それでも私に対して気を使ってくれていることくらい、察しの悪い私でも分かるのだ。
「私も――誇りです。彼女が」
「それに――チョロそうじゃし」
「え?何ですて?」
「すまんすまん冗談じゃから!その銃を降ろせ!」
「はーい」
平和的関係を築きましょうね。




