きゅうけつきさん⑦-名ばかりグランドマザー
「貴女が……綾が言ってた……吸血鬼の――始祖さん?」
その女からは、派手な赤色の服が目立つ女――という、第一印象を受けた。
女の髪は上手く精巧に編まれている、解けば長い髪が表れるであろう。どこか青いその髪の、その前髪の隙間から除く目は緑の色をしている。
つい緑の目を見て、わしはとある知り合いを思い出した。
「いかにも。わしは全ての吸血鬼の始めとなる存在。始祖なるもの。名前はいやに長いから――もう、きゅうけつきさんでよい」
「私も吸血鬼なんですけどねぇ……」
雀猫。すずめねこ、と呼ぶらしいその看板の下の、錆だらけのドアを開けばそこにいたのは吸血鬼。
紅いカーペットが敷かれた床の上に、妙な形をした机がある。綾曰く、麻雀という遊びをするためのものらしい。それが複数個この部屋に並んでいた。
隣に視線を移せば本棚がそこにあった。小さ目の本がいくつも仕舞われている。綾曰く、それは全てが漫画本であり、汚さず、必ず返却するという条件を受け入れるのならば、これは自由に読んでも良いのだとか。
日本の小説などは漢字等々がわしには難読だが、漫画は言葉の意味が理解に易く、わしの好みに合う。この様なわしの全く知らぬ文化に触れるのは心底楽しい。
「帰り道に私が考えました。呼び名は必要でしょう?」
「チープねぇ……見たところ、本当に始祖の吸血鬼よ。と――言うか、私が吸血鬼だから良く分かる……のよね」
「ふふふ、グランドマザーと呼ぶが良いぞ」
「おばあちゃんになっちゃいますけど、それ」
女の歯、ふたつの尖った特徴的な歯は、間違いなく女が吸血鬼であることの証明をしていた。
女はその歯を魔力で隠している様だが、魔力がない人間は騙せても、始祖であるわしには通じない。吸血鬼なんて皆、わしにとっては息子娘のようなものであるし。
「まあ、それでわしは良いし、構わない。して、そこなる女吸血鬼よ。名をなんと言う?」
「私は――――」
そう言って、女は姿勢を正した。
「私は、――森香登。雀荘『雀猫』のマスター兼、東京吸血鬼殺し(仮称)の総長――っっても今は、二人しかいないんだけどね」
「じゃ。かかと、というのか。かかと、よろしくじゃ。」
森香登。
それが女の名前だった。




