犯罪 【月夜譚No.56】
立て籠もっても、何にもならないのは解っている。こんなことをしたところで、望み通りの結果は得られないだろう。だが、ここで引き下がる訳にはいかない。最初の一歩を踏み出したからには、もう後には戻れない。
男は窓際の壁の陰に隠れて、外に駆けつけた警察の動向を窺う。先ほどまでこちらに呼びかけていた拡声器の声は今はない。作戦でも練っているのだろうか。
その時、背後で物音がした。反射的に振り返ると、殺風景な部屋の隅で固まっている数人の少年の内の一人がびくりと肩を震わせた。視線は男が手にしているナイフに釘づけだ。まだあどけない黒い瞳に涙を浮かべて、小さく首を振る。彼が身じろぎをして立てた音らしい。男はさして気にする風でもなく再び外に目を向けた。
震えていた。他の少年達も同様だ。男への恐怖心からか、廃屋に吹き込む冷たい風のせいか――否、両方だろう。彼等には申し訳ないが、もう暫くは我慢してもらおう。この手に枷がはまる、その時まで。