枕元
私の枕元には、小さなふたつきの箱が置いてある。
中学校のとき、技術家庭の時間に彫刻をした、手作りの箱。
少し不恰好だけれど、愛着がわいて、今も手元に、残っている。
私と共に過ごした時間が、長いからね。
これを捨てるなんて、とんでもない!
中には、名刺サイズの厚紙と、ボールペン。
このところ眠りが浅いので、目が覚めたときに、物語のかけらを記しているのである。
起きた時にぼんやり残る、夢の形跡を記すこともある。
…何が物語のかけらになるのか、分からないからね。
ものすごい物語のきっかけになるかもしれないでしょ!
今日も、今日とて。
真夜中三時に、目が覚める。
最近眠りが浅いんだよねえ・・・。
変な夢だったから、メモしようかな。
ぼんやりした目で、箱を見ると。
んー???
なんか、動いてるぞ・・・?
0.03の視力で、ぼんやり見つめる。
良く見えないな。
「これは、まずいやーつ。」
「これは、だめなやーつ。」
んー?!
「これけさないとまずいやーつ。」
「これおもしろいやーつ。」
はい?
「これだいじょうぶなやーつ」
「これうけるやーつ。」
えっ。
「きょうはこれでいいやー。」
「きょうはこれでいいやー。」
ぱたん。
…ぱたん?!
ふ、ふたがしまったよ!!!
しばらく様子を見るも、ぼんやりした視力では何がなんだか???
意を決して、めがねをかける。
箱は、ふたが、閉じられている。
・・・いやまあ、ふた閉じて寝たんだけどさ!!!
ちょっと、心臓が、バクバクしてきたぞ・・・!
ごくり。
のどが、鳴った。
あける、あけても、いい? あけるよ? あけるよぉおおお?!
ぱか。
…乱雑な文字が書かれた厚紙と、ボールペンが入っているだけ。
厚紙を、確認する。
文字を、ボールペンでぐりぐり消したものが何枚かあるけれども。
自分でも良くやるので、それがさっきの声の仕業なのか、見分けがつかん!!
ねえちょっと! 私ダメ出し、されてなかった…?
でも、いいやつもあるとか言ってたような気もする!!!
書きっぱなしでたくさんたまっていたこともあって、枚数がかなり、ある。
…目、覚めちゃったし。
整頓しつつ、見直すか。
私は手元ライトをつけて、厚紙を精査し始めた。
古いものには魂が宿るとか。
愛着を持って使ってると精霊が宿るとか。
そういう類のお話は、なんとなく聞いたことがあるけれど。
本当なのかな?
本当だったら。
本当だと思いたい。
…本当に、してやるよ!!
この126枚の厚紙の中に、三つは! 世に出ていい作品のかけらがあるということ。
塗りつぶされている紙はそのうち18枚。
108枚のなかに!
天下を取れる作品のかけらがあるはずなのよオオおお!!!
私は、108の作品を書き上げることを、決意した。
1日三本書き上げたら。
36日後には、すべて書きあがる。
書きあがったならば。
3本は必ず、注目されるはず!
私の挑戦が、始まった。
それが、四月。
そろそろ、結果が、出てくるころ、なんだけど。
…なんだけど?