開催。
私の方に用事があり、相方より早めの投稿になります。情報量が多いと相方からの指摘もあり、友人からはこんなものとの言葉もあり、どうすればいいんでしょうか。
「お待たせ、シエラ」
アノールの象徴とも言うべき王城、アノール城のとある一室にて。麗しい衣装に身を包んだ銀髪の少女が同じく麗しい衣装に身を包んだ黒髪の少女へと声をかけていた。静かに佇む黒髪の少女はその声に反応するや否やもう一人の少女へと歩み寄る。
これから始まる選別の剣戟。二人はそれに備えて気品を見せる為、気慣れない服を着付けしていたのだ。
「うわぁ…………! アオイ、それすっごく似合ってる!」
シエラが清々しいまでに率直な感嘆の声を上げる。確かにアオイの装いは完璧と言えるほど素晴らしい出来だった。青色を基調に織られたドレス。首元にはアノール家の家紋を中心とする白いリボン。肩から左胸部、左腕にかけて架けられた組紐は鮮血のように赤く、アオイの着るドレスとは対象的なその色はとても艶やかな印象を与えている。全てが全て、最早彼女自身も含めて異質と言わざる負えない空間がそこには存在した。
しかし、それはアオイだけに限った話ではない。無論、シエラの衣装も彼女が相まってとても美しいものを成していた。形態はアオイと同じくビンテージドレス。けれど、シエラのそれは赤みを帯びた黒をしており、アオイの様な組紐は無く、更にはスカート部分には白いフリルが織られている。
衣装を用意したのはアオイの母、そして紛うことなき現国王の妃、リエルリンデ女王だろう。アオイとシエラの衣装の違い。それはリエルリンデ女王が彼女たちに抱くイメージが現れているのだ。
天真爛漫でそれでいて美しいシエラ。
誇りはあれど気高く、可憐なアオイ。
そんな二人から連想したかのようなその衣装は、まるでパズルのピースが埋まるかのように彼女たちに似合っていた。
「ふふっ、ありがとう。シエラも似合っているわ」
「ありがとう。じゃあ行こっか」
「ええ」
シエラの言葉にアオイは一言頷くと、見える廊下の奥へと歩き始める。そんなアオイと並ぶようにシエラも彼女と足並みを揃え、敷かれた廊下の絨毯に二人の少女の足音が波打つかのように鈍くあたりを響かせた。
選別の剣戟。毎年、年に一度程行われ、国家アンデルに生まれたものならばその名を知らない者はいないだろう。それ程までに有名で宗教的な文化。
始まりは初代アノール王が呟いた一言がきっかけだった。
『アノールで一番強いものは誰だ』
強き者が見たいと、陛下はそう言ったのだ。近衛兵長はその言葉を聞くや否や街中の男たちを集めた。無論、参加の意思は自由として。そうして集まった子供を含めずした男たちの人数はざっと千人。この頃に集まった千人だとアノールの街民の約十分の一程だろう。それでもこれ程の人々が自分の力の領域を知りたいと、王城に集ったのだ。流石にこの数から唯一無二の強者を探すには余りにも時間がかかりすぎる。その為兵長は彼らにとある提案を持ちかけた。
それはこの中で争いをしてもらい、最後まで残った一人には莫大な賞金を与えるというもの。
無論、殺し合いではない。負けを宣告するなど、いかなる理由であっても棄権することが出来た。
これが語り継がれる第一回、剣戟である。そしてそれが進化し、ルール等も追加され形となったのが現在に至る選別の剣戟なのだ。
アオイやシエラはそれに参加する訳では無い。あくまで王族として剣戟を見守る観戦側だ。昔は男のみで行われていた行事だが、今では魔法が存在する。その為、女性やましてや子供でさえ才能ある者や力を持つものは幾人か参加している。
しかし、今年度の選別の剣戟には彼女ら二人は参加することが出来ない。魔法、『疾風の詩』による移動であれ程手馴れた動きを見せた彼女たちは通う魔導学院の中でもかなりの好成績を残している。その為、参加したとしても高順位まで行くことは容易いだろう。
けれど彼女たちは今年、選別の剣戟の掟、過去のアノール王が盟約したルールに触れてしまっている。
それはその年に齢十六を迎える王族は参加出来ないというものだ。
地中海性気候の為、四季の巡るアンデルで冬に生まれたアオイとシエラの両者は今年で年齢が十六になる。その為彼女たちには参加権がない。
だからこそ王族として身だしなみを整え、高い位置から剣戟を見守らなければならないのだ。
そして十六になると剣戟に参戦できない理由。過去、アオイの母もそうしてきたように決められた掟。それはその年の選別の剣戟で勝ち残ったものは王女の護衛につくというもの。
現状アオイの母、リエルリンデ女王は婿養子として来た他国の王と婚約し、護衛が必要ない状況である。けれど、かつてリエルリンデ女王の元にもその年の優勝者として護衛の任を授かった人がいた。それがシエラの父であり、現アノールの自衛部隊を統率するマティスと言う人である。
そうして受け継がれてきた十六の年。これから始まる選別の剣戟にて、アオイを支える更には護る責を授かる近衛人が決定する。
「————緊張してる? 」
階段を上り、王室が目に見えてきた所でシエラがアオイに言葉を発した。そんなシエラを流し目にアオイはきつく握った拳で気づかれたのかと少し悔しい表情をする。
「ええ……少しね」
唇を噛み締め、アオイは答える。近衛という近しい関係に見ず知らずの人が任を授かるという事に彼女は居た堪れない不安を抱いていた。
「————ねえアオイ。私のお父さんのこと、どう思う?」
「叔父様……? マティス叔父様はとてもいい人よ。武才があって、優しくて」
「ね? だからアオイも大丈夫。もしも変な人がアオイのお付になったら私がお父さんに言いつけてやるんだから」
確かにシエラの言うことは最もだ。シエラの父は元リエルリンデ陛下の近衛人。詰まるところ過去の選別の剣戟で勝ち残った一人でもある。困ったならば彼女を通じてでも頼ればいい。
シエラの言葉に納得し、アオイは心が落ち着いたのか深く息を吐く。
「そう……ね。ありがとう」
王室の扉にアオイは手をかける。重厚感のある取っ手を掴み、徐にそれを引く。すると開けた景色が明らかになり、そこには窓張りで周りを囲われた如何にも観戦に適した部屋が存在した。
選別の剣戟は王城で行われる。王城に設けられた広くそれでいて何も無い芝生の空間。そこに各々参加者が集まり、剣戟を行うのである。
「お父様、お母様。お待たせしました」
「揃いましたね。二人ともよく似合っているわ」
下を見下ろせる位置に置かれた椅子。そこに腰掛けたリエルリンデ女王陛下が言葉を返す。隣にはアオイの父親、ファドムズ国王陛下とシエラの父親、マティス軍隊長も並んで座っていた。
「ありがとうございます、女王陛下。それとこの度のお招きにつきましても重ね重ね御礼申し上げます」
「そんなに固くならなくてもいいわよ? シエラちゃんは私が誘いたかっただけですもの」
やはり近しいといっても陛下は陛下。王族の系譜にシエラは敬いを見せる。けれど、そのような敬いは不要だったらしい。女王陛下は崩すように朗らかな笑顔をシエラに向けた。
「今年はやはり参加者が多いですね」
アオイは女王陛下の左横に席を置く。そこから見える景色でも剣戟の参加者が伺え、目が届く範囲だけでも二千人は下回らなかった。
無論、それは近衛人選別の日というのが大きいだろう。王族に近しく、神聖な職に志願する機会なのだ。例年より多くの人が集まるのも無理はない。
「————国王陛下、一時を回りました」
マティスが時刻を確認し、ファドムズ国王陛下に告げる。
「ありがとうマティス。では、始めよう」
ファドムズ国王はそう言うや否や徐に席を立つ。そして置かれた装飾目立つ翡翠色の球体に右手をかざした後、言葉を紡いだ。
「写鏡の詩」
国王がそう唱えると、球体が淡く光り始める。そしてその光は一点に集まり、広がると、下に集う集団の姿を映し出した。
————魔具。決められた魔法を行使することでそれに見合った効能を成す道具。その役目は物によって様々で行った魔法を継続させるもの、増強させるもの、はたまた遠方に届かせるにまで多くの能力がある。この部屋に用意された翡翠色の球体も魔具の一つであり、離れた景色を映し出し、見ている者の声を届ける力があった。
「これより第百六十ニ期、選別の剣戟を開始する。ルールは例年通り道具、魔法なんでもありの剣戟戦。ただし、決して殺すことはしてはならない。これだけは守って欲しい」
周りの皆、全て敵という剣戟戦。流石に負傷者は多く出る。その為国王陛下は高度な治癒魔法を携えた医療班を控えさせていた。しかし、高度な治療といっても死は治すことが出来ない。死は病気でも、負傷でもなく、この世との接点が途切れるだけだからだ。万能とまで言わしめ、都市発展の要として世界に広がる魔法。それを持ってしても死した人間を甦らすことは出来ない。
だからこそ、ファドムズ国王は一国の長として銘打った。殺してはならないと。
幸いなことに例年に死者は出ていない。殺したくない者に殺されたくない者。その関係性が高いのか平和主義を掲げたアノールてしては喜ばしい現状だった。
「それでは今より、ここに集いし英雄たちの選別を始める! どうか皆に武運があらん事を————『旋律になれ』ッ!」
ファドムズが言い終えると同時に赤く煙を吐く狼煙が空高くに登る。
————『旋律になれ』。
これは古くから伝わる物事の始まりの合図。昔、誰かが魔法は詩だと言った。技術も知識も今より乏しかった過去に大きな可能性を見出した魔法。それらは神から継承された力なのだと。
だからこそ行使する際は神へ捧げなければならない。歌うことで、奏でることで魔法を行使し、神へと捧げる。脳内に描いた空想をただの一節で現実へと変える詩。
それ故に『旋律になれ』。
携えた刀剣を洗練し、行使する魔法を習得し、見聞きした技術を模倣し、繰り返された剣戟を再現し、力無きものを圧倒し、それらの肯定を成し得てこそ、この選別の剣戟に意味を持つ。
そんな波乱に満ちた剣戟が集う人々の雄叫びを持って幕を開けた。
二度目の紹介になりますが、相方とタグを共有し、作品を投稿しております。相方の作品名は『心打つ波動、何をするHOW DO』です。どうぞご覧悦下さい。




