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姫と詠詩と選別の剣戟  作者: ハイド
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焦燥。

タグを五つほど共有し、友人と小説を投稿しあっております。対方の作者名はジキル。作品名は確か「書かないお前、響かない名前、海の幸サザエ」だった気がします。多分。

もしよろしければそちらの方もご覧悦下さいな。

 

「————ごめ……ん、ね」


 それは余りにも残酷な光景だった。暗がりで倒れ込む少女。そしてその体を抱える少年。二人の周りを囲うように集まり各々武器を携える大人たち。


 全てが全て以上としか思えないような景色の中で命の灯火が今にも消えそうな少女が少年の頬に手を伸ばす。


「セルジュ……。離れないとセルジュも巻き込まれるよ」


「嫌だ! 離れるもんか! カイシャ……まだ助けるから……」


 セルジュと呼ばれた少年は大粒の涙を零し、これまたカイシャと呼ばれた少女の体を強く抱く。傷を負った彼女が助からないということは本能的に理解している。ましてやそんなこと大人たちが許さないということも。


 しかし、いやだからこそセルジュは彼女の元を離れない。それこそセルジュが離れれば彼らの追い打ちが待っているはずだ。


 どうすることも出来ない状況でそれでも彼女の目はだんだん虚ろに染まっていく。


 二人にとっては残酷で。けれど大人たちにとっては満悦で。周りからすれば余りにも非現実的な光景がそこにはあった。


「もう…………。ねぇ、聞いて?」


 カイシャがそっとセルジュの耳元に語り掛ける。


 その言葉を聞きセルジュはカイシャを抱くのを止め、彼女と向き合った。口を発するのもやっとだろう彼女はそれでも無造作に唇を動かし、淡々と言葉を紡ぐ。


「セルジュのこと、私、好きだったよ。何にでも一生懸命で、ちょっと意地悪で、嘘つきで。でも周りのこと一番に心配してて、そんな貴方が大好きだった。けど私……もう一緒にいられないや」


 これから死が待っているというのにも関わらず、それでも彼女は静かにはにかむ。そして彼女は弱々しく身体を起こすと、ゆっくりとセルジュの方へと向き合った。

 そんな気高く凛々しい彼女の様子にセルジュも無理やり涙を拭う。彼女との対話に涙は不要だろう。


「ねぇ……セルジュ。最後に……お願い聞いてもらってもいいかな」


「…………うん……」


 ()()()と、カイシャは強く銘打った。彼女自身も間近に迫る死を実感しているのだろう。

 だからこそ、だからこそ。セルジュは肯定した。

 たとえ彼女の願いがどんなものだったとしても必ず叶える。それが最後に残る二人の繋がりであり、思い出になることは間違いないはずだから。


「セルジュ……絶対に————————」


 力無く目を閉じた彼女はそれから一切動かなくなった。まるで枯れた葉が地に落ちるかのように彼女の命は消えたのだ。


「————————ッッッ!!」


 声にならない少年の慟哭が暗闇に大きく響く。怒りを、悲しみを、やるせない負の感情を。涙とともに吐き出した。

 彼女が残したセルジュへのお願い。

 とてつもなく普遍的で大袈裟な理想だけれども、それでも彼女、カイシャとの約束だから。彼女のお願いだから。絶対に叶えるとそう誓った。


 酷く冷える深夜の世界で残酷に映るその光景は一人の少女の死を持って終わりを迎えた。


 偽善かもしれない。妄言かもしれない。それでも、たった一人残された少年は右手の拳を強く握り締める。

 そして。


「————俺もカイシャが大好きだったよ」


 とても静かな暗がりで少年は淡々とそんな言葉を呟いた。


 ◇◇◇


 大国家、アンデル。大陸の東北に位置し、海流を挟んだ列島方向から吹く風によって年中乾燥したその土地に大きく国土を構える社会主義国家。小国も含めれば二百程もある国の中でも随一を誇る大きさと発展した国家である。


 そんな国家の中央部、セイレム地方にはアノールという都市が存在する。


 アンデルの中でも特に人口が多いアノールの最大の特徴は、国王妃の住まう宮殿が置かれた大陸有数の発展都市という一点に限るだろう。


 魔法学にも精通し、衰えの陰りを一切感じえない街、アノール。乾いた地域で根強く並ぶアシアロの木を素材に作られた特徴的な住居が立ち並び、街ながらも公園のような雰囲気を演出している。それもあってか、街並みの綺麗さや物価の安さから年々人通りが多い。その為、移り行く流行でさえも常に国家の先端に着く、活気溢れる良き街だ。


 刻刻と登る太陽が照らす、そんな町の一角にて。両端に商店が建ち並ぶ街路で二人の少女たちが一様に買い物をしていた。


 一人は深く頭巾を被り、まるで表情や顔立ちを隠すかのように佇む少女。一見、遠目では性別など分からないかも知れない。しかし、頭巾から溢れた肩辺りで二つに結った銀髪に華奢な体。更には年頃の女性というべきか、胸には小振りな双丘が見受けられた為性別は女性で間違いないだろう。


 その一方でもう一人の少女は頭巾をしていない。その為見える表情や顔立ちはとても美しさを醸し出していた。清廉に整ったミディアムの黒髪に、碧眼の瞳。絹のような白い肌がとても柔らかいイメージを与えている。更には頭巾の少女と同じように華奢な体つきがとても可憐。しかきそれでいて美しさも持った————そんな少女だ。


「ねえ、アオイ! これなんてどう?」


 黒髪の少女が頭巾の少女へ言葉を放つ。少女の指した右手の指先には商店のショーウィンドウに飾られた淡い空色のリボンがあった。頭巾の少女、アオイと呼ばれたその少女はその声に反応するや否や、黒髪の少女に歩み寄り、指先を辿るように商品を眺める。


「わぁ、綺麗! 」


 アオイは目を輝かせながら感嘆の声を漏らす。確かに目の先に映るそのリボンはとても流麗に作られていた。青というベース色は変わらないが両端で明度が違う。端から端へ行くにつれて明度が薄くなっており、そしてその明度が変わる瞬間の場所には雫を垂らしたかの様な紋様が浮かび上がっていた。


「うん! これにするわ! ありがとうシエラ。おば様、これを頂けますか? 」


「まいどあり。銀貨四枚だよ」


 アオイは下げたポシェットから銀貨四枚を丁度取り出すと丁寧に店主に渡す。すると同時に、木組みから解いたリボンを布袋に入れた店主がアオイの空いた手のひらに手渡した。


「お嬢ちゃん、実はそのリボンはウイの花で染色されてるんだよ。ウイの花言葉は『純粋な愛』。お嬢ちゃんにもそんな殿方がいるのかい? 」


「………………ッ!? い、いませんよ!」


 店主の年増せた質問に表情こそ見えないが恥じらいを帯びたような声音で否定をするアオイ。そんな彼女の様子に店主、ましてやシエラと呼ばれる黒髪の少女も朗らかに微笑んだ。


「もう……! 行きましょうシエラ」


「ふふふっ、まいどあり〜」


 そそくさと逃げるようにアオイは背を向けて歩き出す。そんな彼女に追いつかんと、シエラは店主に一礼を交わした後アオイの背中を追いかけた。


「〜♪」


 買い物を終え、帰路につく少女二人。アオイはというと店主の言葉に恥ずかしさ等は抱いたものの、良い買い物だったと感じているのか軽快にハミングをしながら弾むように歩いている。


「ねえ、シエラ。今何時頃かしら」


 アオイに尋ねられシエラは左手首に巻いた腕時計を見やり、時刻を確認する。すると、長短針どちらも進行方向。十二時の方向を指していた。


「丁度、正午あたりだね」


「えっ、もうそんな時間!? 急がなきゃ!」


「だね」


 端的な会話を挟み、二人は駆け出す。現在時刻は十二時。彼女たちには丁度一時間後に重大な用事がある。そのため何がなんでも遅れるわけには行かない。


「このままのペースだと間に合わないわね……」


 アオイの住まいはアノール中央部にある。ここからだと走っても約三十分はかかるだろう。その後から支度したのでは確実に間に合わない。


「仕方ない……! シエラ!やるわよ!」


「えっ、でもここ……」


「路地裏だし、人も見えないから大丈夫!」


 そう言ってアオイは立ち止まり、すうっと大きく息を吸う。深い呼吸。それは空気を、酸素を、そして魔力を機能として循環させる第一工程だ。酸素と二酸化炭素が血液を通して全身を巡るように魔力も全身を巡る。そして蓄積された魔力を別のものへと変換させるのだ。


 どうしてかはわからない。しかし、どうしたらいいかは分かる。理由はわからない。けれど、やり方は理解出来る。アンデルの地に生を受けた彼女たちには子供の頃から成し得てきた技術。それを今ここで行使する。アオイは息を吸い終えると同時に大きく、そして高らかな声を上げた。


「『疾風の詩(フロスト)ッ!!』」


 瞬間、一凪の風が少女二人の背中を押した。アオイが唱えた魔法によって無風の空間に形成された追い風。それが彼女たちの背後を吹き荒れる。


「シエラ! 行くわよ!」


「う、うん! 」


 乗るという言葉が正しいのだろうか。彼女たちは足をすくうように背を押す風を力に全速力で駆ける。跳躍は余裕で住居の屋根を超え、走力は雪山に住む獅子と同等を誇る。そんな宙を舞う彼女たちの姿は恐ろしいほど美しく、そして何処か儚さがあった。


 それから十数分程経った頃だろうか。アノールの半ば高いところに位置するアオイの住まいが二人の目に映る。考えでは半時間はかかる程の距離を魔法を使うだけでものの十数分で到着。アノールの特徴である発展都市というのは粗方魔法学の精通が主な理由だ。それ程までに魔法というものは強大で身近なものである。


打ち止め(エンド)ッ!」


 アオイは最後の跳躍をした後、そう唱えた。すると唐突に背後の風がぴたりと止む。魔法とは創り出し、滅するもの。その為使った魔法は自ら解除する必要がある。それが先程彼女が唱えた終わりを告げる言葉なのだ。


 リズムを整えたアオイは失うであろう威力を調整し綺麗に地面へと着地する。丈の短いスカートは勢いによってふわりと靡き、彼女の白い肌を外気に晒した。

 そしてアオイが着地すると同時にシエラも徐に着地。彼女たち二人はまるでこの移動方法を何度も酷使してきたかの様な立ち回りを淡々と見せた。


「ふう……間に合ったね」


 城門の前でシエラは安堵の言葉を放つ。それはこれから始まる重大な用事、選別の剣戟(リーヴィロイヤル)までには間に合う時間を確保出来たからだろう。

 アオイも安堵の念が現れたのか疲れたような息を零す。そして、今まで自宅を出る時から被っていた頭巾を解くとそれを折りたたみ、ポシェットへとしまい込んだ。


 今まで見えていなかったアオイの顔立ち。それが頭巾一つ消えるだけですんなりと顕になる。肩より少し下まで伸びた銀髪に蒼玉に似た青い瞳。そして何処までも少女のようで大人びた雰囲気を醸し出す形姿は見る人誰しもを魅了する。そんな可憐な少女だった。


 しかし、彼女には大きな肩書きがある。選別の剣戟(リーヴィロイヤル)にも大きく関わるそんな彼女の立場。

 ————それはここ大都市アノールの王宮に住まう、国王と妃の娘、詰まるところアノール直々の王女という余りにも少女が背負うには名高い敬称が彼女には存在した。



書き方の変貌はどうやったら治るのだろうか。

あ、相方の作品名「恋と剣の狂詩曲」でした。

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