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Exist  作者: 絃城 恭介
1/6

0~1

0 プロローグ


 世界には未知が満ち溢れている。

 知らなければただ平和に、ただ平凡に、ただ無駄に時間を消費し普通の人生を過ごし人間としてその生を終えることができる。

 それなのに人間は自らの知らない未知を求め、正気を失い、人としての尊厳を亡くし、無様に散っていく道を選ぶものがいるのもまた一つの事実である。

 要するに人間、いや人類はその身に刻まれた一つの欲求、知的好奇心を満たさずにはいられない生物なのだ。

 そんな数億何千万と存在している人類の中の一人、金雀枝えにしだ雲雀ひばりも本来ならば触れなくてもよかった未知を探究し、正気の世界から狂気と未知が隣り合わせの限りなく死に近い世界へ足を踏み入れたモノ達の一人だ。

 そんな彼が生業としているのは私立探偵と言う皮を被った、ただの詐欺師だった。

 そして、そんな詐欺師の前にいるのはこの村なのか街なのか微妙な所の議員である。


「ふむ、生臭い襤褸を纏った奇妙な集団が現れてからというもの少年少女の行方不明件数が増えた……と。つまりその少年少女、要するに子供たちの捜索が依頼という事でよろしいのですかな?」


 二束三文の金とはいえ金は金だ。

 些か胡散臭い内容の依頼ではあるが、報酬の大半が前払いであり成功報酬もそれと同額となればしばらくは働かずとも暮らせるだろうと言う皮算用から依頼を受けることとした。

 

「ええ、なにより警察は当てになりませんし。もう藁にも縋る思いと言うモノですよ。こんな片田舎では子供が居なくなるというのは大事件ですから」


 適当にそれっぽい表情を造り、依頼者へ笑いかける。


「ではこの件は私にお任せください。しっかりと捜索はさせていただきましょう」


 差し出された前金の入った茶封筒を受け取りコートの内ポケットにしまい、当てもなく調査に赴くことにした体を装い店を出る。

 もちろん飲食費は払わず、伝票を依頼者に自然に押し付けるように。



1


 依頼者から受け取った前金の一部を使い、手ごろな価格のビジネスホテルにひとまず拠点を置くこととする。

 そこの部屋にあるベッドの上に寝転がりながら考える。

 この依頼、行方不明者の捜索を押し付けられるような知人……いや、顔見知りの者を。

 まずは探偵としての伝手つてを思い浮かべる。それにこの近場でと言う条件を付けくわえる。

 

 噂を元にした情報収集に特化した下っ端口調のヤンキー探偵。

 

「いや、コイツはそもそも俺を信用も信頼もしないから却下だ。何より扱いづらい」


 とある目的の為に探偵となり奇妙な事件ばかりを解決する暴力探偵。


「有能ではあるがこの依頼に食いつくかは微妙だ。そのうえ要求される対価が理解不能な所を含め却下」


 自称美食家であり傾国の美女レベルの容貌の女探偵。 


「いや、ダメだな。この前にアイツの事務所から金を多少拝借して来たばかりだ。あと数年は会いたくない」


 たった今上がった3人の中ならば、できる限り会いたくはないが自称美食家であり傾国の美女レベルの容貌の女探偵が一番マシだろう。

 だが拝借した金を返せと言われるのも面倒だ。

 よって別の伝手を思い浮かべる。


 素性不明の謎の宗教団体に所属しているロリっ子クソ眼鏡。


「論外だぁ。アレを扱うならまずは上の人間との交渉が必要になるし、なにより金がかかる」


 追跡に特化した姐さん大好き野郎。


「今回の件に関しては有用な気もするが俺はアイツが嫌いだから無しだな」


 情報屋兼喫茶のマスター。


「情報は多少こそ無茶を言っても仕入れてくれるが、直接働く姿が全く持って思い浮かばん」


 己の伝手のなさに少しばかり悲観しそうになるが、そもそもが自身で受けた依頼であるため仕方ないと諦めた。

 一応程度には依頼の調査を自分自身で行おうかと一瞬ばかり考えてはみたが、一切やる気と言うモノが出てはこなかった。

 つまりこのままバックレてしまった方が楽なのだ。

 もともと探偵業だって表社会である程度信用を得られ、身分証明の際に使う為に始めたモノに過ぎない。

 生きていくだけならば探偵として真面目に働くのも悪くは無いのだろう。

 しかし金雀枝雲雀と言う男はできる限り甘い汁だけを吸って生きていきたいと思っている。

 だがこの世界はそんなことを容認してくれるような場所ではなかった。


「仕方ない、少しばかりは自分で調べるとするかぁ」

 

 胸ポケットに突っ込んでいる煙草を取り出し火をつける。

 どうにも人生とは簡単にはいかないものだと思いながらも、気分的にも、働きたくないという感情的にも重い身体を動かし立ち上がり部屋を出た。

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