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序章─2 神との遭遇

 皆さん、若本則夫ボイスを準備してからお読みください。

「おーい──」

 まどろむ俺に声がかけられる。 何だよ……気持ちよく寝てるのに邪魔しないでくれ。

「おい、そろそろ──」

 だから……毎日仕事が忙しくてこんなゆっくり寝れるのは久しぶりなんだよ──って仕事はどうしたんだっけ? 休みだったか?

「いいかげんに──」

 まあいいや。 このままゆっくり寝て──

「起きろボケェェェッ!」

「げふっ!」

 腹に激痛が走り一気に意識が覚める。

「げふっ! ごほっ! いきなり何──」

「ようやく起きたか。 のんびり寝てんじゃねーぞ。」

 可愛らしい声にそぐわない乱暴な言葉を投げ掛けられ見ると仰向けに寝ている俺を覗き込むように少女が俺を見下ろしていた。 金髪ツインテールの15,6才くらいか? パンクとゴスが混じった感じの奇抜なファッションだけどなかなかの美少女。 表情からも顔つきからも気が強そうなのが見てとれる。 てかさ、人の腹を踏みつけないでほしいんだけど。 ただしこのアングルは中々グッド。 黒のレースか。

「なに見てやがるっ!」

「ぐぇっ!」

 俺の視線に気付いた少女に頭をサッカーボールのように蹴られて吹っ飛ぶ俺。 今ずいぶん飛ばなかったか? 少女のくせになんて力……いや、それより怪我は──

 蹴られた頭に手をやり俺は首をひねる。

「……あれ? 怪我は──」

 あんなに強烈に蹴られたんだから下手すりゃ頭蓋骨が割れててもおかしくないのに俺の頭にはかすり傷もなかった。

 いや、あり得ないだろ。 多分だけど5、6mは転がったぞ? プロ格闘家だって攻撃で人間を吹き飛ばすなんてマンガみたいなことできないって。 そんなことが実際にあったのに怪我もないなんて……

「怪我なんかするわけねぇだろ。 いいからそこに座れ。」

 呆然としているところに声をかけられ、見ると少女が大きな机に座っていた。

 改めて部屋を見るとそこは石造りの広い部屋だった。 少女が座る机の背後や左右には背の高い書棚がずらっと並び机にも書類のようなものがうず高く積まれている。 執務室──一言で表すならそんなイメージだろう。

 少女が腰を下ろす机の前には簡素な椅子が一脚。 これに座れということなのだろうけど……何なんだ、この状況は?

「あの……これって──」

「座れっつったろ。 今から説明してやっからとにかく座れ。」

 どこまでも横柄な少女に釈然としないけど仕方なしに俺は椅子に座る。 そうすれば説明してくれるって言うんだからしつこく聞こうとするよりも早いだろう。

 俺が座ると満足そうに笑みを──ニヤリと擬音が付きそうな嫌な笑みを浮かべて机の上の書類を一枚手に取る。

「まずあんたは死んだ。 そして転生待ちをする場所もない。 だから違う世界に転生させてやる。 OK?」

「…………………………は?」

 端的に投げられた台詞に俺は思わず間抜けな声を出す。

 いやいやいや、ちょっと待て。 OKも何もそれで何が分かるって──死んだ? あっ──

 その一言で思い出した。 そうだ。 俺は山の中で雷に撃たれて──

「そっ。 あんたは雷に撃たれて死んだんだよ。 いやぁ、なかなかいない不運な間抜けだよね、あんた。」

「ちょい待ち……俺は死んで──じゃあこの俺は──」

「ここは魂の輪廻を司る神の部屋──つまりあたしは神様ってことよ。 で、あんたは魂のままここにいる。」

「……神様?」

 恐れ入ったかと言わんばかりに胸をそらす少女。 ……これが神様? にわかには信じがたいけど……雷に撃たれたのは事実だしそれで目が覚めたのが病院じゃなくてこんなわけの分からない所となると信じる他ないか。

「それで──神様? 俺が死んで転生させるとかどうっていうのは──」

「面倒くせぇな。 説明はもうしたんだしこれ以上話すこたぁねぇよ。 それよりさっさと選べ。」

 心底面倒くさそうに言いながら少女は俺の足元に数枚の紙を投げる。 ……さっきのあれを説明とぬかすか、この神様(クソガキ)は。

 よく分からないけど転生させるとか言ってたよな。 つまりこれはそれに関係する何かを選べということか。

 俺は足元の紙を拾い上げ──

「何じゃこりゃ?」

 思わず声に出てしまった。 2枚目、3枚目と確認して行くと──

 1枚目、触手生物。 2枚目、触手生物。 3枚目、触手生物。──全部で8枚の紙には色とりどりの触手生物の写真が貼ってあった。 それぞれ説明があって確かに違いはあるんだけど基本的にどれも卑猥な触手を生やした触手生物だ。

「あんたが好きそうなのを見繕ってやったんだ。 さっさと選んで転生しろ。」

「いや……何でこれが俺の好みに?」

「ドーテー野郎がオンナを好き放題できるんだから最高だろ?」

「何だ、その基準は!? 失礼にもほどがあるだろ!」

「いいからさっさと決めろ! こっちゃ時間がねぇんだよ!」

 思わず文句を言う俺に神様は苛立って言い返す。

 ……時間がない? 神様に時間がどうこうなんてあるのか?

 いや、人間みたいに社会生活を送ってるならまだしも……大体説明するとか言ってまともに説明はしないわ選べと言いながら実質選択肢はなしに等しいわ……何かあるよな、これ。

「よし、じゃあこれな、これ。 オンナを好き放題にできりゃあんたの希望には合うんだ。 これに決まり。 いいな?」

 俺の手にある紙から適当に一枚を抜き出すと神様は俺に突きつける。 内容はどうでもいい。 重要なのは神様──いや、自称神様の行動だ。 なぜかあくまで俺の承諾を得ようとすること。

 だっておかしいだろ? 神様だったら俺が何に転生するかなんて勝手に決めて通告するだけだろ。 みんなが何に生まれ変わるか選べたらメチャクチャだ。 なのに俺には自分の意思で選ばせようとする──そのくせ対応がおかしいのには何か理由がある。

 時間がないってのが関係ありそうだよな。 だったらするべきことは決まってる。

「それじゃさっさと──」

「お断りします。」

 俺がきっぱり言うと自称神様は険しい顔をする。 だけど少し焦ってる様子なのも感じられる。

 何かあるのはやっぱり間違いない。 だったら相手が嫌がることをしてみようじゃないか。

「あんた……あたしの話聞いてたか? こっちゃ時間が──」

「選べと言いながらそんな同じようなの出されて選べるわけがないでしょう? 勝手に何に生まれ変わるか決められるのと変わりゃしない。 いっそそうしたらどうですか?」

「ぐっ──!」

 言葉に詰まりプルプル震える自称神様。 ちょっと賭けだったけどビンゴだね。 理由は分からないけど俺を生まれ変わらせるには俺の承諾が必要なんだ。

 そしてどうやら俺を急いで転生させないと何か不都合があるみたい。 だったら──

「そんなに俺に選ばせたいならもっと色んなのを見せてもらってじっくり吟味させてもらいたいもんだけど──」

「この──! いいからとっととこいつに転生するって──」

「おいおぉい。 そいつはルール違反ってぇやつじゃないかぁ? 天使エフェメラぁ。」

 唐突に割り込んできた野太い声に自称神様──天使エフェメラと呼ばれた少女が固まる。 やっぱり神様じゃなかったか。

 エフェメラは真っ青になった顔を引きつらせて滝のような汗を流しながら、錆び付いた機械のようにぎこちない動きで顔を横に向ける。 俺も声の主を目で追うと誰もいなかったはずの部屋の中に男が現れていた。

 ……何なんだ、こいつは? 身長は2m近くで軍人かボディビルダーかってくらいにムキムキなのはまあいい。 だけど着てるのは黒のハーフパンツと黒に近い紫に銀の花をあしらったアロハシャツってどういうセンスだよ。 アロハシャツの前は開けて筋肉見せつけてるしおまけにサングラスを額に引っかけてるとか……怪しいなんてもんじゃない。 斜め上に勘違いしたチンピラだ。

「ホ、ホ、ホ、ホーディラス様! まだ15分は戻らないはずじゃ──」

「俺の執務室で神術ぶちかまされたのを感じてなぁ。 まぁさかとは思うが貴様じゃあないよなぁ? 天使エフェメラぁ。」

「も、もちろんです! ききききっと何かの間違いか──そう! ホーディラス様の勘違いです!」

 ガクガク震えながら弁解するエフェメラ。 うん、間違いなくこいつが犯人なんだろうな。 何のことやらさっぱり分からないけど。

 男──ホーディラスは俺の前に歩いてくると俺をじっと見つめ──上から下までジロジロ見たかと思うとエフェメラにまた顔を向ける。

「でぇ? どういうことか説明してもらおうかぁ、天使エフェメラぁ。」

「はいぃぃっ! そ、その男は先ほどやってきた不測脱界者です! 不運にも! 不測の事態で! 不慮の死を遂げた! 不遇の者です!」

 ……そんなに「不」の文字を重ねられるとさすがにいい気がしないな。

「それでぇ? 貴様はなぁにをやっていたんだぁ? 天使エフェメラぁ。」

「こ、この程度のことでしたらあたしでも対処できるところを見ていただこうと──」

 エフェメラの言葉を遮るようにホーディラスが手を突き出す。 エフェメラは慌てて机に駆け寄ると一枚の紙を手に取りホーディラスに渡す。 あれは……さっき彼女が見てた書類か?

 じっと書類を眺めるとホーディラスは不意に笑いだし──

「雷に撃たれて予定外の死を迎え不測脱界者となったねぇ。 いやぁ、確かに不運な話だなぁ、天使エフェメラぁ。」

「まま、全くもってその通りで──ヒィッ!」

 引きつった笑いを浮かべるエフェメラの目の前で書類が炎に包まれる。 だけど書類は燃えもせずそのままだ。

「この程度の偽装でごまかそうとは俺もずいぶん軽ぅく見られたもんだなぁ、天使エフェメラよぉ。」

 床に水溜まりができるくらいに脂汗を流して──ということにしておいてあげよう──蛇に睨まれた蛙状態のエフェメラを笑顔で見ながらホーディラスは俺に炎が消えた書類を差し出す。 読めってことか。

 俺は素直に受け取ると書類を見て──何だよ、この文字? こんな見たこともない文字なんか読めるわけ……あれ? 読めないけど分かる。 頭に直接意味が流れ込んでくる──そんな感じだ。

 不思議体験に驚きながら俺は改めて書類に目を通す。

「えっと……城寺 勉。 天使エフェメラが虫に驚き放った神術により──」

 ……ちょっと待て。 いきなり聞き捨てならないことが書かれてないか?

 俺が見るとエフェメラは真っ青を通り越して真っ白な顔色になってる。 そんなエフェメラに追い討ちをかけるように俺は続きを読み上げる。

「──『顕世の書』が損傷。 その影響により発生した雷に撃たれ予定外の死を迎え不測脱界者となる。」

 これってつまり──

「要するにぃ、今回の責任はぜぇんぶ貴様にあるということだぁなぁ。 天使エフェメラぁ。」

 ホーディラスが拳を握りしめ腕の筋肉が隆起する。 あちゃぁ……今度は誤魔化しようもなく漏らしたね。 脚を伝い落ちる液体が床の水溜まりをさらに広げる。

 失禁するほどの恐怖に泣きそうになりながら引きつった笑みを浮かべるエフェメラの前で拳を振りかぶると、

「この駄天使がぁぁぁぁぁっ!」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 手加減なしの拳の連打にエフェメラが女の子らしくない悲鳴を上げる。

 うわぁ──人が殴られてこんな音がするの初めて聞いたよ。 あ、人じゃなかったか。

 惨劇を見ないよう明後日の方向を見ながら俺は悲鳴が鳴り止むのを待つことにした。

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