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序章─1 雷との遭遇

「綺麗だな……こんなゆっくりした時間なんていつぶりだっけ?」

 スーツのまま地べたに座り込んで、俺は目の前に広がる風景に見とれていた。

 単なる田舎の風景。 それも別に日本の原風景と言えるほどでもない半端な田舎。 多少の発展はしたけどより都会へと人が移り住み寂れていってる小さな町だ。

 天気も最悪。 どんよりとした雲がかかっていてどしゃ降りがきてもおかしくない。 そうなったらどこかに避難しないとならないな。

 そんな景色、そんな状況が綺麗に見えるほど俺の日常はひどいものだった。

 ノルマの強要、月に100時間は当たり前のサービス残業、業績が上がらないことを理由に休日出勤の強要も当たり前。 前に休んだのがいつだったか忘れるくらいに無我夢中で働かされる毎日。 それが俺、城寺(きのてら) (つとむ)の日常だ──冗談じゃない。

 今日だって別に休みじゃない。 電車に乗ろうとしてる時にふと、何もかもが馬鹿馬鹿しくなって会社と反対方向の電車に衝動的に乗っただけ。 終点で降りてあてもなくしばらく歩いて、ふと目についた山に登る気になって通りかかった軽トラのおっちゃんに途中まで乗せてもらって、ふと見つけた細い山道を無謀にも革靴のまま登って今ここにいる。 何でそんなことをしたかは謎だ。 まあ精神状態がおかしかったんだろうな。

 スマホの電源は切ってるから俺と連絡が取れなくて会社も大慌てだろう。 クソ課長の田端め、ざまぁみやがれ。

 そんなことを考えながらふと虚しくなる。

 別に俺は会社にとって必要な人間ではない。 いくらでも替えのきく平凡な社員だ。

 30まで楽しくもないのにメチャクチャに働き続けて、結婚はおろか彼女もできない。 給料も安くて大して貯金も作れやしない。──何のために生きてるんだろうな、なんて自分の人生の意味を考えてしまう。

 死にたい──いや、死にたくはないな。 死ぬくらいなら会社をやめて別の仕事を探すだろ。

 生まれ変わりたい──んー、まあここまで人生無駄にしたのは確かだけど重ねてきたものもあるわけだしね。 それを簡単に捨てたいとは思わないかな。 てか生まれ変わる=死んでるだろ。

 違う世界に行きたい──会社から逃げていっそ海外にでも……いや、ムリだ。 言葉も分からないし生活習慣も違うようなところで暮らすなんてムリだ。

 でも……今の会社で働き続けるくらいならどれかを選ぶよな。

「──冷たっ!」

 考え込んでた俺の頬に不意に冷たい感触がきた。 大粒の雨がポツッときたかと思えばあっと言う間に勢いを増してくる。

 参ったな。 スーツに革靴のままで登ってきたから下手に動けない。 あんな荒れた山道をこのまま降りるなんて無理に決まってる。

 俺は仕方なしになるべく大きな木の下に入り雨を避ける。 枝から水が垂れてくるけど何もないとこでこんな雨に打たれ続けるよりはましだ。

「ゲリラ豪雨かよ……さっさとやんでくれればいいんだけど。」

 空を見るとまだ15:00過ぎだというのに夜が近いような暗さだ。 ゴロゴロと雷が今にも落ちそうな音がしている。

 今が7月半ばで助かった。 冬はおろか春先や秋口でもこんな状況じゃ凍え死んでいたかも知れない。

 だけど状況はよくない。 雨が一時間程度でやんだとしてもぬかるんだ道を慎重に降りていたら降りきる前に日が暮れる。 そうなったら遭難することもあり得る。

 とは言えスマホで救助を求めるのは……いささか間抜け過ぎるな。 スーツに革靴で山に登って雨に降られて救助要請──そんなので新聞に乗るのは嫌だ。 救助費用ももったいない。

 俺はスーツのジャケットを脱ぐと頭から被るようにする。 今、救助を頼む選択を選ばないなら道は2つ。

──雨が止んだらなるべく急いで降りて遭難したら諦めて救助を呼ぶ。

──今夜はこのままここでじっとしていて朝になったらゆっくり降りる。

 俺は後者を選ぶことにした。

 ぬかるんだ下りの山道を革靴で急いで降りるなんて確実に滑り落ちて怪我することになる。 それでスマホが壊れたりする可能性も高い。 そうなったらそのまま死ぬかも知れない。 だったら後者を選ぶしかないだろう。

 この時期でさほど高くもない山とは言え夜の山中は雨と合わせて気温も下がるだろう。 そんなに下がらなかったとして15℃くらいでもずぶ濡れで風に吹かれ続けていたら低体温症の危険性はある。 少しでも濡れないようにしておきたい。

 最悪どうしようもなくなったらやっぱり救助は頼むんだけど──おっと、スマホの電波を確認しないと。 電波が弱くて救助も呼べないなんてなったらたまらないからな。

 俺はかぶったジャケットの内ポケットからスマホを取り出すと電源を入れる。 その瞬間──

──ピシャァァァァァァァァンッ!

 轟音とともに衝撃が全身を貫いた。

 ──何が起こったのか分からない。 自分の体が倒れていくのを妙にゆっくりと感じる。 火傷した時みたいな鈍い痛みが全身に走る。

──これ……まさか……

 空模様とさっきの轟音を思い出し何が起こったのか想像がついた。

──くそ……ろくでもない人生だけどこんな……運が悪すぎるだろ……

 自分の不運さに毒づきながら、体が地面に倒れる前に俺は意識を失った。

 別作品が非常に難産で気分転換に書きました。

 序章をさっと載せてまたメイン作品の執筆に集中するので非常にのんびりとした更新になるかと思いますがよろしくお願いします。


3回目の魔王討伐

https://ncode.syosetu.com/n8762fb/

こちらもよろしければご笑覧ください。

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