転生したらこんにゃくゼリーだった件
ある日のこと、俺は散歩の途中でたまたま通り魔に遭遇、刺されて命を失った。なんという不運か。
だが、救いの神は舞い降りた。女神賢者なる超存在が俺を異世界へと転生させたのだ。
「あなたは別の世界に転生しました」
暗闇の中、クールな声色で若い女性の声が聞こえて来る。
俺は生まれ変わった己の肉体を、じっくりと観察してみる。無色透明な皮膚、ぷよぷよと弾力のある肌触り、丸っこい形状。これは・・・・・・
「キマシタワ~~!」
喜びの雄叫びを叫んだ。これこそ、巷で噂のスライムに違いない。あらゆるものを捕食し、なんでもコピーしてしまう万能の生命体!
「あなたはこんにゃくゼリーに転生しました」
「・・・・・・はい?」
一瞬、俺の目が点になる。いや厳密には眼球など無いのだが。
「こんにゃくゼリーに転生しました」
「こんにゃくゼリーって、おやつのあれ?」
「おやつのそれです」
感情のこもっていないセリフが、朗々と闇に響き渡る。
「え、ちょって待って・・・・・・これ、スライムじゃないの!?」
「違います」
「つうか転生先、食べ物ってなんだよ!」
「東洋では、物品に生命が宿る現象を付喪神と呼ぶそうです。ならば、お菓子に霊魂が宿ったとしても、なんら不思議はないでしょう」
「いやでもねっ! 生まれ変わるならせめて生き物にしてよ。俺、そうとう不幸な最期だったんだから」
「贅沢な方ですね・・・・・・こんにゃくゼリーの何がそんなに不足ですか?」
「逆に何のメリットがあるのよ!」
俺は怒り心頭で女神賢者に抗議する。
「ローカロリーで低価格、さらに食物繊維によって、大腸を綺麗にしてくれる美容健康食です。ポテチや菓子パンなど乙女の敵なのです」
「それ俺のメリットじゃねえよ!」
「気に入りませんか?」
「なんかもっとこう、特別な異能とか無いの? 人間の姿に変身とかさあ」
TVアニメで見たワンシーンを思い浮かべながら、試しに聞いてみる。
「捕食され、消化されたあなたは、いずれその人間と一つに」
「逆! したいことが逆! つか、大半ウンコとして出ちゃうでしょ!」
「・・・・・・あなたも、相当わがままな方ですね」
女神は呆れたように息を吐いた。
「頼むから別の存在にしてくれえ!」
「わかりました。では転生プランBに変更してあげます」
「いいね、プランB!」
「それでは早速・・・・・・パパラパ~!」
まの抜けた響きの呪文と共に、俺の体が光に包まれて、みるみる変身していく。
「おお、これは!?」
新たなボディには、緑色の皮膚、粘液まみれのヌメヌメ感、細くて長い体躯。
「まさか、ワームなのか!?」
「おめでとうございます。あなたは茎わかめに転生しました」
「ちょっと価格帯上がった!?」
「良質な国産わかめの中でも、特に肉厚のボディに転生させました」
「知らんわ! プランCに変えろ、このクソ女神が!」
「うるさい茎わかめですね。もういいです。もう聞きません。ちょうど高等魔法を使って小腹も空いたので、ありがたく頂きます」
「ちょっと待て、お前が喰うんかい!?」
暗黒の中からすうっと伸びてくる、女神の白い指先。こうして俺の異世界転生は終了した。