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ボスと裏ボス

笑顔を浮かべた魔王が、巨大な火球を放とうとしたその瞬間…!


「いい加減にしなさい。レオニール。」


そう言うと同時に、魔王の後頭部に強烈なチョップが入る。

ビシッ!

結構いい音が、響き渡る。

俺は、魔王の後ろから出てきた、この人物に目を奪われる。


「いってーな。何すんだエリス。」


「何すんだ、じゃないでしょう。貴方こそ何をやっているんですか。貴方の迷惑行為の所為でみんな困っているじゃないですか。」


「知るか。そんなもん。俺の城で、俺が何しようと自由だろうが。」


ビシッ。

もう一発チョップが入る。


「何しやが…」


ビシッ。ビシッ。


「…やめ…」


ビシッ。ビシッ。ガシッ。

…ガシッ?なんか最後エルボー入れてなかった…?


「いたっ…ごめん。ごめんなさい。すみませんでした。」


「分かれば良いのですよ。」


ニコッと最上級の笑顔を魔王に返す。

魔王は、謝ると同時に手元の火球を消し去っている。


…こえぇ…怖いよ。

だってあの傍若無人な感じの魔王が軽く涙浮かべながら謝ってるよ。

美人の笑顔が怖いと思ったのは久々である。


ちなみに、今魔王の後ろから出てきたのは女性である。しかも超絶美人。

スラッとした立ち姿に、細い手。身長も俺とそう変わらなそうに見えるので、170㎝程度はあるのではないだろうか。綺麗なロングのドレスを身に纏っている。そして、金髪ロングで、透き通るような白い肌に薄紅色の唇。シャープな顔立ちに切れ長の目。知的美人なお姉様という表現が一番合っているだろうか。

ただ一点。普通の人とは違うところがある。

いや、この時点で普通の人とはかなりレベルが違うのだが、そういう事ではなく。

耳が長く、トップの部分が軽く尖ったようになっている。

つまり…


エロフ!

いや、間違えた。

エルフ。

ゲームの世界などで見るエルフの特徴と合致しているので、おそらく間違いないと思う。

本当に居たんだ。エルフって。やっぱり美人なのね。この人を見れただけでも、ここにきて良かったかも!

先ほどまで、殺されかけていた事も忘れて、輝いた目でお姉様を見てしまう。


「お見苦しいところをお見せ致しました。改めまして、ディバースへようこそ。私はエリスロード。そこの赤髪調子ノリオの保護者、のような者です。」


「おい!赤髪調子のり…」


文句を言おうとするが、ギンッ!と睨まれて、最後まで言えず、口籠る。


「まず、リョウさん、でしたね。貴方への罰はなし。お咎めなしと致します。」


「…えっ?さっきの死刑というやつは…」


「あれは、この赤髪ク○ヤローが面白がって言っただけですわ。」


口わるっ!そしてやっぱこわっ!!

絶対怒らせちゃあかんタイプの人や…。


「貴方達がこちらに来られる前に、ネーションの町に居た別の巡回の方が、私達に報告をしてくれていました。貴方が食事をしたお店の女将さんに、私が無理矢理に連れ込んだ所為でもあるので大目に見てやって欲しい、と頼まれたとのことで。ですので、初めから罰するつもりがなかったのです。それをこのバカチンがふざけた所為でこんな大事になってしまった、という訳です。」


これには、俺に同行していたガイルさん達もポカーンとしていた。

もっとも、魔王に近い位置に立っている、おそらく高官であろう人達は、またかやれやれと言った表情を浮かべているが。

…さてはこういうことをちょこちょこやる、めんどい奴ってことだな。あの魔王。


「とは言え、貴方もいきなり王に剣を向けるのはいただけませんでしたが。」


「すみません。」


すぐ謝る。怖いからすぐに謝る。魔王の方じゃなくて、エリスロードさんの方がめっちゃ怖いから、注意されたら素直にすぐ謝る。

世の中生きていくには、こういう判断は間違ってはいけない。


「素直な方で良かったです。

ほら、レオ。貴方もちゃんと話をしなさい。一応、ここの主人なのですから。」


一応って…この2人の関係って、ボスと裏ボス的な感じに見えてしょうがない。

さっきまでの魔王の威厳は何処へやら。なんか小者に見えてしまう。

…たぶん勘違いなんだろうけど。というか、そうあって貰いたい。


「お、おう。という訳で、お前はお咎めなしだ。さっきまでのはちょっとした余興よ。この世界に来たばっかりという事だから、ちょっと、巫山戯てみただけだ。この世界がどういう世界か、楽しく体験出来ただろう?ワッハッハ。」


「ワッハッハ、じゃないでしょうが!軽く死を覚悟しましたよ!」


ちょっと涙目になりながら強く訴える。蹴っ飛ばされて、柱に激突。そして落下。余興で済まされるレベルではないだろう。しかも最後は、家臣までビビる魔法使おうとしてたし。


「いやいや、あれは余興だったのだから、本気で放つつもりはなかったぞ。…なかった…ぞ…」


後ろからの圧に飲まれたのか、また声が小さくなる。

相当尻に敷かれてるな。こいつ。


「おほん。とは言え、お前がお店に対して代金を払っていない事実に変わりはない。という事で、俺の手下となって働け。」


「…は?今なんて…??」


「だから、俺の手下となって働けと言ったのだ。働きに応じて給料を出すから、それで代金の返済をしろ。」


巫山戯魔王の割にまともな提案してきやがった。

どうしよう。確かにお金は支払わないといけないと思う。

でも…


「お断りします。」


「は?お前なんて…」


予想外の返答だったのか、ちょっと慌てる魔王。


「だから、お断りします。だって、魔王の手下とか苛められそうだし!人間のくせに魔王の犬が〜とか。生まれ変わったばかりなのに石を投げられるような生活はしたくなかとです!!」


「おま…俺のことなんだと思ってやがる!」


ちょっと怒気を孕んで、こちらを睨みつけてくる。


「悪役!」


そんなのにビビるかっての。

こっちとらさっきのやり取りで精神的に成長してるんだからね!


「よーし、よく分かった。やっぱりお前を一度ぶっ飛ばす!」


臨戦態勢に入ろうとする魔王。

沸点低いなこいつ。

と、思った矢先。


「レオ、貴方何をする気?」


極寒の言葉が魔王を襲う。


「い、いや。ちょっと俺のこと舐めてるみたいなので、軽くシメようかと…」


「元はと言えば、貴方が巫山戯たからこういう事態になったいるのではなくて…?」


「…はい。すみません…」


シュンとする魔王。

ちょっといい気味である。遊びで命を脅かされたのだから、このくらいのお灸は据えて貰いたい。


「リョウさん。貴方の魔王に対するイメージが何を元に形成されているかは分かりませんが、ちょっと私の話を聞いてください。この魔王はこう見えて、本当にびっくりすると思いますし、信じられないと思いますが、これで案外人望があるんです。いや、分かります。これまでの行動を見て信じたくない。信じられるわけがない。こんなクズが!と言うのは分かりますが、本当なんです。」


…いや。さすがにそこまで思ってませんが…

と、声に出さずに心の中で思う。

だって、この人に反対意見言うの怖いじゃない…


「心中お察し致しますが、私の言葉信じてもらえませんか?」


「はい!信じます!!」


「てめぇ…俺の話は聞かないくせに…!」


魔王がなんか言っているが無視である。

だって超絶美人が、胸の前で手を組みうるうるした瞳でこちらを見ているのだ。どうやっても断れるわけがない。

そう。美人の頼みだからである。

…断じて怖いからではない。

何より、心中お察しできてないやん!とか突っ込むのは野暮というもんである。


「…もう何でもいい。リョウお前は俺の手下になる。それでいいな?」


「…手下ってのはちょっと。」


「ああ、面倒くさい。じゃあ俺の下で働く。これならいいだろう。」


なんか自棄っぱちという感じである。

まあ、面倒くさくなる気持ちも分かるが。

分かるが、こういう駆け引きは後々まで響くこともあるので、妥協してはいけないのである。


「わかりました。それでしたら、受けさせていただきます。よろしくお願いします。」


何故かちょっと上からの俺。

お金を返すために働かせて貰うのに、この態度はどうかと自分でも思うが、ここまでのやり取りを思い出してもらえば、許される範囲である事がお判り頂けるだろう。


ただ、魔王も言われ放題で黙ってはいない。


「よし。では契約成立だな。それでは初めに、ここのルールの中で一番大切なことを教えておく。これからお前は俺のことをレオニール様と呼ばなくてはならない。分かったか?」


ニヤニヤ顔の魔王が初めの勢いを取り戻し、そう宣言してくる。


ちっ。めんどい奴だな。

ってお互い様か。

てか、様付けで呼ぶのは、なんか嫌だな。偉い人なのは分かるが、現状においては抵抗がある。

…よし。


「分かりました。公務の時はそうお呼びしましょう。そうでないと世間体もあるでしょうから。ただ、私はあなたの手下ではありませんので、通常時はこう呼ばせて頂きます。」


ちょっと間を空けて、勢いよくよく言い放つ!


「レオちゃん!と」


「…レオちゃん…だと…」


さすがに怒るかな…まあ、でもこのくらいの悪戯はご愛嬌だろう。

ここで、マジギレするならやっぱり小さい奴だな認定した上で、望み通りの呼び方をしてやろう。

が、しかし、出てきた反応は意外なものだった。


「いいだろう。そう呼ぶが良い。レオちゃん…ね。くっくっく。わーはっは。」


何だろう?なんかめっちゃウケてる。

エリスロードさんの方も楽しそうな顔をしている。なんかツボに入るようなこと言ったかな。まあよくわからんけど、喜んでいるならそれに越したことはないだろう。

ちなみに家臣のみなさまがたは、このやりとりをやれやれという表情で見ていた。きっとこんなやり取りもこのお城においては平常運行なんだろう。

…って大丈夫なのか?それ??

一抹の不安を抱えたまま、俺はここで働くこととなったのだ。

お読みいただきありがとうございます。

まだまだ未熟者ですが、評価、ブックマークして頂けると、大変喜びます。

気が向かれましたら、よろしくお願いします!

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