連行
はい。という事で、今に至るという事です。ホントこの世界に来て楽しかったのは街に着くまでの空想の時間だったなぁ…あ、ヤバいまた涙出そう…
「おい!いい加減しっかりしろ!!」
兵士さんの声で、また始まっていた空想世界の旅から引き戻される。とは言え、今まで立ち止まっていた訳ではない。歩きながら、もとい連行されながら今までの事を振り返っていたのだ。
「あ、そう言えばなんで無銭飲食したんだって言ってましたよね。するつもりがあった訳ではないんです。実は私、こちらの世界に生まれ変わったばかりで、自分がどういう状況なのか分かってなかったんです。まぁ、いくら持ってるかとか確認しなかった私が悪いので、ただの言い訳なんですが。」
「なんだお前、転生者なのか。それならそうと早く言え。…おい。」
そう言って俺の近くにいた兵士さん、リザードマンのような人が、馬に乗った別の兵士に声を掛ける。
ちなみに馬に乗っている人は、普通の人間スタイルである。
そして何事か会話を交わし、馬に乗った兵士は結構なスピードで遠ざかって行く。その向かった方に目を向けて見ると、そこには中世のお城のような建物が小さく見えていた。
「もしかしてあのお城に向かってるんですか?」
とりあえずやる事も無いので、気になった事を聞いてみる。
「そうだ。あそこには、この町の盟主であらせられるレオニール様が住んで居られる。同時に司法立法行政、それぞれの機関もあの中に置かれている。」
そういう事ね。町の中にそういった機関がないから、連れてかれているのね。
「と言うかすみません。なんか面倒事を起こしてしまったせいで、みなさんにご迷惑をお掛けしてしまって。」
そう、今俺の周りには3人の兵士さんが付き添っている。馬の人も含めれば、俺のせいで4人もの人に迷惑を掛けているのだ。
ちなみに、その3人は先程から話しているリザードマンみたいな人の他に、けむくじゃらのクマみたいなデカイ亜人と金髪で厳つい感じの壮年の男である。
「まぁこれが俺たちの仕事だからな。もっとも何もない事に越したことはないんだがな。」
なんかこのリザードマンの人いい人だ。てか、他の2人は話さないの?やっぱり犯罪者とは会話したくない的な!?
「おいガイル。お前ちょっと気を許し過ぎじゃないか。こいつが言ってること、どこまで本当か分からないんだぞ。」
あ、喋った。金髪のおっさん、喋りよった。てか、そこまで警戒するようなこと言わなくてもいいじゃない。
…まぁごもっともではあるけど。
「いいじゃないか。こいつ別に逃げる気がある訳でもなさそうだし。それに俺はこいつが嘘を言ってるとは思えないしな。何よりケイン、お前だってわかってるだろ。この町に辿り着けて、わざわざ無銭飲食する奴なんて居ないって。」
「それはそうだが…」
「あ、なんかまたご迷惑をお掛けしてますよね。大丈夫です。私が静かにしていれば済む話ですし。重ね重ねすみません。」
「あ、いや、そう言うつもりで言った訳ではないんだが…」
金髪オヤジのケインさんは、そう言ってバツの悪そうな顔をしている。
なんだかんだ言って、この人もいい人みたいだ。
とは言え、ここで口を開くのもなんなので、黙ってガイルさんについて行く。
☆♪☆♪☆
どのくらい歩いた頃だろう。
先程早馬を走らせていた兵士さんが戻ってくる。
そしてリザードマンのガイルさんに耳打ちをしている。
表情が変わるガイルさん。
そして厳しい表情のまま、俺の方に向き直りお城の方で決まったであろう内容が告げられる。
「お前の今後の方針が決まった。レオニール様が直々にお前と話をし、判断を行うとの事だ。…まあ、なんというか…頑張れよ。」
城主自らが対応するの!?無銭飲食くらいで?過剰すぎない??
なんだか異様な不安に駆られる。これは絶対いい話ではない。どう考えても軽犯罪の初犯なのに対応が大き過ぎる。それに、この事を伝えたガイルさんが憐れみの目でこちらを見ているし…
「城主様自ら対応とかいくらなんでも話が大き過ぎる気がするのですが…」
「俺もそう思うが、王が決められた事だ。我々にどうこう言う権利はない。」
「まぁ、なんだ、その、ちゃんとした受け答えさえしていればとって食われる事はほぼ無いだろうから、そこまで心配するな。」
金髪のケインさんもそう言ってフォローしてくれる。
でもちょっと待て。ほぼとって食われないってなに?食われる可能性が少しはあるの?なんなの。流石に怖いんですけど。
「全力でさっきのお店に謝って許して貰うんで、どうにか見逃して貰えたりしませんか?」
「それは無理だろう。もう王に報告しているし。観念してついてきな。ちなみに逃げようとしても無駄だぞ。お前くらいじゃ、俺たちから逃げ切るのは不可能だ。」
「分かってますよ。この世界に来てまだ一度も戦った事もないですし。みなさん強そう過ぎて、そんな気力すら湧きませんよ。」
「な…!お前この世界に来てまだ魔物と遭遇していないのか。なんと運がいい。この辺は俺たちが見回りをしているから、そう危険な魔物はいないが、それでも当たり前だが、ゼロじゃない。お前の能力が分からないからなんとも言えないが、それでも転生したてで命を落としててもおかしくない状況ではあるんだがな…」
あ、やっぱりラッキーだったんだ。魔物出なくてつまらないとか思ってすみません。
…いやいやちょっと待とう。魔物は出なくてラッキーだったけど、今こうやって捕まってるからね。運がいいとか簡単に言わないでほしい。
もっとも捕まった方は自業自得だろ、と言われればそれまでですが…。
やっぱり世の中、なにかを得るためには何かを失わないといけないんですね…
またちょっとテンションが下がってしまった。
なんか気分の波が激し過ぎる。病気かな。病気だな。よしその線でアピールしてみよう!
…冗談です。ちょっと緊張をほぐすためにふざけただけです。
そんな俺の様子を見て、流石に可哀想だと思ったのか、お城に着くまでの間、ガイルさんとケインさんは俺に何気ない話を振りながら励ましてくれるのであった。
☆♪☆♪☆
辿り着いた先には、大きな門が設置されていた。そしてその門の端の方に守衛所兼受付所みたいな建物があり、そこをパスすると、門についている扉から中に入れるようであった。おそらく、大きな軍を動かす際などにしか大きな方の門は開かないのだろう。
俺たちも例に漏れず、受付の列に並び順番が来るのを待つ。
ちなみに、みなさまもうお気付きだとは思うが、今の俺は何か拘束されているとか、両脇からロックされているとか、頭からタオルで顔を隠されているとかそう言った事は一切されていない。そのため、列に並んでいようとも特段気に留められるような事もない。
見るとはなしに列や受付の方に視線を向けてみると、やはり様々な種族がいることに気付く。また、きちんと並んで待っているあたり、日本人的な気質が感じられる。やはり秩序が守られているというのは、元日本人としては安心できる要素であると強く思う。
そして待つことしばし。俺たちの番が回ってくる。
ガイルさんが、小声で受付に話をし、その内容を確認した受付が、扉を開けるよう指示をだす。
俺は受付の人に会釈をし、扉をくぐり中に入る。
そこに広がるのは、なかなかに壮大な景色だった。
まず、真ん中に大きな城が建っている。その周りに、区画整理された上で、様々な建物が建っている。外観だけでは何とも判断がつかないが、おそらく区画ごとに纏まって軍事関係の施設や行政関係の施設があるのだろう。そして外周は高い壁で覆われている。つまり、ザ重要な場所!と言うことである。
俺としては、ゆっくりと中を見学させて貰いたいが、当たり前だが今はそんな状況にない。
俺たちは、寄り道する事もなく、王城に向けて進んでいく。
そりゃそうだ。だって王様が待ってるんだもんね。俺のことを。こういうとすごい人に思われそうだが、ただの犯罪者かと思うと切ない。
ガイルさんたちは、通り過ぎる衛兵の人たちに挨拶しながら進んでいく。まぁ同僚なんだろうから当たり前だが。ただやはり、その人達も色々な見た目の方達である。とはいえ、マグロに足が生えた様な見た目の人が、二足歩行で槍を持ちながら巡回している様には驚いた。どう見ても本物っぽいが、コスプレとか防具の可能性もあるのだろうか?民族差別になってもいけないので、聞くに聞けないのが悩みの種ではある。
そんなこんなで、王城まで辿り着く。
そこでもガイルさんが入口を守っている兵士に事情を説明し、中に通される。
その際にも何故か兵士さんから可哀想なものを見る様な目をされる。
本当にこの先に何があるのよ…そんなに怖い人なのレオニールさんて…
そして、謁見の間に通される俺。入口から真っ直ぐ伸びた先に階段があり、その上には、如何にもな椅子が置かれている。通路の左右には均等に柱が立っている。俺は、その通路の真ん中でひざまづく様に指示をされる。そして指示を出したガイルさんたちも、左右に分かれ柱の前に直立不動の姿勢をとる。そこまでを見て、俺はこうべを垂れる。
ヤバい。ガチのやつやん。これは流石に緊張する。
そして幾許かの時間が経過し、先にある椅子のあたりに気配を感じる。
この時点で、ビビるくらいのプレッシャーを感じる。
そんな俺に、椅子の主はよく響き渡る声で話しかけてくる。
「面を上げろ。」
言われるがままに、頭を上げる。
「立ち上がるがいい。そして、名を名乗れ。」
「私の名前はハルミヤ リョウです。」
立ち上がり、大きな声で答える。
ここまできたらビビってもしゃーない。そう思い、ハッキリと名乗る。
が、名乗り終わった後、王と目が合った瞬間にその考えが大きな間違いである事に気付く。
ヤバい。この人はヤバい。本能が危険信号をバシバシ鳴らしてくる。汗が止まらない。一瞬でも気を抜こうものなら、足から崩れ落ちること間違いなしである。
「リョウか。俺様はこの城の主人、魔王レオニールである。」
にやにやした笑顔を浮かべたこの城の主人は、自らを“魔王”とそう名乗った。
ま、魔王って…いや、なんか普通に町に人が住んでたのに、そこの王様が魔王とか…。
てかいきなり出てくる?そんなラスボスみたいなやつ…
ちなみに見た目はイケメンである。しかもワイルドな感じの。
燃えるような赤い髪に濃いめの肌の色。野性味溢れる眼。ハッキリ言って美形である。しかもかなりの高身長であると思われる。もちろん椅子に座っており、距離も多少あるので定かではないが。ゆったりとした服を着ているが、見える部分から推察するに非常に引き締まった筋肉をしている。
…何で勝負したとしても勝てる要素はなさそうである。
「それではリョウよ。まずお前の口から、事の顛末を説明して貰おうか。」
「承知しました。私は………」
そこで俺はお店での出来事を説明する。
「事件の概要は分かった。では、お前が転生人である根拠を説明しろ。前世の記憶がある。それ以外に何か根拠となる事はあるのか。」
「そうですね。前世の記憶があるのが一番なのですが、前世から転生するまでの間に、り…」
そこまで話をしたところで、俺の体に異変が起きる。
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