「なぁ、一人でいて楽しい?」
「なぁ、一人でいて楽しい?」
僕に話しかける人がいるなんて珍しい事もあるもんだな。
さて、いったい誰だろう。
学校の裏庭の軒下でお昼を食べていた僕は顔を上げた。
目の前には、こちらを覗きこむように見ている男子生徒。
まず目についたのは金色の髪。
日本人なのに金髪が似合ってるなぁ。
それにずいぶん整った顔をしている。いわゆるイケメンというやつだ。
耳には青いピアス。
どれもこれも校則違反。
何でこんな人が僕なんかに声をかけるんだろう。
「楽しい?」
楽しい?
そう言われてもよくわからない。
「そうかもね」
僕は素っ気なく返した。
「まるで、他人事のような言い方だね」
そう言われてみればそうかもしれない。
「じゃぁ、逆に聞くけど、僕に話しかけて楽しい?」
「そうかもね~」
その金髪男は、笑顔を作ると手を振りながら僕から離れていった。
僕はその後ろ姿を見てぽつりと呟いた。
「あんな人、学校にいたかな」
僕は上原沙登美(うえはらさとみ)。普通の高校一年生。特に好きなものは無く、出来るのは勉強くらい。
運動はまぁまぁ。
両親はいない。
僕が小学六年生の時に死んでしまった。父さんと母さんが乗っていた車に、後ろから車が突っ込み事故死。
相手の方も助からなかったらしい。
今は親が残してくれた貯金で生活している。
一人暮らしはそれなりにできてはいると思う。
料理も自分で作るし、毎日ちゃんと食べている。
両親がいなく、一人は寂しくないかって?
寂しいと言えばそうかもしれないけど、僕にはあまりわからない。
昔から感情的ではなく、その感情を表に出すこともなかった。
ーー翌日ーー
教室に入るといつもより少し騒がしかった。
それと不思議なことに、僕の隣の席が空いている。
まぁ、僕には関係ない。
僕は一番後ろのすみにある自分の席に座った。
教室での僕は空気のような存在だ。
別に僕は、みんなからそう扱われるのが嫌ではない。
むしろ、他人とあまり関わりたくない僕からすれば、有りがたい位だ。
HRが始まって担任の川原先生の後ろにもう一人いることに気付いた。
歩く度に金色の髪か揺れている。
「えー、イギリスからの転校生だ。あー、自己紹介をしてくれ」
川原先生が金髪男に指示を出すと、金髪男は黒板に自分の名前を書き始めた。
カツカツと小気味いい音が教室内に響く。
黒板に名前を書き終えた金髪男はくるりと向きを変えると人付きのいい笑顔を作った。
その笑顔を見た僕はこの金髪男が誰なのかようやく悟った。
「俺の名前は穂波晃(ほなみあき)。先生が紹介してくれた通り、イギリスからの帰国子女でーす。」
金髪男...穂波が喋ると、クラスの女子の黄色い声が上がった。
あながち、イケメンで、その顔に期待の裏切らない甘い低音の声色というとこだろう。
そうか、昨日の金髪男は転校生だったのか。
だから見た事のない顔だったのか。
「好きなことは運動と嫌いなことは勉強でーす。よろしくお願いします」
軽く頭を下げて顔を上げると穂波は僕の存在に気付き、ニコッと笑った。
すると前の席の名前のわからない女子がキャーっ小さく叫び、両手を頬に当てた。
顔が真っ赤だ。
どうやら、前の席の女子は自分に向かって穂波が微笑んだと思ったらしい。
自意識過剰もいいところだ。
僕は愛想悪く視線を窓に移した。
「穂波、席は一番後ろの上原の隣だ」
川原先生がそう言うと、クラスの女子がいいな~とか上原くん羨ましいなどと言っている。
僕からすればあんなチャラ男が隣だなんて御免だ。
「それと上原」
川原先生が僕の名前を呼んだ。
川原先生が僕をご指名だなんで珍しい。
「お前、穂波に学校案内してやれ。」
とのことだ。
また、めんどくさい事を押し付けてくた。
女子たちがまたいいな~だの何だのほざいてる。
そんなに羨ましいなら、変わってほしいい位だ。
「いいな上原」
いいや、良くない僕はちっとも良くない。
「返事!」
黙っている僕に川原先生が少し起こりぎみに言った。
「はい」
そんな役目ごめんだけれど、しぶしぶ僕はやるしかない。
本当めんどくさい。
「よし、穂波席につけ」
「はーい」
穂波はまっすぐとこちらに向かって歩いてくる。それも笑顔で。
何で僕がただ転校生と隣の席になって転校生の世話をしないといけないのだ。
穂波は自分の席につくと、こちらを見やりよろしくね沙登美ちゃんと言った。
誰が沙登美ちゃんだ。
僕は聞こえない振りをした。
そしてこの日から、僕の思いもしなかった高校生活が始まった。
まぁ、始まって欲しくはないんだが。