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エスケープボアの塩炊き

 おっと、思考がズレた。


 生活スキルEXの効果もあり、洗濯物の汚れは見る見る落ちていく。

 一度、生活スキルEXをオフにして使った事があるのだが、汚れが落ちるのに時間が掛かった。

 それだけでなく、衣類の痛みも早かった気がする。

 やはり生活魔法だけでは完全には除去出来ていないという事だろう。

 とはいえ、生活魔法を使っている影響で、事前に軽くでも汚れが取れているので後々の洗濯が楽になる。


 中には掃除みたいなスキルがあるそうで、それを所持していると汚れの落ち具合や綺麗になった際のピカピカ具合が違うらしい。

 まあ専門家に勝つ必要はない。

 一般家庭の掃除や洗濯にプロの腕前を要求するアホはいないからな。

 仮に居たとしても、ならプロを雇えって話だ。


「後は……」


 そうして洗濯が終わったので、洗濯物を外で干す。

 生活用アイテムボックスで乾燥させても良いんだが、天気が良いからな。

 お日様の光を浴びさせた方が良いだろう。


「洗濯も終わったし、今日はゆっくりしよう」


 などと独り言を呟き、ベッドにダイブ。

 後はゴロゴロするだけだ。

 そうしてのんびりする事数時間、太陽が真上に来た頃……。


「あのー……」


 という女の人の声が玄関から響いて来た。

 おや? 来客か?

 またお裾分けだろうか?

 と、考えながらオレは玄関に向かった。


「ルルリナさんとスルクスさん、こんにちは」


 そう、ルルリナさんが来ていた。

 一緒にいるスルクスさんというのはルルリナさんのお兄さんだ。

 村長の孫で村長の天職を得ている。

 この村の立場で言えば副村長と言った所か。

 順調に行けば彼が次の村長になるだろう。


 そのスルクスさんは籠を背負っている。

 どうやら本当にお裾分けに来たみたいだ。


「リリステラ様! 昨日はありがとうございました!」


 大きな声でそう言ったのはルルリナさん。

 お淑やかなイメージがあった所為か、少しビックリした。

 反射的に身体がビクッとした位だ。


 しかし、昨日? 何かしたっけ?

 フローラルウォーターをお裾分けしただけだが?


「あれは良い物ですね……」


 と、うっとり顔のルルリナさん。

 女の顔という訳ではないが、なんとも楽しそうである。


「確か……フロラルウォターでしたっけ?」


 フロラルウォター……なんか新しいアイテムみたいな名称だな。


「えっとフローラルウォーターですね。喜んでもらえた様で何よりです」


 若干面食らったが社交辞令を続ける。

 表情とは裏腹にオレは別の事を考え始めた。


 あれか、ルルリナさんも女の人という事なんだろうか?

 所謂、フローラルウォーターは化粧品として使われる事が多い。

 そして、化粧品を使うのは異世界でも女性が多い。

 この世界の化粧品は錬金術系のスキルで作られていて、材料の関係でランクがC以上でなければならないと聞いた事がある。

 更に言えばイリエル村は典型的な田舎の農村だ。

 田舎の村人が化粧品に触れる機会はそうないだろう。


 だとしても、だ。

 化粧品一つでここまで喜ばれるとはなぁ……。

 昨日使ってみた感じ、オレにはよくわからなかったけどな。

 正直、思い込みなんじゃないかと疑ってしまう。

 まあ、女の人が綺麗になりたい、という思いは遺伝子レベルなのかもしれない。


「ははは……」


 ルルリナさんのお兄さんことスルクスさんも思わず愛想笑い。

 人の良さそうな雰囲気のある青年らしく、妹との仲は悪く無い様だ。

 しかし、異世界でも家庭では女性が強かったりするんだろうか。


「私、とても嬉しくて、兄と一緒にエスケープボアを狩ってきたんです」


 買ってきたって聞こえたけど、これって多分狩って来ただよな?

 さも当然の様に魔物を狩って来たと言う娘さん。

 こういう部分も器量の良さに含まれるんだろうか。

 なんて考えている間にルルリナさんはスルクスさんの背負っている籠から荷物を取り出して、オレに渡した。


 渡されたのは肉だった。

 会話の前後から推測するに、多分エスケープボアの肉だろう。


 エスケープボアとは迷宮の森に生息している猪の魔物だ。

 ゲームに登場する猪と言えば凶暴なイメージがあるものだが、迷宮の森に自分から襲い掛かってくる魔物はいない。

 このエスケープボアも大人しい性質をしていて、この辺りでは食用として狩られる魔物だそうだ。

 なんでも人間を見つけると一目散と逃げていくらしい。

 だからエスケープボア……逃げる猪と呼ばれているんだろう。


「あ、ありがとうございます」


 受け取ったエスケープボアの肉を眺める。

 既に処理済みで、まさしく肉と言った姿だ。

 この状態からは生きていた頃の姿を想像する事も出来ない。

 まあ、新鮮な肉だし、今日の晩御飯にでも使わせてもらおう。


 しかし、あんな少ない量でこんなに肉をもらっても良いものだろうか?

 昨日も考えたがフローラルウォーターは精油を作る際の副産物だ。

 だが、その用途は意外と多い。

 化粧水として顔や髪に塗るのはもちろん、アロマテラピーの様に部屋にスプレーで噴射する人もいると聞いた事がある。

 香水の様な強い匂いが無いからだとかなんとか。


 まあ、どちらにしても精油を作れば作る程、手に入ってしまう品物でもある。

 オレの生活用アイテムボックスは時間と共に中身が腐るので、使い切れずに捨てる場面も出て来るだろう。

 うん、こんなに喜んでくれるなら譲っておくか。


「よかったらもっと譲りましょうか?」

「良いんですか!?」


 お、おう。

 凄く嬉しそうに食い付いてきた。

 化粧水パワー、尋常じゃないな。

 あんなお淑やかな娘さんがこうなるんだから、女の人の美への探求は恐ろしい物がある。


 なんて思いながら、オレは余っているフローラルウォーターをルルリナさんに渡したのだった。

 ルルリナさんは凄く喜んでくれて、頭を何度も下げていた。


   †


 さて、エスケープボアの肉を手に入れてしまった。

 せっかくもらった肉をダメにしてしまうのは勿体無い。

 という事で何か作るとしよう。


 エスケープボア……猪肉だ。

 猪の肉を使った料理と聞いて、ぱっと浮かんでくるのは牡丹鍋か。

 しかし、牡丹鍋は醤油と味噌が必要だったはず。


 醤油は代用品があるんだが、味噌がな……。

 もしかしたら似た様な品があるのかもしれないが、オレは持っていない。

 ……あまり良い結果は想像出来ないが、手持ちの材料で楽に料理出来そうな塩炊きにしてみるか。


 まず、エスケープボアの肉を生活用アイテムボックスに入れて、中で薄切りにする。

 そして、生活用アイテムボックスに入っている鍋を取り出す。

 生活用アイテムボックスの所為で全然使わない釜戸の上に置いて、鍋の井戸水を入れ、生活魔法で温度を上げていく。

 そこに以前王都の方で購入した、乾燥した海草を入れてダシを取る。


 ダシを取っている間に生活用アイテムボックスに入っている茸や味の濃くない野草……ハーブというよりは山菜を裁断しておく。

 白菜に似た奴や葱っぽい味の奴だから、鍋には合うだろう。


 ダシを取れたら塩を入れ、干し肉を薄く切って入れる。

 この干し肉は塩や香辛料などが使われているので、味付けとして丁度良いだろう。

 そうして薄切りにしたエスケープボアの肉を投入。

 肉から出るアクを適度に除去しながら、煮えにくい物から順番に入れていって、煮えたら完成。


 エスケープボアの塩炊きだ。


「なんとなく作ったが……」


 美味く出来ている自信が無い。

 ほら、猪肉って臭みが強いという話が多いからな。


 残念ながら日本に居た頃に猪の肉を使って料理をした事なんてなかった。

 そこは男の一人暮らし……結婚していても猪肉を使う家庭は少ないか。

 まあ、ここは生活スキルEXと生活魔法EXを信じよう。

 と、自分を納得させ、オレはエスケープボアの塩炊きを食べる事にした。


 まず、湯気を放っているスープをスプーンで掬い口に入れる。


「……こっちは問題ないな」


 肉から獣臭などは流れていない。

 やや質素な味付けだが、塩炊きに求める味になっている。


 次に野草、ネギっぽい奴だ。

 ……こっちも悪くない。

 適度な酸味とシャキシャキした食感が残っていて美味しい。


 茸は……もう本番に行こう。

 オレは煮えたエスケープボアの肉を口に入れた。


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