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芳香蒸留水

 ……なんか暑くなって来た。

 風呂に入っているのだから当然だが、汗も沢山流れている。

 そもそもバスソルトはミネラル系の入浴剤だから発汗作用があるんだったか。

 というか、喉も渇いてきた。


 もう消費してしまったので、昨日と同じくラムネモドキを作ろう。

 前回は炭酸濃度が高めだったので、少し下げてみようと思う。

 まあドライアイスの分量を少なくするだけなんだけどな。

 他にも蜂蜜の量を調整するとか、果物を混ぜて果実炭酸にするという手もある。

 とはいえ、あれこれ考えながらお風呂に入る気分ではないので、昨日と同じ蜂蜜水がベースだ。


「……今度は薄いな」


 所謂、微炭酸という奴である。

 こういう奴も日本では売られていたな。

 だから飲めない程ではないが、オレの好みだともうちょっと濃い方が良い。

 少しずつ調整して自分に合った物を作るのも手作りの醍醐味だから、明日以降も行なっていこう。


 さて、そろそろ上がるか。

 手作り入浴剤の風呂も良い出来だし、在庫もあるからしばらくは楽しめそうだ。


「よいしょっと」


 風呂から上がったら浴槽のお湯は生活用アイテムボックスに入れておく。

 何日も同じお湯で入る訳にもいかないしな。

 更に言えば精油やドライハーブを使っているので、洗濯に再利用という訳にもいかない。

 精油もハーブも色の濃い物が多いから、洗濯物に色が移ってしまうんだ。

 なので適当な時に捨てに行く。

 村に上下水道がある訳じゃないのが異世界での不満点か。


 それはともかく、お風呂から上がったら生活魔法を起動。

 全身を温かい風で乾かしていく。

 魔法製のドライヤーみたいな感じだ。


「そういえばルルリナさんにフローラルウォーターを渡したんだっけ」


 水が垂れない程度に乾燥出来た所でルルリナさんに渡したフローラルウォーターの件を思い出す。

 特別気にする事ではないが、他人に渡した物を自分で試さないのは気が引ける。

 そんな訳で自分でも使ってみる事にした。


 少量のフローラルウォーターを手の平に取って、顔に馴染ませる。

 薄っすらと植物由来の良い香りがした。

 なんとなく肌がサラサラになった様な気がしないでもない。


 確かヘアケアにも良いと聞いた事があるし、使っておくか。

 オレは桃色の長い髪にもフローラルウォーターを適当に馴染ませていく。

 あれだ。シャンプーの代わりとしてなら悪くないかもしれない。

 ヴィクトリア朝時代の貴族も常用していたらしいし、悪い物ではないだろう。

 何より髪が長いので消費量も多くなるから丁度良い。

 オレの生活用アイテムボックスの中身は放置しておくと腐るからな。


 しかし……化粧水とか、まるで本当の女になったみたいだな。

 いや、肉体的には本当に女の子になってしまったんだが。

 そういう意味ではなく、化粧水を使う様な女の子っぽくなってしまったという意味で。

 正直、男だった頃のオレだったら考えられない事だ。

 まあ、今時は男でも化粧水ぐらいは使うらしいが。


 昔、教え子がそんな事を言っていた。

 高校生にもなると肌のケアは男女関係無いらしい。

 いや、あくまでそいつの言い分だが。

 多分、大多数の男子生徒は化粧水なんか使っていないと思うがな。


「う~ん、これって効果があるのか?」


 今一わからないが、女性が毎日しているんだから意味があるんだろう。

 これからも入浴剤は作るだろうし、精油を作った際の副産物だから自然と溜まっていく。

 消費も兼ねて自分で試すのが一番だ。


 そうしてフローラルウォーターを塗り終わったオレは生活用アイテムボックスから寝巻きを取り出した。

 王都で売っていた服で、高価な物でもないのでパジャマ扱いしている。

 まあそうは言ってもこの世界の衣類はそれなりに高い。

 普段着ている村人姫の服に比べたら安いというだけだ。


 着替え終わったらイスに座り、のんびりする。

 日が沈んで夜になったので、特にやる事もない。

 何か内職みたいな物があればするが、今日は疲れたし、風呂上りなのでゆっくりしよう。


「ふぁ……こんなにのんびりしていて良いのかねぇ……」


 オレの教え子達は今もこの世界のどこかで戦っている。

 それなのに召喚された唯一の大人であるオレが隠居して余生を過ごしていて良いものなのか。

 いや、オレが彼等と一緒に居ても足を引っ張るだけなんだけどさ。

 教え子達もあれこれ言うオレを鬱陶しがっていた節はあるし、今更戻って来ても空気の読めない奴、みたいな顔をされるだろう。

 奉仕されるつもりもない。


 これもそれも強い天職に選ばれなかったオレ自身の運の無さを呪うべきなのか。

 それとも、何もかも諦めてしまったオレ自身を軽蔑するべきなのか。

 なにより、選ばれた勇者達を心配する事自体がおこがましいのか。


 どちらにしても村人姫風情に選択の余地は残っていない。

 だが……せめて、こう言わせて欲しい。


「がんばれよ……」


 夜空に瞬き始めた星に向かって、オレはそう呟いたのだった。


   †


 翌朝、オレは自宅でのんびりしていた。

 昨日一昨日と迷宮の森に行ったし、なんとなく疲れている様な気がしたからだ。

 ちなみに疲れていると思っただけで、実際はそうでもない。


 さすがは少女の身体。

 35のおっさんと比べて回復速度が違う。

 もしも以前のオレだったら翌日には筋肉痛……下手をしたら三日位してから来る。

 それが8歳の少女だと翌日には全回復だからな。

 これが若さと言うものか。

 とはいえ、心は35のおっさんなので精神的には疲れている。

 なので今日は家でだらだらしているという訳だ。


 そうは言ってもやる事は沢山ある。

 二日も連続で家を留守にしていたから、若干埃が積もっている。

 何もしていないのに汚れるから家というのは不便だよな。


 とはいえ、そこは生活魔法EXを活用する。


 オレはベッドの上でだらだらしながら、生活魔法で雑巾を浮かせる。

 バケツに生活用アイテムボックスに入れてあった川の水を入れ、雑巾を浸す。

 雑巾は一つだけでなく、二つ三つ、と出来るだけ多めにだ。

 この際に生活スキルEXも発動させるのを忘れない。

 後は魔法の力で部屋中を掃除するだけだ。

 どこまで便利なんだ魔法。


 水を絞った雑巾が浮かび上がり、部屋の汚れている場所を掃除し始める。

 格子戸の縁に積もった埃やテーブル、イス、風呂桶などを丁寧に掃除するのだ。

 ちなみにこの浮遊させる魔法……実は操作が難しい。

 オレは生活魔法がEXなのでどうにか操作出来ているけどさ。


 一度、これで武器を浮かべて見て戦えるか実験をしたのだが、戦闘に使うには威力が足らなかった。

 仮に当っても弾かれて終わってしまう。

 掃除にしても生活スキルEXと併用で使わなければ汚れを落とすのも難しい。

 そんな戦闘の役に立たない生活魔法だが、日常生活には役に立つ。


 さて、熟練度みたいなモノがあるかは知らないが、日に日に習熟して来ている気がする。

 生活用アイテムボックスとセットで使う事が多いのだが、最近は手馴れてきた。

 天然酵母や水蒸気蒸留が出来る様になっている訳だし。

 まあ最初の頃はもっと覚束ない感じだったしな。


「しゅーりょー」


 なんて考えている内に部屋の掃除が終わった。

 埃を取るだけなのでそれ程苦労はしない。

 ……外を眺めると今日は良い天気みたいだ。

 ついでに洗濯もしておくか。


 オレが普段から使っている村人姫の服は壊れない。

 これは教え子が付与した特殊効果なのだが、当然汚れはする。

 こちらも生活魔法で何とかなるんだが、定期的に干した方が良いとも言われている。

 何より夜に着たパジャマの様な壊れる服も持っているので、洗濯をしないという訳にもいかない。


 これまた生活用アイテムボックス内に使用済みの衣服を集める。

 残念ながら洗剤は持っていないので、汚れのある場所を重点的に洗う。

 生活用アイテムボックスの中はオレの領域だからな。

 外に比べて出来る事の幅が広いのだ。


 風魔法を使って洗濯機の様にぐるぐると回転する空間の中。

 汚れだけを重点的に狙って洗濯出来るというのは凄い事なのではないだろうか?


 この時に活躍するのが毎度お馴染み生活スキルEX。

 生活魔法の使い勝手が良過ぎるのでついつい忘れがちだが、こいつが無いと相当苦労しただろう。

 雑巾を浮かせて掃除するにしても汚れが取れなかったら意味が無い。

 そうなったら自分の手を使ってゴシゴシと擦るしかないからな。

 採取にしても何にしても、小さな所で役に立っているのだ。


 そんな生活スキルEXなのだが、消費する魔力量は非常に少ない。

 もしかしたら生活魔法よりも少ないかもしれない。

 なので基本的には常時起動させている。

 まあほとんど生活魔法とセットで使うので、生活魔法を使う際に再起動させる事も多いが。


 というのも、この世界のスキルはオンオフがわかりづらいんだ。

 ゲームみたいに表示されていれば良いんだが、残念ながら表示されていない。

 だから使ったかどうか忘れた時はとりあえず再使用している。

 どうせ消費魔力も微々たるものだしな。


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