表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

水蒸気蒸留

「んー……!」


 翌朝、オレはまだ陽が昇る前に目が覚めた。

 いや……歳を取ると朝が早くなっていけないな。

 まあどちらかと言えば肉体年齢が若いからの可能性が高いが。

 とはいえ、寝起きにうんうん唸りながらがんばって起きるのと違い、パッと起きれるのは悪くない。

 8歳の身体は血圧がそれなりに高いからだろう。

 やる事がないので夜の9時には寝ていたのも理由か。


「さて、今日は入浴剤を作らないとな」


 昨日、風呂の最中に考えた事だ。

 石鹸作りは材料が無いので保留だが、入浴剤は割と簡単に作れる。

 そんな事を考えながら、オレは生活用アイテムボックスから衣服を取り出した。


 村人姫の服+34

 村人姫の靴+28


 これがオレが使っている防具……で良いのか?

 まだ王都に居た頃に教え子が作ってくれたんだが、+値が凄まじい。

 破壊不可の特性が入っていて、雑に扱っても壊れない。

 防具としての性能は微妙なのだが、普段着としては最高の一品に仕上がっている。


 教え子曰く『超低コストで作れるんだよ。かわいいの作るね』だ。

 その言葉の通り、普通の村人が着ているものよりも派手だ。

 スカートがミニだったり、フリルが付いていたり、和風テイストだったり、と教え子の趣味が出ている。

 しかも非常に安値で作れるそうで、7着もくれた。

 だから一日毎に着替え、一週間で一回りする感じだ。


 オレは元男なのでしょうがないが、女性のファッションには疎い。

 一応若い者達と接する職業だったので、多少は気を使っていたのだが、それでも今のファッション文化に付いていける程精通はしていなかった。

 だからよくわからない、というのが本音だ。


 しかし、異世界の農村……イリエル村におけるこの服の評価は意外と高い。


 特に女性はその傾向が強くて、ちょっとした要素をマネしている人もいる。

 オレの教え子は防具や衣類を作るのに適した天職に選ばれただけあって、そういうセンスもあったという事なのかもしれない。


「アイツ等、元気にしているかな……」


 などと遠くでがんばっている教え子を思いながら着替え終わった。

 次は生活魔法で身体を清潔にする。

 昨日お風呂に入ったが、やっておいて損は無い。

 何よりこの長い髪を自前で手入れするのは骨だ。


 切ろうとも思ったんだが、姫要素が無くなると村人姫の天職の力が弱まるかもしれない、と過去に言われた事があり、そうなると困るので髪の長さを維持している。

 幸い生活スキルと生活魔法を使えば楽々と手入れが可能だったので、別段困っていないという事もあり、そのまま伸ばしているという訳だ。


「色さえ普通ならな……」


 この世界では青や赤と言った髪の色は珍しくない。

 しかし、現代で育った身としては桃色はきついものがある。

 だが、自分の髪を何気無く触るとふわっと柔らかく、艶のある触り心地だ。

 教え子達が言っていた姫要素とやらも何となくわかる気がする。

 客観的に見て自分の容姿が、凄くかわいい少女なのは事実だしな。

 これが冴えないおっさんだったなら、この村の人もあんなに優しくはしないだろう。


「まあいっか」


 今更気にしてもしょうがない。

 オレは男に戻るのも、日本に帰るのも諦めた、ただの村人姫だ。

 己の領分というのを弁えている。

 世界の命運は若者達に任せるとしよう。


 などと考えながら昨日作ったパンと以前もらった干し肉、ラムネモドキを生活用アイテムボックスから取り出す。

 刃物でパンの中心に切れ込みを入れて、薄く切った干し肉を挟む。

 これだけだと寂しいので、昨日採取した野草も挟んでおく。

 後は食べるだけだ。


「……もぐもぐ」


 うん、冷めても美味いな。

 ドライイーストとは違う、天然酵母独自の味付けは手作り感があって良い。

 干し肉の塩味と野草の風味が合わさって豪華な感じがする。

 まあ日本の市販品に比べれば味は劣るし、普通に硬いから改良が必要ではあるが。


 口内の水分が減ってきたらラムネモドキを口に含んで、飲み込む。

 ここが日本なら、ご飯とジュースなんて……と思ったかもしれないが、男の食事なんてこんなもんだ。


 元男としては食べ足りない様な気もするんだが、8歳の、それも少女の身体は意外に燃費が良くてな。

 質量的にもあまり入らないので、コレ位が丁度良いんだ。

 ちなみに食べ終わった後は生活魔法を起動させれば歯磨き入らずである。


「ごちそうさまっと」


 さて、今日はこれから迷宮の森へ採取に行く予定だ。

 その前に生活用アイテムボックスで軽く準備をしておく。


 昨日採取した野草のいくつかを品種毎に束にして、風を発生させた空間に吊るす。

 そして弱めに時魔法を掛けておく。

 これで準備万端だ。


 オレは迷宮の森に出発したのだった。


   †


 入浴剤と聞いて思い浮かべるのは何だろうか?

 日本人なら粉末状の奴や炭酸を用いた固形型とかを想像するかもしれない。

 そんな入浴剤だが、割と簡単に自作出来る。

 精油と塩さえあれば作れるのだ。


 塩はともかく、精油は馴染みの薄い言葉かもしれない。

 とはいえ、言い方を変えてエッセンシャルオイルと言えば、オレの教え子なら知っているだろう。

 この精油を作っていこうと思う。


 精油の材料はハーブだ。

 昨日採取した野草の事で、今日パンに挟んで食べた奴でもある。

 このハーブが大量に欲しい。

 そんな訳で昨日今日だが、迷宮の森にやって来た。


 迷宮の森には沢山のハーブが群生している。

 昨日採った奴だけでも三種類だ。


 ニトニア 

 フアオナ 

 ミセベル 


 具体的にはこの三種。

 どれも食用、飲用可能であり、もしかしたら薬用にも出来るかもしれない。

 これは美容も可能という事だ。


 そういえば迷宮の森には毒性の動植物は居ないと村長が話していたっけ。

 植物はよく似た毒性のある偽者があったりするから怖いんだよな。

 それが無いというのは非常にありがたい。


 ともかく、精油を作るにはハーブが大量に必要なので、今日は採って採って採りまくる。

 いくら採ってもまた生えてくるという迷宮の性質があるから遠慮は要らない。

 襲ってくる魔物も居ないしな。


 なんて感じで生活用アイテムボックスを常時展開し、採取したハーブ類を無造作に入れていく。

 実際は混ざると困るので品種毎に分けている。

 材料はいくらあっても困る物では無いので、延々と採取を続ける。


 ……変な脳汁出て来た。

 そこ等中の必要なハーブが群生していて、しかもそれを採っても文句を言われない、という環境がオレの欲求に火を付けた。

 オレは腹が減ったら軽く食事をしたが、それ以降も採取を続けた。


 そうして……気が付けば夕方になっていた。


「……帰るか」 


 一瞬、何やってんだろう、と思ったが暇を潰せたのだからよしとしよう。

 迷宮の森からの帰り道、当初の目的である精油の作成に入る。

 まず、生活用アイテムボックス内に三つの空間を作る。


 一つ目は水を下から熱し、蒸気を作っておく。

 二つ目は冷気で空間を包んでおく。

 三つ目は特に何も弄らない普通の空間だ。


 一つ目の空間の中間に魔力で網状の柵を作り、採取したハーブを入れる。

 ハーブが熱した蒸気に当てられているが、コレで問題ない。

 これを長時間続けるのだが、時魔法で少しだけ速くする。

 この一つ目の空間を小さい管で二つ目の空間に繋げておく。


 二つ目の冷えた空間内をハーブの蒸気が通過していく。

 冷気に包まれているので蒸気も自然と冷たくなる。

 そしてこの二つ目の空間も小さい管で三つ目の空間に繋げておく。


 最後に三つ目の空間だが、ここに一つ目と二つ目の空間を通り過ぎた蒸気の液体が溜まっていく。

 時魔法を使っているので非常にわかりやすいが、上部に油っぽい層、下に液体が溜まっている。

 この上澄みの油が精油だ。


「よし」


 生活スキルの効果もあるのか……はわからないが上手く出来ている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ