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アイスクリーム

「おっと……空薬莢を抜かないといけないんだったか」


 オレは開閉レバーを動かし、猟銃を折って開く。

 すると薬室から空薬莢が飛び出してきた。


「うわっ!」


 想像もしていなかったので、空薬莢が飛び出した事に驚く。

 空薬莢はオレの後ろの方に軽い音を立てて転がった。


 ああ……使い終わった薬莢は開いた時に飛び出すのか。

 実際、二つ入れたショットシェルの内、使っていないもう片方は収まったままだ。

 結構便利に作られているんだな。


 ふむ……とりあえず撃ってみたが、武器として使えそうだな。

 何より銃口から弾が出て行く感覚は痺れる様な気持ちになる。

 爽快感というか、スカッとする。

 エアーガンにしろ実銃にしろ、銃を撃って楽しむ者の気持ちを少しは理解出来た。


「先生、私もやってみたい!」

「別に良いが、気を付けろよ」

「うん」


 一応安全の為、オレは入れたままになっているショットシェルを抜いてから、弾と一緒に村人姫の杖を綿貫に渡す。

 綿貫は受け取った村人姫の杖をオレと同じ様に撃てる状態してから、同じ木に向けて、引き金を引いた。


「あれ?」


 しかし、カチッという何かを叩いた様な音がした後、何も起こらなかった。

 少なくとも銃口から弾は出ていない。

 やはり専用装備は特定の天職じゃないと使えないみたいだな。

 まあ、綿貫が杖みたいに振り回せばオレ位なら倒せると思うが。


「何で撃てないんだろうね~」

「この世界はよくわからないルールで動いているからな……」


 それでも理由を考えるとしたら……そうだな。

 特定の天職でしか発動しないという部分が鍵になっているかもしれない。

 天職という概念自体がよくわかっていないからアレだが、天職毎に持っている固有の要素……それこそ魔力の形状が天職によって違うとしたら一応の説明は付く。

 村人姫の杖で弾を撃つ時、特定の魔力が通る事で発動する、みたいな感じだ。


「ん?」


 銃声に釣られてやってきたのか、コマ、マド、ドリーが飛んできた。

 いつも通り手を伸ばすと三羽はオレの手に止まる。


「三日振りだな。調子はどうだ?」

「チュン!」

「ジュン!」

「キュン!」


 ……だから個性を出さなくても良いぞ。


「わー、コマくん、マドくん、ドリーちゃん、私の事覚えてる~?」


 綿貫が楽しそうに話しかけている。

 そうだ! アニマルテラピーだ!

 沈んだ気持ちを動物を通じて解消するんだ。


「チュン……?」


 おい、『誰だお前?』みたいな顔すんな。 

 くっ……鳥型の使い魔では記憶力に問題があったか。


「え~、私の事忘れちゃったの~?」

「ジュ、ジュン……」


 コマ達も雰囲気を察したらしく、困っている。

 あれだ。『なんか、すいません』みたいな態度だ。

 使い魔だから何となく言っている事を理解出来るが、そんな感じのはず。


「もう、しょうがないな~。今度は忘れないでね?」


 とはいえ、綿貫も小鳥に文句を言うつもりはないらしく、優しげに話しかけている。

 まあ、アニマルテラピーになるかはわからないが、動物と触れ合わせてやろう。

 オレは生活用アイテムボックスから在庫のパンを取り出しながら言った。


「綿貫、コイツ等はこれが好きだから食べさせてやってくれ」

「え? 良いの?」

「ああ。偶に食べさせているんだ」

「そうなんだ。やったー」


 綿貫はオレからパンを受け取ると小さく千切ってコマ達の口元に近づける。

 オレの場合、基本的に地面に投げて食わせるのでアレだが、コマ達も普通の小鳥ではなく使い魔だ。

 意図を察した様で、綿貫が持っているパンを啄ばみ始める。


「どう? 美味しい?」

「キュンキュン!」


 まあ、この反応を見るにやらないよりは良いはずだ。

 そう考えたオレは綿貫がコマ達に餌をやり終えるのを待ったのだった。


   †


「それにしても、この世界の夏は暑いね~」


 迷宮の森からの帰り道、綿貫は言った。

 オレは生活魔法でクーラー状態なので問題無いが、確かにこの世界の夏は暑い。

 夏も本格化し始めているというのもあるが、日中は軽く30度を越える。


 綿貫は暑さ特有の汗が流れており、頬も少し赤い。

 さすがの剣聖の天職を持つ綿貫と言えど、暑い物は暑いみたいだな。


「地下迷宮はもっと南にあるんだろう? そっちの方が暑いんじゃないか?」

「う~ん、そうでもないよ~。大体この辺りと同じ位」

「そうなのか」

「うん。なんでもこの世界の四季は精霊さんが司ってるから、どこもそうなんだって」


 精霊が四季を司る、ねぇ。

 異世界の事なので本当の事かは知らないが、精霊がんばり過ぎなんじゃないか?


「……先生全然暑そうじゃないけど、大丈夫?」


 気付かれてしまった。

 確かにオレは暑くない。

 オレの皮膚数ミリ付近は23度だからな。

 涼しい顔をしていられる温度だ。


「綿貫、オレの使える魔法は生活魔法だ」

「うん、知ってるよ。何で突然?」

「生活魔法の応用でオレの周辺はクーラーになるんだ」

「え~、ずる~い!」

「気持ちはわかるが、ずるくはないな」


 それを言ったらお前等の戦闘能力の方がずるいだろう。

 綿貫は使えないが、氷魔法を使えたら似た様な事が出来るしな。

 しかも威力はオレよりも遥かに高い。

 とは思ったが、黙っておく。


「ねぇ、先生。こっちに風を送って」

「まあそれ位なら」


 オレの生活魔法はオレから離れれば離れる程、出力が落ちる。

 クーラーにしても精々数センチって所だ。

 それを超えると途端に魔力の形成が弱くなってしまう。

 とはいえ、涼しい風を送る位なら可能だ。

 オレは生活魔法で冷気を発生させた後、風魔法を使って綿貫の方に飛ばす。


「あー……涼しい……」


 あれだ。感覚的には団扇で扇いでいる様な気分。

 魔力消耗自体はそうでもないが、魔法使用範囲が普段よりも広くて少し疲れる。

 これも団扇っぽいな。


 ……とは思うんだが、前よりも少しやり易い気もする。

 もしかして村人姫の冠の効果で生活魔法に補正でも掛かっているのかね?

 元々生活スキルや生活魔法は効果を実感しづらいスキルだから、この王冠の効果が発動しているのかわからないんだよな。

 まあ、付けないよりは良い、程度に考えておこう。


「はぁ……こう暑いと冷たい物が食べたくなるよね~」

「そうだな」


 夏と言えば素麺とか蕎麦を食いたくなる。

 特別好きという訳ではないし、何度か食べると飽きるが、夏になると一度は食べるんだよな。


 よし……教え子の為に冷たい食べ物を作ってやるか。

 さすがに即席で素麺を作るのは時間が掛かるし、アレは座って食べる物だ。

 だから歩きながら食べられる物が良いよな?

 となると、オレは手持ちの材料から良さそうな食べ物を考える。

 夏で冷たい食べ物……よし、綿貫は女の子だし、あれなら好きだろう。


 まず、生活用アイテムボックス内で以前もらった、村で飼育されている生物の卵をかき混ぜる。

 それなりに泡立つ位混ざったら蜂蜜……いや、教え子の為だ。

 奮発して砂糖を入れて、砂糖が溶けるまで再度混ぜる。

 次に何かの生物の乳を混ぜ、泡立つ位、混ぜまくる。


 本当はこの後、バニラエッセンスやバニラオイルを入れるんだが、持っていないので省略する。

 ちなみにバニラエッセンスはバニラビーンズのアルコール漬けの事だ。

 バニラの果実の酒漬けと呼べばわかりやすいかもしれない。

 なのでバニラという植物ががあれば作る事は可能なんだが、異世界にバニラがあるはずもない。

 そう考えると似た様な物は作れるのか。

 今度、ハーブに酒を漬けて料理用の香料を作るのも良いかもしれないな。


 さて、泡立てた材料を氷魔法で冷やしていく。

 出来るだけ凍る寸前が良い。

 時魔法も併用しながら、調整していく。


 凍る寸前になったら再度風魔法で、今度はしっかりとかき混ぜる。

 空気を大量に含ませて、とにかくかき混ぜる。

 後は氷魔法、時魔法、風魔法を併用して長時間混ぜながら凍らせる。

 そうして泡が固まったら、完成だ。


 手作りアイスクリームである。


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