天職専用装備
「あー……なんだコレは?」
渡された王冠を見ながら尋ねる。
「何って専用装備だよ~」
「専用装備?」
まあオレもゲーム的な考えは出来るので想像出来なくはない。
とはいえ、一応聞いた方が良いだろう。
「あ、先生が居た頃はまだ聞いてなかったんだっけ。えっとね――」
綿貫の話ではこうだ。
専用装備というのは天職専用装備の事だ。
該当する天職の者しか、その装備の力を発揮する事が出来ない。
代わりに専用装備は通常の装備よりも強力である事が多いのだとか。
ゲームなんかでは割とありがちな仕様だな。
ちなみにオレが使っている村人姫の服や靴も分類上は専用装備に属するそうだ。
まあ専用装備にも階級はあるみたいだが。
「今はクラスのほとんどの人が地下迷宮の辺りにいるんだけど、みんな専用装備をどうやって手に入れるかで悩んでるんだよ~」
地下迷宮というのは、この国にある世界3大迷宮の一つだ。
残念ながらオレは行った事が無いが、南の方にあると聞いた事がある。
そんな地下迷宮では天職専用装備が手に入る事があるみたいだ。
当然ながら迷宮の森なんかとは比べ物にならない位、強力な魔物が現れるらしい。
「……そんな所に行って本当に大丈夫なのか?」
勇者や聖女、剣聖と言った超常な力を宿した教え子達を知っているオレでさえ、心配になる。
オレが心配した所で何かが変わる訳ではないが、どうしてもこの感情を止められない。
「大丈夫だよ~。私でも余裕で進んで行けるんだからね」
まあ綿貫は剣聖だからな。
剣聖は剣術という一点においては勇者である瀬尾よりも強い。
元々は極々普通の少女だった綿貫が達人の様に長剣を扱う様は、まさしく剣聖と言った感じだ。
で、この王冠は『村人姫の冠』という専用装備らしい。
綿貫が鑑定スキルで調べてもらった所、装備している村人姫の取得している全スキルに上昇補正を掛ける効果があるんだとか。
……中々に凄い効果だな。
こういう効果があるからこそ、専用装備を手に入れる為にがんばっているんだろう。
「天職専用装備はいっぱい種類があってね、同じ天職でもいっぱいあるんだよ」
しかし、どれもこれも貴重な物で中々見つからないらしい。
一つでも持っていればクラス内では一目置かれるそうだ。
まあ村人姫という非戦闘&非製造職のオレではいくつ持っていても微妙だろうが。
「私のこの剣も専用装備なんだ」
と、綿貫は自慢げに腰に差していた長剣を見せてくれた。
綿貫の長剣は装飾の施された祭儀用の剣にも見えなくはないが、強いみたいだな。
まあゲームなどで登場する強力な武器というのは総じて見た目も良いものだ。
外見で侮ったりはしない。
専用装備を持っているという事は綿貫も相当凄いんだろう。
地下迷宮の詳しい事情は知らないが、この手の装備は中々手に入らないのがお約束だ。
少なくともゲームなら手に入れるのに苦労すると思う。
入手先が迷宮か市場にもよるだろうが、どちらにしても難易度は高いはず。
さて、専用装備についてはわかった。
つまり綿貫はオレの為に村人姫用の専用装備を持ってきてくれた訳だ。
「それは助かる。オレは元が弱いから、少しでも効果が上がると嬉しいからな」
オレの天職である村人姫は弱い。
戦闘と製造、両方から見ても弱い。弱すぎる。
それこそ田舎の村で余生を過ごす事くらしか選択の余地が無い位、弱い。
すごく弱い村人姫に専用装備が付いても高が知れているだろうが、無いよりはマシだ。
実際、戦闘や製造では役に立たなかったが、この村の生活では役に立っているしな。
現に今もクーラーを作動させ、濡れていた髪も乾きつつある。
「安心して、先生が大好きな子からはみんなで守ったから~」
「ん?」
「先生専用装備ってすごく欲しそうな顔をしていたんだよ。瀬尾くんが聞いた話だとなんかそれで何かしようとしていたらしいけど~」
……そいつはもう病気なんじゃないか?
ロリコンを患いすぎている。
俺の専用装備で何をする気だったのか知りたくない。
なんて考えていたら綿貫が言った。
「ふふん、実はもう一個あるんだ」
綿貫が取り出したのは『村人姫の杖』という装備だった。
名称からもわかる通り、村人姫用の専用装備で武器に該当する。
そんな説明を受けたオレは綿貫に言った。
「綿貫、お前にはこれが杖に見えるのか?」
「うん、それ言うと思ったよ~」
そう……村人姫の杖は杖の形をしていなかったのだ。
これは上部分で良いのか……筒状の穴が二つ空いている。
その筒を沿う様に降っていくと、利き手とは別の手で支える場所がある。
更に少しだけ進むと中が折れて曲がる場所がある。
その中を確認すると先程の筒状の穴から垂直に伸びている場所に二つ程、筒状の物体を入れるスペースがある。
そして中折れを元に戻し、もう少し降ると……引き金が付いていた。
要するに――銃である。
「これは……上下二連って奴か?」
「そうなの?」
「いや、オレもマンガとかの知識だからわからん」
オレもそこまで知識がある訳ではないが、テレビやマンガなどで見た事のある形状をしている。
これがもしも地球の実銃だとするなら、所謂散弾銃という分類に入る物のはずだ。
弾の大きさもバレットというよりはショットシェルという形状の物のはず。
まあ弾を入れる薬室だったか? は空だが。
つまり弾が入っていないという事だ。
とはいえ、形状は二つの筒を上下に並べたライフルと言った感じだ。
こういうのを上下二連式散弾銃、あるいは上下二連式猟銃と呼ぶと聞いた事がある。
もちろん実物を見たのは初めてだ。
こんな物、ゲームやマンガでしか見た事がない。
いや、まあ、今住んでいる場所が異世界である以上、強く突っ込むつもりはないが、剣と魔法の世界に猟銃が登場するのはな……。
こういう世界の飛び道具と言ったら弓なんじゃないのか?
などと思ったが、地下迷宮で見つかった天職専用装備に文句を言ってもしょうがない。
「先生の専用装備が二つも出て、みんな悔しがってたよ~」
まあ一つで一目置かれる専用装備が二つも出たらそう思う気持ちも理解出来る。
とはいえ、村人姫の専用装備では二つあってもそこまでは期待出来ないだろう。
それこそあれだ。
「ゲーム風に言うならドロップ率が高いんじゃないか?」
「あ~、男子も言ってたね~」
やはりそういう認識をしている奴も居たか。
勇者と村人では村人の専用装備の方がレアリティが低いと考えるのが自然だ。
出やすい分、性能もそれなりというのがありがちな展開だからな。
そして貴重な装備というには希少だから価値があるんだ。
勇者の装備は手に入りづらい分、性能も高いだろう。
だからオレ用の専用装備が多く手に入っても喜ぶのは早計ってものだ。
「異世界の銃だからみんなでバンバンってやってみたけど、やっぱり私達が持ってもただの筒だったよ」
教え子の中には製造系の天職に選ばれた奴もいる。
だから弾薬を作って実験などもしたはずだ。
しかし、専用装備という性質上、銃として機能しなかったと。
それにこの専用装備はあくまで『村人姫の杖』だ。
村人姫の銃という名称でない以上、杖以下でも以上でもないって事なんだろう。
「やっぱり撃てるの?」
などと、どことなく嬉しそうな表情の綿貫。
「いや、ここでは使わないが」
「え~、見たいな~」
オレの家、しかも農村の中で銃を発射出来るはずもない。
仮に猟銃として使えたとして、銃声が聞こえてみろ。
みんな何事かと集まってくるぞ。
だから実験するにしても明日以降、迷宮の森でやる事になるだろう。




