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手作り石鹸

「植物油か……」


 ハシドさんとミリフィンさんが帰った後、オレはそう呟いた。

 植物油……はっきり言って、精油なんかよりも遥かに用途の多い物品だ。

 料理に使えるのはもちろん、美用品にも使える。


 とはいえ、オレ的にはそれ程、高価な品という訳でもない。

 エイクリーの果実さえあれば生活魔法と生活用アイテムボックスで自作出来るからな。

 まあ、採油スキルで作った物と別の方法で作った物では差があるのかもしれないが。

 とりあえず、生きていれば勝手に消費されていく品だな。

 オレが使うという意味で。


 さて、この植物油だが……見た所かなり質が良い。

 具体的な数値はこんなだ。


 エイクリーオイル 品質87


 さすがは採油スキル持ちと言った所か?

 それとも素材であるエイクリーの果実から厳選しているんだろうか?

 どちらにしても、この品質であればパンにそのまま塗っても美味いはずだ。


 地球で言うなら良質なオリーブオイル……エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルに匹敵するかもしれない。

 確かオリーブオイルにはファインだとかオーディナリーだとか、そういう品質呼称があったはずだから、それに因んだ。

 まあ、ここは異世界なので、もっと良い食用油があったらその限りではないが。

 ともかく、この村で使用される食用油の中ではエイクリーオイルは最高峰だ。


 とはいえ、この暑い時期に油を使った料理か。

 まあ胡麻油で作る料理みたいに涼を保ちつつ作れる物もあるのか?


 などと考えていたら、突然とある言葉が脳裏を過ぎった。

 ふと、思い出したとも言える。

 むしろやっと思い出せた。


 ――石鹸を作ろう!


 前々から欲しいとは思っていたが、丁度良い植物油が手に入ったんだ。

 少し面倒だが、昔の作り方で作ろうと思う。


 まず釜戸の下に辺りに溜まっている灰色の粉……灰を採取。

 何を燃やして出来た灰かによっても出来に差が出るらしいが、今回は初回なので適当な灰で作ろうと思う。

 出来るだけ白い灰を採取……というより生活用アイテムボックスに入れてから白い灰だけになる様にした。


 ここで水を沸騰させる。

 水を沸騰させたら灰と混ぜて時魔法を使い、12時間程経過させる。


 この後、本当は藁やら枝やら小石やらを使ってから漉したりするんだが、オレが使っているのは生活魔法と生活用アイテムボックス。

 必要な部分だけ分ける事が可能だ。

 混ざった液体から邪魔な灰砂を除去し、液体だけを取り出す。

 この際、液体に含まれている成分の中から水酸化カリウムは出来るだけ除去する。

 空気から酸素と二酸化炭素を分別した時と同じ要領だ。


 そうして出来上がったのか灰汁である。

 灰汁はまたの名をアルカリ水という。

 なので結構危ない液体だ。


 さて、エイクリーオイルにこの灰汁を混ぜていく。

 灰汁の色があまり良いとは言えないが、ゆっくりと混ぜる。

 時魔法で時間を進めながら混ぜ、粘度が適度に増したら、余って困っている精油を5滴程垂らし、混ぜていく。

 そして生活用アイテムボックス内の空間を小さく長方形にする。

 後は湿度が入らない様に調整して、時間を進めて寝かせる。


 手作り香り付き石鹸の完成である。


「おお、まさかカチカチに出来るとは……」


 取り出してみると、それなりに想像通りの形になった。

 少し色に濁りはあるが、固い石鹸になっている。

 嗅いでみるとハーブの香りがした。

 上手く出来た様だ。


 ハッキリ言って失敗すると思っていた。

 特に灰汁の作り方はかなり繊細で、含まれる成分などが非常に影響を及ぼす。

 ちなみに水酸化カリウムを除去出来なかった場合、固形ではなく液体タイプの石鹸になってしまう。

 具体的には水酸化ナトリウムなら固形、水酸化カリウムなら液体という訳だ。


 正直、普通の方法で固形石鹸を作るのは不可能だ。

 まあ、だから諦めていたんだが。

 とはいえ、オレの生活スキル、生活魔法、生活用アイテムボックスを活用したら水酸化カリウムを除去出来たので上手く行った感じだ。


 ……多分、生活スキルと生活魔法の補正もかなり掛かっていると見た。

 そうでなければここまで上手くは行かないだろう。

 大体、液体から特定の成分だけ除去するとか、どんな神業だって話だ。

 ともかく、石鹸を作る事は出来た。


「よし、石鹸が出来たならもう一つ行くか」


 要するに、バスオイルを作るのである。


 いや、これだけ質の良い植物油で作ったらどうなるのか気になっただけだ。

 石鹸にしてもバスオイルにしても、そこは食べ物にしろよと思わなくもないが、もらったエイクリーオイルはそれなりに量がある。

 だから、この汗を大量にかく時期には良いバスオイルが出来る様な気がするんだ。

 そんな訳でバスオイル作りである。


 石鹸と比べるとバスオイルを作るのは本当に簡単だ。

 まずは……そうだな。せっかく良い植物油なんだから、こっちも素材を厳選しよう。

 確かエイクリーの樹皮を使って作った精油があったはずだから、それにするか。

 元が同じだから相性も良いはずだ。


 さて、生活用アイテムボックス内に空間を一つ作り、エイクリーオイルを入れる。

 全部入れると他の用途で使えないので、使用する量には気を付けよう。

 そこにエイクリーで作った精油の中でも質の良い物を20滴程垂らす。

 後はよく混ぜ合わせる。


 これでバスオイルの完成である。

 エイクリーバスオイルとでも名付けよう。


 まあ異様に簡単だが、手作り入浴剤のほとんどは精油が命だからな。

 精油さえ手元にあれば簡単に作れるんだ。

 逆に精油が無いと途端に難易度が上がるんだけどな。


「ちょっと早いけど、いいか」


 外を眺めると夕陽は沈み、空が紫色になっていた。

 普段はもう少し夜になってから入っているんだが、せっかく厳選してバスオイルを作ったんだ。

 どんなものか試してみたい。


 今日も昼間は太陽ががんばっていたので暑かったしな。

 まあ、オレは生活魔法の影響でそこまで苦労はしていないが。

 生活スキルとの併用なので匂いに関しても気にならないし。

 そもそもオレは元が男なので、そこまで身嗜みを気にしたりもしない。

 最近はフローラルウォーターやバスソルトと言った物を自作しているので、それ等を使っているけどさ。


 ……温度は少しぬるめが良いか。

 オレはいつもの様にお風呂に入れるお湯を作り始める。

 水風呂でも良かったんだが、バスオイルを使うんだから温度があった方が実感出来るだろう。

 という事で41度位のお湯を入れて、お風呂が完成した。

 そして先程作ったエイクリーバスオイルを小さじ1程入れる。

 後はよくかき混ぜて、お風呂に入るだけだ。


 ……そうだ。ちょっと豪勢に行こう。

 生活用アイテムボックスに入っている、見た目の良い花を浮かべてみる。

 うん、なんかちょっとキザッたらしく見えなくもないが、派手な感じで悪くない。

 微妙に異世界感もある様な気がするしな。

 そういう訳で、オレは生活用アイテムボックスに衣類を入れて、お風呂に入る事にした。


「よし」


 まずは作った石鹸で身体を洗う。

 今までは石鹸が無かったので、お湯で身体の汚れを流したらそのままお風呂に入っていた。

 しかし、石鹸がある今、湯船に浸かる前に身体を洗うのがマナーってもんだ。


「上手く泡立つか実験だ」


 お湯で手を濡らし、石鹸を擦る。

 すると良い感じに泡立って来た。

 さすがに日本で売られている石鹸に比べるとランクが何個も下がるが、異世界で1から作ったにしては良い出来だろう。


 オレは石鹸で身体を洗う。

 もはや数ヶ月も経過しているのでこの身体にも慣れた。

 気にするとアレなので、今は石鹸の出来の確認に意識を集中する。


 異世界に来て以来感じていない、肌に伝う泡の感触だ。

 日本では極々当たり前の事だが、結構楽しい。

 何より自分から汚い物が消えていく様な、ちょっと良い気分になる。

 この石鹸には精油が混じっているので、ハーブの良い香りもするしな。

 もしかしたらリラックス効果もあるのかもしれない。


 ついでに髪も洗っておくか。

 これが日本なら洗髪用のシャンプーを使ったんだろうが、今手元にあるのはこの固形石鹸のみだ。

 それでも貴重品なので、人によっては贅沢な瞬間だろう。

 まあアルカリ性の石鹸なので、頭皮に悪い可能性もあるが……何も使っていないよりは良いはずだ。


 手に付いた泡で髪を洗う。

 柔らかく艶のある髪が香り付き石鹸の泡を受けて、更に艶やかな感触をもたらす。

 男だった頃はシャンプーを使ってもここまで柔らかくはなかった。

 まあ、これが女の子の、それも村人とはいえ姫の髪って事だろう。

 そうして全身を洗い終えたオレはお湯で泡を流し、湯船に足を入れた。


「んー……」


 バスオイルのお風呂に入った感覚は、やはりバスソルトとはタイプが違うという事だ。

 オイルという名が付いている通り、バスオイルはお湯を滑らかにして、保湿を高める効果がある。

 乾燥などに良いらしいが、汗を多く流しがちなこの時期とも相性は悪くない。

 使う精油や植物油にもよるが、今回はどちらもエイクリーの木を原材料にしている影響か、木の良い香りがするな。

 これは精油に使ったのが樹皮だからだろう。


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