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ポプリ

 まず、ポプリに良さそうな、見た目の良い草花を厳選する。

 第一印象は大事だ。

 花の蕾や黄色い花びら、青紫色の花びらなど、カラフルで彩りのある物を選ぶ。

 これもハーブの仲間だ。

 どうしても咲いた花や花の蕾は採取量が少なくなってしまうんだが、香りも良いのでフローラルウォーターとしての人気も高い。


 それ等の見た目と香りの良いハーブを厳選したら生活用アイテムボックスの中に乾燥した空間に弱い風を発生させる。

 後はドライハーブと同じ要領で乾燥させていく。

 時魔法様々だな。


 空間内時間で8日程経過させると乾燥した花びらや花の蕾になった。

 持って見ると、当然ながら軽くてスカスカしている。


 次に乾燥した花びらと花の蕾を切り分ける。

 大きすぎても小さすぎてもポプリらしくはならないからな。

 とりあえず、女の子の好みそうな小さめな感じが良いか?


 で、切り分けたら品種毎に分けて、新たな空間に収納する。

 その中に精油を……ちょっと多めに垂らそう。

 3~4滴程垂らして、混ぜる。


 この後、再度時魔法を使い、3週間程熟成させる。

 ポプリの完成である。


「完成っと」


 完成したポプリの匂いを嗅ぐ。

 ハーブを水蒸気蒸留で抽出して出来ている精油を材料に使っている為、植物由来の良い香りがポプリから感じられる。

 普通に良い匂いだと思う。


 早めに使い切りたいし、日陰や釜戸付近、トイレとか、匂いが気になる場所に設置しておこう。

 完全に芳香剤代わりである。

 一応定期的に掃除はしているから元々そんなに匂わないんだけどな。


 ……なんとなく、母さんが生きていた頃の実家に似た匂いだ。

 トイレの芳香剤と言えばラベンダーのイメージだが、今回使っている精油や花の匂いとは大分違う。

 まあ匂いのある空間に懐かしさを覚えたって事なのかもしれない。


 とはいえ、後でルルリナさん達に見本として配っておこう。

 フローラルウォーターの時みたいに流行ってくれると助かるんだが、如何せん匂いの商品だからなぁ……。

 香りというのは一歩間違えれば臭いの別名だ。


 煙草の煙や強過ぎる香水の匂いなど、地球でも嫌われる匂いは沢山ある。

 車の中に匂いの付く芳香剤を設置した結果、悪臭になってしまう、なんて話はそう珍しくない。

 だから、フローラルウォーターよりも好みが分かれると思う。


「……まだ結構あるな」


 多めに使用したとはいえ、ポプリに使う精油は少なめだ。

 こういうのは匂いが強過ぎてもダメだから、しょうがないんだけどな。


 石鹸とか蝋燭があれば、それに混ぜて香り付き石鹸、みたいな感じに出来るんだが、石鹸は生活魔法の影響で見かけないし、蝋燭は村人が使うにはちょっと高い。

 どうしても迷宮の森で採れるハーブ類で作れる範囲になってしまう。


 本当、用途に悩むな。

 オレがもしも心まで女なら、ハンカチに垂らすとか、掃除に使うとか、洗濯に使って匂いを付けるとか、色々とやったのかもしれない。

 なんというか、精油の使い道は女性向け過ぎるんだよな。

 オレなんかが使う場合、入浴剤ぐらいで終わってしまうんだ。


 しかし、こう考えると日本も思ったよりは香りで溢れているんだな。

 洗濯に使う洗剤にしても、○○の香り、みたいな感じで香り付けがされている事が多い。

 トイレの芳香剤なんて、使わないとあっという間に臭い始めるからな。

 まあ匂いは慣れるって言うし、気付いていない匂いも多いんだろう。


「さて、お裾分けに行くか」


 上手く行くかは不明だが、在庫処理は必要なのだ。

 そんな訳でオレはポプリをルルリナさん達、化粧水サークルの10人程に配ったのだった。


   †


 ポプリをお裾分けしてから二週間後。

 ……オレの予想とは違う展開になった。

 空の向こうが赤く染まる夕時……ミリフィンさんと一緒にやって来たのは男だった。


「姫様! あのポプリ? って奴を譲ってくれると助かりやす!」


 オレも大分馴染んだって事だろう。

 最初の頃みたいな無理な敬語では無くなっていた。

 それは良い。変に気を使われるのもアレだしな。

 しかし……何故男性がポプリを?


 オレの勝手なイメージだが、この村の男性は男らしい人が多い。

 朝から晩まで、ほとんどの時間を畑仕事に費やし、暇があれば川や山に行ったり、迷宮の森で魔物の狩りをする、という働き者のイメージだ。

 実際、フローラルウォーターの材料であるハーブをみんなで採取に行った時なんかによく遭遇したからな。


 そんなイリエル村の男が何故ポプリ?

 いや、この男性……ハシドさんが実は小物好きという可能性はある。

 ポプリとか、いかにも小物らしい外見をしているし、見た目には気を使ったつもりだ。

 女の子が好みそうな香りのする、カラフルな花や草。

 それがポプリだからな。


「えっと……男の方がどんな風に使うんですか? 参考にしたいんです」

「実はあっしは魔法が使えないんでやんす」


 ハシドさんの話によると、こうだ。

 彼は魔法系のスキルを持たずに生まれたらしい。

 代わりに農業スキル、狩猟スキル、採油スキルなど、農村の村人としては破格のスキルを持っている。

 そんなハシドさんだが、この時期は臭いに困るそうだ。

 この世界は生活スキルや生活魔法と言った、清潔を保つ力が存在する世界だ。

 こんな田舎の村人でも臭いをかなり気にする。


 ……フローラルウォーターが流行ったのはソレが理由か?

 あれは精油の副産物だけあって、香りは抑え気味だ。

 ほんのりとした香りとハーブの成分が顔や髪に良いらしいからな。

 つまり、元々香りに対する認識が地球よりもあった、と。


 で、ハシドさんは生活スキルも生活魔法も持っていない。

 生活スキルでも臭いを消す手段があるそうなのだが、それも出来ない。

 だから友人に生活魔法を掛けてもらったり、無いなら無いなりに毎年川で行水したり、花を摘んできて臭いを誤魔化してきたそうだ。

 そんな時、自分の摘んだ花よりも濃い香りのするポプリを使っている人を見かけたそうで、話を付けてオレの所にやってきたらしい。


「そういう事でしたら喜んでお譲りしますよ」

「ありがとう、です!」


 そう言って感謝の言葉を述べるハシドさんにポプリを多めに渡しておいた。

 どうせ精油が余って困っていたんだし、じゃんじゃん使って欲しい。


 ちなみに、ハシドさんみたいに臭いで困っている人はそれなりにいるそうだ。

 生活スキルを使えても生活魔法は使えないとか、その逆とかでも臭いはそれなりに気になる。

 単純にスキル自体のランクが低くて効果が薄い、とかな。

 その場合、ハシドさんと同じく水浴びしたり、花を摘んで来たりするのがこの時期では一般的らしい。

 どうやら精油の消費先が見えてきたな。


 さて、ポプリを譲った代わりに植物油をもらった。

 おそらくは採油スキルを使って作った物だろう。


 この植物油は迷宮の森で採れるエイクリーと呼ばれる木の果実から取れる油だ。

 エイクリーの果実はそのままだと魔物も食べない程、渋みや苦味が強い。

 しかし、良質な油脂を有しており、採油スキルを使えば植物油にする事が出来る。

 植物油としてのエイクリーの評価はそれなりに高く、村人間の贈り物としてはかなり人気がある。


 正直、採油スキルとやらが圧搾で油を取っているのか、遠心分離で油を取っているのか気になる所だ。

 あるいはこれまで同様、超常的な力が働いて採油出来るという可能性もある。

 この前、行商人がこの村に寄った時、蒸留酒が売っていたので、多分スキルの力で作られた物だろう。


 ちなみにエイクリーの樹皮は香辛料としての用途もある。

 地球の物で例えるならオリーブとシナモンを合わせた様な植物だろうか。

 この樹皮のフローラルウォーターを好む人も居て、結構人気の植物だ。


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