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余った精油

 気が付けばオレがルルリナさん達化粧水サークルの姫になってから数ヶ月が経っていた。

 化粧水=フローラルウォーターが繋ぐ関係とか、ドラマみたいでオシャレだな。

 というか、異世界で化粧水作りとか、オレは何をやっているんだ?


 などと思わなくもないが、これ等の影響もあってオレはかなり村に馴染んだと思う。

 主に化粧水サークルの人達と仲良くなった。


 女性を中心としたこのグループは単なるハーブ採り愛好会の様な側面がある。

 さすがにオレ一人で30人……この数ヶ月の内にもう少し増えて40人分のハーブを採取するのは不可能だからな。

 だから時々みんなで迷宮の森に行ってハーブ採りをして、オレがフローラルウォーターを作る、という流れが主な活動となる。


 最近ではフローラルウォーターを作る手際も良くなった。

 慣れればその分、洗練さが増す様で、最初の頃よりも幾分か質が良くなっている。

 手作り品の醍醐味でもある、どんな品種を使うか? という要望にも応えており、草や花など、好みに応じてフローラルウォーターを使うのがルルリナさん達の主な話題となる。


 オレは暇な夜をフローラルウォーター作りという内職をして過ごしたという訳だ。

 まあ生活用アイテムボックスの中で水蒸気蒸留を繰り返しているだけなので、そう面倒な事でもないからやっているんだけどな。

 その影響で村に溶け込めた訳だから、労力の割には成果が大きい。


 で、今は夏。初夏である。

 太陽が世界を焼く様な光を降り注ぎ始める季節だ。


 この世界の夏もそれなりに暑い。

 どうやらこの世界、この国にも四季はある様で、温度が結構変わる。

 コンクリートジャングルという訳でもないのに日中は30度を軽く超えるからな。

 日本に比べると湿度は高くないので、日陰や川などで涼んでいる人が多い。

 クーラーなんて存在しない世界では暑さに耐えるのも大変だ。


 この辺りは中世全体と比較すると大分違うかもしれない。

 一般的に中世という時代は5世紀から15世紀までと考えるとわかりやすい。

 その頃はかなり寒かった様で、当然夏は過ごし易かったそうだ。

 まあ中世の温暖期と呼ばれる10世紀から14世紀頃の起こった温暖な時期もある。

 とはいえ、それは極々一部の地域の話で、地球全体の中世で言えば寒い所の方が多い。


 それに比べるとこの世界は温暖な方だ。

 昔から魔族や魔物と戦っていて、更に寒さとも戦うとなると、人類の滅亡が軽くカウントダウン入ってしまうからなのかもしれないが。

 温暖だと言う事は作れる食物も多くなるからな。

 何より迷宮という狩猟に適した場所もあるし、この世界はこの世界で上手く周っているという事だろう。


「さて、今日はどうするかな」


 そんな暑さも何のその。

 日本に居た頃のオレならともかく、今のオレは暑い日中でも外を元気に歩き回れる。

 ……別に子供になったから元気になった訳ではない。

 これもそれも生活魔法のお陰だ。


 簡単に言えば生活スキルと生活魔法は生活を快適にする為の力だ。

 それ単体で金銭を稼ぐのは中々に難しいが、日々を快適に過ごすという意味では非常に優れている。

 例えば、今みたいに暑い時は自分の全身を冷気で包む、とかな。


 現在、オレの肌、数ミリ付近は23度設定になっている。

 この温度は春の過ごし易い頃とほとんど同じ数値だ。

 要するに外でクーラーを使用していると表現するのが適切か。


 オレの生活スキルと生活魔法のランクはEX。

 強い熱気がオレを包もうと冷気は微塵もブレる事なく、オレの全身を涼しくしてくれているのだ。

 暑苦しくて寝づらい夜でも発動可能で、まさしく非常に快適な生活を送っている。

 オレの生活スキルと生活魔法は寝ている時でも使えるからな。


 更に、紫外線も遮断出来る。

 このお姫様の様に薄い肌では夏の暑い日差しを受けたらあっという間に日焼け……いや、赤く腫れてしまうだろう。

 それを生活魔法によって防いでいる。

 つまり、日焼け対策も万全だ。


 まあ、オレの魔力では完全遮断は出来ない。

 具体的な%はわからないが、行って80%って所だろう。

 それでも夏の暑い時に、涼しい環境で外を出歩けるのは快適と言う他無い。

 男の頃だったら外出は避けていただろうが、今のオレは日中でも外に出られる。


「う~ん……」


 夏の強過ぎる日差しが照りつけるイリエル村をのんびりと歩く。

 春の頃よりも麦は背を伸ばし、青々としている。

 蝶や小さな虫が飛んでいて、まさに夏の田舎と言った雰囲気だ。

 住民達も畑の手入れなどは朝方の内に終わらせて、日陰などで涼を取っている。


 ……本当、何にも無い村だよなぁ。

 いや、住み易くて良い場所だとは思うが、いざ暇だと感じた時に困るのだ。

 ちょっと前はフローラルウォーターをルルリナさん達にどう行き渡らせるか、という問題があったのでそれ所ではなかったが、それ等の問題が解決したので余裕が出来たのも理由か。


「……」


 特に理由は無いが、生活用アイテムボックス内を確認する。

 確認すると言っても頭を突っ込んだりする訳ではなく、意識を集中すると中がどうなっているのかがわかるんだ。


 今はフローラルウォーター作成用に作った空間がいくつか動いていて、絶賛作成中である。

 それ以外だと、作り置きのパン、小麦粉、自作天然酵母、ハーブ類、肉類が個別に収納されている。

 他にも塩や砂糖、蜂蜜、樹液、料理酒と言った消耗品。

 井戸で汲んだ水、何かの乳などもあるな。


 腐ると困る品は冷気で包んだ空間に入れてある。

 夏は冷蔵庫に入れないとすぐに腐るからな。

 こういう時、教え子達の取得していたアイテムボックスが羨ましくなる。

 それはともかく、調理器具やコップなどの雑貨、山刀などの武器、代えの服や靴も仕舞ってある。


 他にも何かあった時の為に教え子からもらった魔法薬……ポーションも保存している。

 ポーションは適温で保存しておけば100年は持つらしい。

 どういう品なのかはわからないが、凄い保存性である。

 しかも大半の傷を瞬時に治すという、まさしく魔法の薬だ。

 これは使う機会が来ない事を祈るばかりだな。


 そして最後に、一際目立つ空間に納されている大量の……精油。


 最初はバスソルトを作る為に精油を作ったはずなのに、今では副産物であるフローラルウォーターがメインになってしまった。

 だから精油が余っている。


 精油はフローラルウォーターと比べて使用に注意がいるんだ。

 だから安易に使わせて良い代物じゃない。

 間違った使い方をされて問題になった困るからな。


 具体的には原液に触れるのは肌荒れの原因になる。

 濃縮されたハーブでもあるので、基本的には飲むのもダメだ。

 例外はあるらしいが、オレの作った精油が食用に使えるとは限らない。

 要するに刺激の強い液体だ。


 それでいて香りの強い液体でしかない。

 これを使って作れる品も香りが重要なものばかりだ。

 バスソルト……入浴剤は最たる例だろう。

 それこそトイレの芳香剤代わりに使うぐらいしか用途が思いつかない。


「……芳香剤?」


 精油をそのまま誰かに渡す事は出来ないが、加工した品ならありだよな?

 風呂文化は生活魔法の影響で馴染みが薄いので、バスソルトやバスオイルは喜ばれないだろう。

 となると、ポプリはどうだ?


 今は夏。

 丁度暑くて汗臭い時期だ。

 村人達は生活魔法を使って清潔に保ってはいるが、その全てを除去出来る訳ではない。

 実際、みんな暑そうに汗をかいている。


 そんな時に香りの付いたポプリを使えば汗臭さを多少は改善出来るかもしれない。

 ほら、中世ヨーロッパの頃は花を地面に敷いて臭いを誤魔化していたという話がある。

 それと同じ原理だ。

 またの名を在庫処理である。


 そういう訳でポプリを作ろうと思う。


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