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優しさに脱帽

ある日、セオはポツリと私に聞いてきた。


「ずっと疑問だったんだけどさ、何でその目立つ容姿のままなの?髪色変えれば大分特徴無くなるのに」

「…………え゛?」


その日私は初めてこの世界にも髪用の染料がある事を知りました。


「…何でそこまで落ち込むの?」

「…自分が馬鹿過ぎて。この世界の常識1から講習受けたい…。あんなに脱走するまでに色々読み漁ったのに…っ‼︎」


ただ今私は頭を抱えながら芝生の上をゴロゴロしている。セオはそんな私を尻目にご飯の準備。良い歳の大人がみっともないと理解はしているが、誰だって羞恥に駆られて床ローリングしたくなる時くらいある筈だ。たとえ年下であろう男の子に白い眼差しを向けられていると分かっていても悶絶したくなる!そんな日だって人生に片手くらいある筈だ。

なんて誰に伝えるでもない阿呆な言い訳を頭の中で並べてはローリング。はしたないと自分でも思いつつローリング。そしていつか、今この時を自分の中で黒歴史に認定する日が来る筈だ。恐らく今日中に…。


「貴女の世界には染料無かったの?」

「…あったけど。…多分聖女には必要ない情報だったんだろね。折角特徴的な容姿触れ回った訳だし」


そんな変な所で情報操作すんなよ。とは思いつつも元々容姿に頓着のない自分には、お洒落関係の話題自体早々登らなかったなと冷静に分析。自分の所為でもあるんだと自覚してまたローリング。いつになったらこの悶絶衝動は治るんだ。自分で自分に呆れながらもそろそろ疲れてきたのでローリングやめたくなってきた。


「もう出来るけどまだ転がってる?」

「…ご飯の方が良い」

「じゃあその全身の葉屑しっかり落としてからこっち来て」

「………ん」


折角セオからローリング脱出の機会を与えてくれたので、有り難く衣類に付着しまくってる葉屑を払う。

これはさっさと染料買って髪染めよう。そうすれば人のいる所で一々フード被ってビクビクせずに済む。

溜息を1つ落とし、トボトボ力無い足取りでセオの用意してくれたご飯の前に腰を下ろした。


「まだ付いてる」


そう言って私の頭をちょいちょい払ってくれる彼の少し乱暴な手付きが何だか懐かしい。この世界にはいない友達の手付きと似ているから。

頭が終わると背中まではたいてくれた。有り難いが若干痛い。しかしローリング地獄から生還したばかりの私にはセオに物申す気にはなれなかった。


「ありがと」

「早く食べちゃおう。で、次の所で染料買うの?」

「…そうする」

「分かった。所で何色にするの?」

「…茶色かなぁ」

「そんなに近い色で良いの?」

「だって似合わないし」


日本人の顔に派手な髪色が似合う訳ないだろ。

若干の八つ当たりで少々乱暴な手付きでブラッドベアの干し肉を齧る。

…美味しい。

程良く塩味の効いた干し肉のお陰で機嫌が回復。本当、単純な自分の性格に呆れはするものの仕方ないと開き直ってまた一口。

セオは私の不機嫌な様子に淡々と対応してくれる。テオラは我関せずな様子で草を食べてる。私はテオラ達を横目に干し肉を齧りながら鞄から地図を取り出し、現在地の確認。

やはりセオが早く駆けてくれているお陰で予定より早くサシャフィールに到着しそうだ。その前に2つ程町村に立ち寄れるので染料が買えるならそこで染めてしまおう。こういうのは早い内が良い。


「今のままのペースなら、明日の昼ごろにはドレア村に着ける感じ?」

「そうだね。飛ばせば今日の夜中には着くけど?」

「…どんだけ飛ばす気だよ。ただでさえ早いんだからテオラ疲れるだろ」

「そう?テオラならもう少しスピード上げても大丈夫そうだよ」


ちょっとテオラさん随分ハイスペックだな。吃驚だよ。

しかし未だに臀部と落馬の心配が懸念されるので丁寧にお断りした。セオは不服そうだが主人は私である。

この子絶対スピード狂だよ。車のハンドル持たせたらいけない子だ。良かった車の無い世界で!

遅過ぎる昼休憩を終えてすぐ出発し、いつもよりゆっくり目にパカパカ揺られながら進む。

そういえば、最近は野宿続きだなぁ。


「あー…でもベッドで寝れるって大分魅力だなぁ…」

「じゃあ飛ばすよ」

「えっ…⁉︎」


長旅で疲れているのもあったと思われる。そんな布団の魅力に馬上で気付いてしまい、それを聞き逃さなかったセオは私の返事を聞く前に宣言通りテオラをかっ飛ばした。

ええ、勿論後悔しましたとも。前言撤回したくても舌噛みたくないから喋れないし、しっかり捕まってないと振り落とされそうな程恐いしで、結局村に着くまで走り続け、テオラの速度が落ちた頃、私の口からは魂が抜け出ていた。


「…ちょっとしっかりしてよ」

「誰のせいだよ‼︎」

「ベッドで寝たいって言ったくせに」


私の様子にセオは呆れが滲んだ口調で言ってきたが、呆れてるのはこっちだ!飛ばさなくて良いって言ったのに!言ったのにぃっ‼︎また臀部の痛みが酷くなったじゃないか‼︎もう痛すぎて目から水分出そう。悔しいから絶対泣かないけど痛いものは痛い。

げっそりしている私とは反対にセオとテオラは普段通り。テオラなんて速く走れたのが嬉しかったのか、何だかイキイキして見える。このコンビ凄いな。


「ほら、ちゃんと村に着いたんだし機嫌治してよ」

「…誰のせいだと…」

「はいはい、宿直行するからフード被って」


…段々私の扱い雑になってない?気のせい?

グイッと乱暴にフードを被され、セオはヒラリとテオラから降り、彼女に私を乗せたまま手綱を持って歩き出した。

正直これ以上下半身にくる振動がキツイので私も降りたいのだが、降りた所で無様な歩き方しか出来ないと分かっているので我慢。緩い振動が腰まで響いて辛い…。早く宿に着いてくれ。

ゆっくり流れる景色を見回す。夜中のため静かで暗く、回りがよく見えない。灯りが点いている所は殆どなく、人気もなし。それなのに全く夜道に怖さを感じさせない暖かな家並みは、荒んでいた胸中を穏やかにさせてくれた。

背の低い家々。どの家も角がなく丸みを帯びて可愛らしいデザインで統一され、きっと明るい時間で見れば配色も暖かな色合いなのだろうと想像出来る。

明日になったら探索がてら家並みの見物も良いかも。その前にまずは睡眠だ。随分と遅い時間になったが、宿はとれるだろうか?少し心配。

そんな心配をよそに酒場の2階に宿が取れる店があり、世も更けているのに1階は酒飲みで繁盛している為普通にチェックイン出来た。テオラは宿の隣に小さな厩があったので預けてある。私とセオも簡単に宿の手続きを済ませ、取ったのは勿論一部屋のみ。お金は節約しないとすぐに無くなってしまうから大事に使っていかないと。


「ご飯はどうする?」

「私疲れたから今日はもう寝る…。セオは腹減ってるなら下で食べて来なー」

「うん」


彼はよっぽどお腹が空いていたらしい。私の了解を得るとさっさと行ってしまった。私も軽くで良いから何か食べたい所だが、残念な事に今は椅子に座る事自体が苦痛の為断念。

情け容赦なく駆けやがって…。お陰で疲労困憊だ。腰どころか背中まで痛くなってきた。足もガクガクするし、もうベッドで横になっているのにまだ体が揺れている気がしてならない。腹も減ったが、それよりも体が休みを欲している。

そういえば1階を通った時、凄く良い匂いがしたなぁ。あ、腹鳴る。


くきゅうぅぅぅ…。


「ぶふっ‼︎」

「‼︎⁉︎⁇」


扉から聞こえた噴き出し音に反射的に振り向くと、お盆を抱えたセオの姿。顔は下を向いてお盆を持っていない方の手で覆い、全身を笑いで小刻みに震わせている。

…これは…間違いなく聞かれている。

無意識に寄る眉間。ジト目でセオを睨むが御構い無しに笑い続けている。ツボリ過ぎだろ。


「やっぱりお腹空いてるんじゃん。軽く食べられるの持って来たよ…くくっ」


おい、最後の笑い声いらないだろ!いい加減収まれよ!折角の優しさが今の態度で減点マイナスだっつーに勿体無い。有り難く頂くけどさ‼︎

セオが持って来てくれた軽食は、暖かな卵スープとパンに、塩味のマッシュポテトが添えられている。シンプルで疲れた体にも優しそうな献立だ。

スープの美味しそうな匂いに釣られ、疲れ切ってはいたが、それよりも食欲が刺激されたのでさっきまでの睡眠欲が萎んでしまった。


「…美味しい」

「明日の朝も此処で食べようよ」

「良いね。そうするか」


本気でさっきまでの強行軍は疲れたけど、美味しいご飯のお陰で元気が出た。これ食べたらすぐ寝よう。

食べ終わるとセオは率先して食器を下げてくれた。一応、悪いと思ってくれているのだろうか?勿論有り難く甘えさせてもらった。ちゃんとお礼は言ったぞ。

美味しいご飯に暖かい寝具。疲れもあり、横になるとすぐさま泥の様に眠った。




気の済むまで眠り、スッキリ目が覚めた頃にはお昼前と、大分遅い目覚めになってしまった。

セオは私が寝ている間に外で買い物をしてくれており、戦利品の中に染料が入っていたのでもう脱帽。あまりに世話になりっぱなしで申し訳ない。その内利子付きで恩を返そう。

取り敢えず、今の所は「有り難う」とお礼を言うだけにしておいて。

ブクマ有り難うございます!

少しでも楽しんで頂けていれば嬉しい限りですm(_ _)m

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