その他の人達①
少々短いですが、別視点のお話です。
「一体何処に目を付けて捜しているのだお前達は⁉︎」
眩い金髪の癖毛を揺らしながら肩を震わせ、男は大きな怒声を部屋中に響かせる。傅いていた騎士は低い頭を更に更に低く下げ、目の前の男に赦しを請うが、男の怒りは和らぐ気配を一切見せない。
「申し訳ございません!ですが…」
「言い訳は不要だ!早く彼女を連れ戻せ‼︎」
「はっ‼︎」
バタバタと部屋から出て行く騎士に大きな溜息を大袈裟に吐き出し、男はその身を投げ出す様にドサリと椅子に腰掛けた。額に手を当て瞼を閉じると、クスクスと小気味良い笑い声がその男の耳に届く。普段であれば気にも止めないのだろうが、この時ばかりは彼の怒りを助長させたらしい。笑い声の張本人をその碧い双眸で睨みつけるが、当の相手は一向に気にする様子を見せない。
「何がおかしい?」
「随分と余裕が消えておりますね」
「お前の丁寧な口調は嫌味に聞こえる」
「それは失礼」
わざと大きな素振りで礼を取るその姿さえも彼の怒りを煽っているのだが、自身もそれを分かってやっているのだから質が悪い。
「サク、今頃何処に居るのでしょうね?」
「お前が手を貸したんだろう…?」
「はて?何の事だか」
「惚けるな‼︎」
ガタンと大きな音を立てて立ち上がる男の姿を見て、もう1人の男は口の両端を僅かに上げる。自身を睨み付けてくる碧の双眸が釣り上がれば釣り上がる程、彼の口角は反比例に上がってしまう。視界にゆらりと揺れる濃紺の真っ直ぐな髪を鬱陶しそうに手で払い、自身の紫色の目を目の前の碧に向けた。
そういえば、サクはこの瞳の色を「フジイロ」と言っていた、と濃紺色の男は今はもう此処にいない彼女の事を思い出す。彼女の世界にある花の色と同じだと。
「何故だ…何不自由ない暮らしをさせてやれるのにっ」
そんな考え方しか出来ないから愛をもらえなかったのだと何故分からないのか。目の前の苦悩する男に呆れるばかりの濃紺色の男は、本人にバレない程度の小さな息を吐く。
本音は還してやりたかった。だが、己の立場がそれを許さない。元々この世界に何の関わりもない人間を無理矢理引き摺り込む事自体、この男は反対していた。しかし、魔獣の封印は異世界の聖女にしか務まらないと上層部は口を揃えて同じ事ばかり繰り返し、結局自分達で問題を解決しようとする考えさえ一欠片も持っていなかった。慣わしだから、それがこの世界の在り方だからと。
…くだらない。そんな事にこだわり続け、この負の連鎖を断ち切る術を探そうともしない、こんな世界など滅んでしまえ。そう言えればどんなにこの胸が軽くなるか。しかしまだその時ではない。まだこの胸の内を隠さねばならない。その時がくるまで。
「…サク…何故だ…」
きっと項垂れる金髪の男には、一生彼女の心の内を理解出来る日はこないだろう。占い師でもなくともそんな未来が分かってしまう程とは滑稽だ。
『フィオールだけだ。こんなお願い出来るの…巻き込んでごめん』
『違います。巻き込んだのは此方です。貴女がそんな顔をする理由は1つもない』
『…だけど』
『元々貴女にはこの世界への義理なんてありません。封印を施してくださるだけでも十分なのです。あの者達はそれを聖女として喚ばれたのだから当たり前だと思っているのです。…本当に反吐が出る』
『…フィオールってクールに見えて中身熱いよね』
『こんな私はお嫌ですか?』
『寧ろグッとくる』
『…本当に、貴女には自然と首が垂れます』
彼女とのやり取りは思い出すだけで胸が暖かくなる。だが今はまだ還せない。その方法を探し出さねば。どんなに時間を掛けても見つけ出し、彼女へ届ける為に。
フィオールの視線は王子と呼ばれる金色の髪の存在を映してはいるが、その想いはずっと遠くにいるであろう、聖女サクの無事を祈っていた。
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