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よっぽどの事

王都シュバンツヘイト。

私がついこの間までいた街だ。其処から脱走し、彼等から逃げ切って元の世界に還るのが私の目的。脱走までに色々事前準備をしていたから、おそらくまだ私が居なくなった事に気付いていないだろう。それも時間の問題だけれど。たとえ発覚した所で、大々的に聖女が還ったと発表させたから町民を使っての捜索は出来ない。手段は限られ難航する筈だ。今の内に出来るだけ遠くに行かなければ。王都とは森を挟んで反対方向に街があるから、一先ず其処を目指している。歩きだと速くて1日半程で着く筈だ。地図は頭の中にある。魔獣は封印したから、よっぽど魔の濃い場所でもなければそうそう魔物に出くわさないだろうし、道中は平和な筈。


「次の街では足になるものを買おうと思ってるけど、馬の目利きとか出来る?」

「…多少なら」

「多少分かるなら十分」

「馬車の方が安全じゃ?」

「街から離れた所に拠点を置くつもりだから、移動手段が欲しいんだ。成るべく良い子を見繕ってよ」

「畏まりました」


森を出てからの道中は今後の予定を相談しつつ、雑談。歩くのは好きな方なので今のところ苦ではないけど、その内きっとヘトヘトになるだろうな。それまでは歩くけど。街から馬車を使う選択も考えはした。しかし追われる懸念がある以上、成るべく足が付きそうな事はしたくない。目撃者が増えればそれだけ逃亡失敗に繋がるし、今のわたしは疑心暗鬼だ。信用を金で買うなんて…以前の私なら嫌悪したけれども、いまはそんな事言ってる場合じゃないし。

チラリとセオを見ると、重たい荷物を率先して持ちながら私の後ろを歩いている。小太り商人お墨付きなだけあり、痩せこけていても私より力はあるようだ。


「そういえば、君って敬語がデフォ?」

「でふぉ…?」

「ああ、えっと…敬語が通常会話?」

「まさか」


だよね。敬語喋りにくそうだし。私が主人だから無理して慣れない敬語使ってくれてたのか。


「じゃあ敬語なしで良いよ。正直、慣れてないの無理矢理使ってる感があって笑いそう」

「………」

「…睨まないでよ」


吊り目が睨むと恐いんだよ。一回その顔鏡で見てみなさい。




暫く歩いて陽が落ちてきた頃、野宿するのに良さそうな場所を見つけて腰を下ろした。綺麗な川が流れているので迷わず水分補給と補充をする。顔と手も洗って振り向けば、さっそくセオは火の準備に取り掛かっていた。


「手馴れてるね」

「出来なきゃ今頃死んでる」

「それ終わったらちゃんと水分摂取しなよ」


目は手元を見たまま頷いてくれた。私も準備をしなければ。正直歩き疲れてヘトヘトだけど、このまま横にはなれない。これこらの事を考えると体力は落とせないからご飯も食べなければいけないし、魔物がいなくても野犬やら何やらで警戒を怠る事も出来ない。

食事の用意、といっても昼間食べた物と同じだ。パンと森で採った果物、葡萄酒もまだ少し残ってる。後は保存の効くビスケットと干し肉。今夜は果物とビスケットにするか。干し肉とパンを明日の朝にしよう。葡萄酒も飲んで水入れれば次の街まで保つだろうし、念の為干し肉はもしもの為に別で少し取っておこう。無事街に着いたら食べ物も買い足しして後は…

頭のなかで献立と計画を立てていると、気付けば目の前に兎を持ったセオ。


「………ご遺体?」

「そこ通ってたから狩って来た。食べる?」

「ごちです」

「?所々聞き慣れない言葉を使うけど、それは異世界の言葉?」

「そんなとこ」


なんて優秀なサバイバーだ。私も魔獣封印の旅に出てた頃は何回か野宿したけどさ、彼ほど手際が良い人はいなかった。これが生活かかっている人の手腕かと思うと感動を覚える。なんて感動を噛み締めていると、みるみる彼は兎を捌いていった。これまた何とも見事な捌きっぷりである。


「材料あったらシチューとか作りたかった…折角の兎…」

「贅沢」

「無事逃げ切れたらそんな生活おくらせてやる」

「…ふぅん」


何とも気の抜けた返事だ。張り合いのない。

折角のお肉なのでハーブ的な物はないかと捜したら、運の良い事に香草が見つかった。幸先良いなと上機嫌にコレ肉と一緒に焼こうと提案したら変な顔された。野生の生活力はあっても、こういった香草とかハーブの知識はなさそうだ。


「草なんて一緒に焼いてどうするの?」

「香り付けだよ。これで風味とが良くなって肉臭さが消えるから大分食べやすくなるんだよ」

「香りで腹が膨れるの?」

「良いから黙って捌いてろ」


腹が膨れる云々は置いといて意味がある事だとその身を以って分からせてやる。

セオが川で捌いた兎を洗ってる背後で、私は香草の準備と火が消えないように枝を焚べる。パチパチと爆ぜる音を聞きながら、また思考に耽った。

無事に逃げ切れるだろうか、還れるだろうか、彼と契約を解除する方法は見付けられるだろうか。考え出したらキリのない事ばかりが頭の中を埋め尽くしていく。駄目だ、こんな事ばかり考えていたら上手くいく事も失敗してしまいそうじゃないか。マイナス思考を追い出す為に頭を大袈裟に左右に振ったけれど、少しクラクラしただけであまり頭はスッキリしなかった。


肉が焼けるまでビスケットと果物を齧って待機。これデザートと主食の順番逆だなと思いつつも、甘い味覚に無意識に入っていた肩の力がフッと抜けた。やっぱり疲れてる時は甘い物が良く利くらしい。


「…一応聞くけど、奴隷が主と同じ物を食べて良いの?」

「食べなきゃ体力辛いじゃん」

「まさか、奴隷の使い方知らないの?」

「別に奴隷が欲しかった訳じゃないんだよねぇ…。手段がこれしかなかっただけで」

「…?」

「もう少し落ち着いたら話すよ」


そろそろ良いかな、と肉の様子を見る振りして話題を逸らす。別に話したくないという訳ではないけれど、いかんせん今日1日で結構な体力を消費している。簡単に言えば重い話を喋る体力が残っていない。話してる最中にリアルに寝落ちしてしまいそうだ。それは流石に避けたい。

タイミング良く肉も焼けていたので、火から離してナイフで程良い大きさに切っていく。すると火を挟んだ向こう側から溜息が聞こえてきた。何かしたかと思い、溜息の発生者に目を向ければ呆れ顔と視線が合わさった。


「そんな雑ごと、俺にやらせれば良いのに」

「出来る人が早いもん勝ちで良くない?」

「成る程、仕事は奪えって事だね」

「何で急に物騒になった⁉︎」


宣言の通りセオは私からナイフを横取り、肉を食べやすい大きさに切っていく。うん、やっぱり私よりナイフの使い方上手い。結構な塊に手こずっていた私と違ってセオはスパスパ切っている。おかしい。切れ味は同じ筈なのに何だこの違いは。若干の敗北感を味わいながら一口サイズにカットされた肉を手掴みで食べる。うん、香草が臭みを消して風味が凄く良くなってる。しかしやっぱり香草だけじゃ味気ないので鞄から塩を取り出して振り掛け、もう一口。


「うん、良い焼け具合。香りも良いし美味しい」

「………美味い」


勝った。ふふん、とドヤ顔したら今度は可哀想な人を見るような目をされた。この人、結構表情豊かだな。言葉で言わない分顔が分かりやすい。

主食も食べ終わって、後は朝まで休むべし。布団代わりに人1人入りそうな程大きな麻袋を鞄から取り出して広げる。寝袋代わりにもなるように私が作った渾身の作品だ。


「さて、どっち先に休む?」

「…本当に変わってるね。普通見張りは奴隷に任せてサッサと寝るもんでしょ」

「君ってそんな過酷労働したいの?休める時に休まないとぶっ倒れるよ?」

「そしたら捨てるのが普通」


…駄目だ。価値観が違い過ぎて会話が出来ない。ただでさえ疲れてるのに、これ以上この話題をやり取りする気力ないや。


「分かった。先休むから適当な所で起こして。交代するから」


お言葉に甘えてサッサと麻袋の中に潜り込む。ゴワゴワしてるけど、サラで眠るよりは暖かい。横になってみると一気に瞼が重くなった。やっぱり結構疲れてるみたいだ。そのまま意識を離そうとしたら、初めて投げられた彼からの私に対する問い掛け。


「貴女って怒って手を出す事あるの?想像出来ないんだけど」

「まぁ…よっぽどの事だったら出る事もあると思う…眠い、もう寝る」

「何だ、貴女も同じかよ…」


何と同じだよ。主語を言え。皮肉るように鼻で嗤いながら吐き出された言葉に、そう突っ込み返そうとしたが眠すぎてそのままブラックアウト。きっと起きた頃には忘れてしまうだろう。それぐらい朧な意識の中で耳に入った言葉だった。泥の様に眠るとは良く言ったもので、気付いたら朝チュンでした。

…私、起こせって言ったよな?間違いなく交代するって伝えたよね?

寝惚けて半目のまま朝ご飯の準備をしているセオに目を向ける。私の疑問だらけの視線になど全く歯牙にも掛けてくれない。彼は本当に寝ていないのかと疑うほどにキビキビと動いているが、良く観察すれば欠伸を噛み殺しているからやっぱり寝てないらしい。寝起きでボサボサな髪をそのままに、準備中のセオの背中まで大股で歩み寄り、彼が私に気付いて振り向くと同時に渾身のチョップを脳天におみまいしてやった。


「‼︎‼︎⁉︎⁉︎」

「起こせって言ったよね?何でそのまま放置するのさ‼︎」


若干チョップ入れた時の手首の角度が良くなかったらしく、微妙に此方にもダメージがきた。しかしそんなの今はどうでも良い。私は怒っているのだ。


「主人に見張りさせて奴隷が寝るとか聞いた事ないよ」

「知るかテンプレの主従関係なんて!私がそうしろって言ったらそうしろよ!言っておくけどこれが原因で倒れたりしたら次はビンタだかんね‼︎」

「……これって貴女にとってよっぽどの事?」

「十分よっぽどだろ‼︎」


キョトン、と釣り目が大きく開くと随分幼くなるな、なんて脱線しかけた思考を無理矢理引き戻す。いやいや、私は怒っているんだってば!


「……わ、かった…」

「先急ぐからご飯食べたら出発するけど、気分悪くなったりしたら隠さず教えてよ?」


コクリと頷いてくれたので支度に戻るけど、本当に分かってくれているのだろうか?どちらかというと気圧されて思わず頷いたようにも見えた。

一応、道中気に掛けておくかと頭に留めておく。まずは川で顔を洗おう。それから準備手伝って、それから…。頭の中でやる事を組み立てていく。まだまだこれからもやる事だらけだ。その為にも体力は温存させたいのに全く…。

小さな溜息を吐いて、気合を入れる為に川に顔を突っ込んだ。朝一の川は勿論キンキンに冷えていて、やって後悔。気合い入る前に心冷えました。

拙い文章なのにブクマ有り難うございます!

3話にしてまだ街に着かない…すいません、本人もおせーよと思ってます。そして主人公の説明もうちょい先になります…。次は街です!

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