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揺れて誤解

船の揺れにも慣れてきた3日目。動けるようになって見つけた憩いの場所は、テオラさんでした。


馬も乗船出来る船は少なく、ファルデン行きで乗っけてくれるのはこの船の往復のみらしい。次の出航が1日半で済んで本当に良かった。出航してからその話を船員さんに聞いて肝が本気で潰れるかと思った。往復なんて待ってたらそれこそ城に強制送還の上昇率が半端ない事になっていただろう。旅路の神様がいるなら祈りたい。

そんな事をボーっと考えながら座っているテオラに寄っかかっている。彼女は気にした素振りも見せずに昼寝。彼女の運動不足を懸念して船員さんに聞いてみたら、甲板で走るのはアウトだが歩くくらいなら良いとの事。なので最近の日課はテオラと朝・晩の散歩とお世話だ。馬も乗船可能なだけあって船も中々大きく広い。散歩程度なら充分なスペースだと思う。しかしテオラは走りたいらしく散歩中に駆け出そうとする時もあるが、元々頭の良い子なので手綱を引くと大人しく従ってくれる。ごめんよ。船降りたら思いっきり走って良いから。私が死ぬけど。


「あ、お姉さん今日も馬と一緒なんだ。本当、馬好きなんだな!」

「まーね。お世話になってるし、度胸あるよこの子」

「へー。確かに良い馬だよな。足速そうだし」

「速いよ。私はまだ乗馬苦手だから速くは走れないけど、セオが得意だからさ」

「セオって一緒にいるあの目付きの悪い人?」

「あれは釣り目なだけで悪くはないと思うけど?」

「…それお姉さんだからじゃないのかよ?」

「…そうかい?」


話し掛けてきたのは十代前半くらいの男の子。この船の乗組員で見習いさんなんだとか。名前はコーエン君だったか。将来立派な船乗りになる為に日夜修行に励んでいるそうだ。是非素敵な船長さんになってくれ。

因みに私は今、普通に村娘の格好をしている。結局手配書のせいでどっちの格好をしてもリスクはなくならない訳だし、寧ろ男装時に性別バレた方が色々面倒だと思った結果通常仕様になりました。


「お姉さん達って何処行くんだ?ファルデンってこれから寒くなるのに大丈夫かよ?」

「そうなんだ。じゃあ防寒装備買わないと。教えてくれてありがと」

「任せろ!で、何処行くんだよ?」


ちっ!誤魔化されてくれなかったか。

内心でお行儀悪く舌打ちし、どう返答しようか迷う。情報なんて何処で流され拾われるか分からないモノなのに、迂闊に目的地やその他諸々を世間話に出したくないのが本音。何と言うべきか…。

コーエン君は興味深々、といったキラキラの瞳で此方を見てくるから誤魔化すのさえとても気が引ける。


「…しゅ、とを見てみたいなー…なんて」

「首都ってヴィッツフォートの事か!確かに城でっかくて街も綺麗って有名だな!僕も1度行ってみたいんだー。でも港から遠くて中々行けなくてさ」


そういや本にもそんな感じで書いてあったな。全く寄る気さえなかったから名前と地図の位置覚えただけで完璧スルーしてたわ。しかも港街からカラドレイルへの進路と真逆の場所な上、観光くらいしようという気も起きない程の距離なのだ。やはり行く機会はなさそうだ。


「僕の分まで楽しんで来いよお姉さん!で、いつかまた逢えたら教えてくれよ。ヴィッツフォートがどんな街だったか!」

「…そうだね。また逢えたら宜しく頼むよ」

「うん‼︎」


何て嬉しそうな満面の笑み。小さく生まれた罪悪感がちびちび胸中を刺激してくる。少年の純粋な笑顔を正面から見る事が出来ず泳いでしまう己の眼。癒しを求めて来ているこの場所が、今では真逆の効果を発揮している。何たる皮肉。

どうしたもんだか、と勝手に居づらく思っている空気の中、セオがテオラの食事を持って参上した。

なんてグッドタイミング!今なら君から後光が見えるよ!


「あれ、君また来たの?仕事サボってるって怒られても知らないよ」

「大丈夫だって!昼の分は終わらせたし、息抜き大事だって皆言ってるぜ」

「そう。じゃあ君もやる?」

「やる‼︎」


何をと言わずとも暗黙の了解が成立している理由は、昨日の夜からテオラのご飯やりに彼も参加しているからだ。馬も乗船可能な船ではあるか、実際利用する人は少ないらしい。何せ馬の乗船料は人1人分徴収される。それなら乗る前に馬を売ってしまう人の方が実際多い。商売に馬を使っている人ならともかく、大体は利用しない人の方が大半らしい。その為、久々に来た馬に眼を輝かてしまうのは、思春期の少年なら仕方ない事だろう。仕事の合間によくテオラにちょっかい掛けに来ていたが、やはり怒られてしまったらしい。それからは急いでノルマの仕事を終わらせ、空いた時間に覗きに来るようになった。何とも微笑ましいお年頃だ。

セオが食べやすいようにとカットした野菜をコーエン君に渡し、テオラはコーエン君の手から野菜をもしゃもしゃ食べている。とても楽しそうにご飯係をしてくれ、終わると満足して帰って行き、また次のご飯の時間に彼はやって来る。この世界の人は動物好きな人が多いのだろうか?


「テオラはモテモテだねぇ」

「モテたいの?」

「まさか。自分1人で手一杯さ」


実際セオに世話されっぱなしである。成人女性として何とも残念な事だが、事実なので仕方ない。

ご飯を食べて満足そうなテオラの鼻頭を撫でてやると、嬉しそうに掌に擦り寄ってくれるので本当に癒される。自然と綻ぶ頬に隣から視線がザクザク刺さるが気にしない。

良いじゃんか。馬に癒しを求めて何が悪い。


「誤魔化すの下手くそ」

「……………」


ええ、自分でもそう思ってた所ですよハイ。畜生…ジト目攻撃が地味にメンタルにくる。


「…嘘つくの苦手なんだから仕方ないじゃん」

「貴女って絶対色々損して生きてるよ」

「…悪かったな…」

「逆。だから俺にとっては僥倖だったよ」


不貞腐れて逸らしていた視線をチラッとセオに向けると、穏やかな顔がそこにあった。照れくさくて見ていられず、またすぐに目をそらしてテオラを撫で続ける。


「あ、今夜ちょっと波荒れそうだってさっき航海士の人が言ってたから気を付けておいて」

「…マジかい…」


折角船酔い克服出来たと思っていたのに…。そりゃ全日凪程ではなくとも穏やかな旅路を強く希望していたのに…‼︎って昨日セオに言ったら「凪じゃあ船進まなくならない?」と言われて撃沈したばっかりなのに…。お願いだから眠れないレベルの揺れにならない事を強く強く希望します神様っ‼︎

なんて願っていた昼間がとても恋しいです…。


「ほら水、飲んで。少しは楽になるから」

「…揺れすぎて水顔に掛かるんだが…」

「仕方ないよ。天候ばっかりはどうしようもないし」


分かってます。分かってますが…辛い。鏡を見なくても自分の顔が絶賛真っ青な事くらい手に取るように分かる。何せセオも少し辛そうな顔してる。それでも私を気に掛けてくれる彼には本気で脱帽だ。

外は暗く、強風と強い雨。船乗りさん達はこの程度なら沈まないから気にするなと言っていたけど、これが〝この程度の揺れ″なのか…⁉︎前回の旅でも確かに船も利用したが、短期間だった上に此処までの揺れは初めてだ。本当にこんなに揺れて沈まないのかと疑いたくなる程揺れている。椅子だってポルターガイスト現象の如くガタゴト揺れてズレて動いているのに。駄目だ、プロのお言葉を信用出来ないぞこの揺れ具合。本気で恐い。

その時だ、一際大きく船が揺れ、両手で持っていた水の入った木のコップが手から離れていき、大きく身体が傾いたのは。スローモーションの様に床板が近付いてくる。違う、私がベッドから落ちているのだ。顔面から床に激突とか本当についてない。せめて鼻血程度で済んでくれれば良いのだが。鼻骨骨折とか格好悪いな、なんて思いながら地べたとの正面衝突を覚悟していたら二の腕を強く横に引っ張られ、視界に映っていた床が物凄い勢いでスライドし、暗転。視界が暗くなったのは意識が飛んだからではなく、目を覆われているからだ。


「…セーフ」

ふぇお(セオ)…?」


私の頭を両手で抱え込む様に庇われたのだと一歩遅れて脳が理解した。並行感覚が大きな揺れのせいでよく分からなくなっていたが、今は私がセオの上に乗っかって倒れ込んでいる状態だ。何だこの漫画の様な展開は。俵担ぎの後は抱擁とか。いや、抱擁というには少し締め過ぎ感が拭えない。何でも良いが、とっさとはいえこの状態は色々な意味で息苦しい。薄い胸板に顔を押さえ付けられている状態の為抗議の声が挙げられない。なので彼の腕をペチペチと叩いて訴えてみるが、その間も容赦なく地面が揺れるのでセオも離すに離せない状態らしい、余計に締め付けてくる。

だから苦しいんだっつーに‼︎締めるな‼︎物理的な意味で落とす気か⁉︎


「お姉さん、揺れ激しいけど大丈夫か?」


ノックと言うには適当すぎるコン、と1つ扉が鳴った後に間髪入れず開かれた扉。

せめて返事を聞いてから開けてくれ‼︎

そんな私の切実な声に出ない訴えも虚しく、コーエン少年に床で抱き合う(様に見えているだろう)姿を目撃されてしまいました。…シニタイ。


…………。


誰も何も言えない空気が一瞬流れ、コーエン少年は「ゴメン‼︎」と大声で慌てて謝った後、バタンと強く扉を閉め、走り去っていった。

…泣いて良いですかね?


「あ〜…明日のテオラのご飯、もう来ないかもね」


そうっすね。

声が出せないので取り敢えず頷いておいた。

ベタな展開が好きです(笑

ブクマ本当に有り難うございます!頑張ります!

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