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友達

行き止まり。

なんともベタな展開に苦いものが喉からせり上がってくる。

バタバタと追い掛けて来た人達が私達の退路を塞いでいく。人数は5人。皆鍛え抜かれた大きな体をしている。対するセオは…出逢った当初に比べれば肉は付いてきたけれどもやっぱりまだ細身な方。しかし爆睡していた為見てはいなかったが、彼はブラッドベアを4匹も倒した経歴がある。きっと大丈夫だと信じたい!先程装備も整えたところだし、きっと悪くはならない筈だ。それでも目の前の光景が恐い事に変わりはないが。

セオは男達から目を離すことなく私をゆっくりと地面に下ろし、そのまま自身の背に隠すように前に出て銃を1つ、ホルスターから取り出した。

真後ろから見ると彼の背中が細いのにとても大きく見える。もともと長身だが、何故かこの時は彼が今までで一番大きく見えた。


「…何か用?」


ゾクリ、と背筋に冷たい空気が触れた。

初めて聞いた彼の低い声。此処からではセオの顔は見えないが、彼は今とてつもなく冷たい顔をしている事がよく分かる。寧ろ恐いので見たくない。此方に向けて言われた言葉ではないが、恐さのあまり無意識に彼の腰辺りの布地を掴んでしまった。するとセオが銃を持っていない方の手で、私のその手をギュッと掴んだ。

吃驚した。無意識に掴んでいた自分の手にも、その手に応えてくれた彼にも。

男達は此方の出方を伺っているのか、ジリジリと距離を詰めようとしてくる。

その中でリーダーらしき男が前に一歩踏み出て来た。


「その背中の子だが、あの貼り紙のご令嬢ではないのか?」

「勘違いだね。あれは誘拐された令嬢でしょ?俺はこの方の奴隷だから主の意に添わない事は出来ないよ」


そう言いながら銃口で自身の首の布をズラし、奴隷の証である首の紋様を彼等に見せた。それを見てギョッとする私。

銃口を平然と自分の首に向けられるって相当慣れてるな。こっちの心臓に悪いのでやめてほしいところだが…それさっき弾詰めてたやつだよね?

セオの首を確認した男達は少しだけ戸惑いを見せ、仲間内で「どうする?」「奴隷じゃ確かに逆らう事は出来ないよな?」などと話しだした。どうかこのまま信じて引いて頂きたい。

しかし、やはり世の中思うようにはいかないようで。5人の中で一番目つきの悪い男が此方までハッキリと届く大声で叫び出し、勢いよく私達を指差した。


「嘘かも知れねぇじゃねぇか!貴族って奴は体裁ばっか気にしてよ!家出されたのを隠す為に誘拐とか言ってんじゃねぇのか?大方婚約者が気に食わなくて逃げ出しだんだろ⁉︎」


ほぼほぼ合っているので反論出来ない。実際王子と結婚しろって言われたし。だが此処で捕まるのはマズイのでやはり何とか引き退ってくれないだろうかと淡い期待を抱いてみる。

そんな都合よくいかないのは知っているが、思うだけタダなので念じ続けてみるものの、結果は変わらず。


「それによ、本人じゃなくてもソレっぽいの連れてくだけでも少ないが金は貰えるんだろう?だったら迷う事あるかよ!」


迷えよ‼︎

さっきは走り読みだった為そこまで読んでいなかった事を後悔。というかあざとい金の掛け方に本気で頭くる。民の血税をそんな風に使うなんて。

確かに動く人間は増えるだろうが咀嚼しかねる。だからといってこんな馬鹿な事する奴らの所に帰る事だって願い下げだ。

本当に、何故上がここまで馬鹿な連中ばっかりなのに国が滅びないのか疑問が募る。


「しかしよ、もしそれが本当だとしたら、家出する程嫌な奴と無理矢理結婚なんて可哀想じゃないか?」

「そうだなぁ…」


思わずセオと目が合ってしまった。なんて人情派な人達だろう。勝手に解釈して勝手に同情されてはいるが、きっと悪い人達ではなさそうだ。皆ゴツくて強面だが、私達を見る目には明らかに同情の色が見え始めている。

しかし先程叫んでいた男だけは違ったようで、ブルブルと拳を震わせていると思ったら、また大声で叫び出した。


「お貴族様の事情なんか知るかよ‼︎オレはやるからなっ‼︎」

「おいよせ‼︎」


その宣言と同時に此方に向かって走り出したその男の顔は、明らかに敵意が滲んでいる。他の男達の制止の声も無視した男の手には鉈が握られており、大きく振りかぶったまま此方に迷うことなく一直線。その形相に寒気を感じ無意識に一歩下がろうとしたが、壁に阻まれて終わった。


「大丈夫。そのまま下がってて」


セオは男から目を離さないまま言うと、握ってくれていた私の手をもう1度強く握り、離し、男に向かって駆け出した。

手を離された瞬間の肌に触れる空気がとても冷たく感じたが、あっという間に離れた背中を慌てて目で追った。

大振りに男から鉈が振り下ろされたがセオは銃でそれを()なし、いつの間にか抜いていたもう片方の銃を男のガラ空きになった腹部に突きつけ、撃った。


ガウン!


控えていた他の男達も、私でさえその鮮やか過ぎる動きにただ見ている事しか出来なかった。発砲した銃口からは薄く細い煙が空へ向かって登っていく。撃たれた目付きの悪い男はゆっくりと仰向けに倒れ、その口からは白い泡がプクプクと吹き出ている。

遅れて思考回路が徐々に動き出した頃、何事もなかったかのように銃をホルスターにしまっているセオを除いた全員がみるみる顔を青に染めていった。

彼に向かって何と言えば良いのか分からず、口を金魚のように開けては閉めてを繰り返していると、此方に振り返ったセオは良い笑顔で一言。


「大丈夫。空砲だよ」

「………心臓に悪い」


いや、だから何で非難めいた言葉にそんな嬉しそうな顔するんだよ。

彼は私に悪戯が成功した子供のような顔を見せた後、男達に振り返った。彼等は皆セオが振り返ったのと同じタイミングで肩をビクリと揺らし、先程よりも顔色を悪くしながらもリーダーらしき人は意を決したように疑問をぶつけてくる。


「…本当に、違うんだな?」

「そう言ってる」

「お前の後ろにいる子に聞いているんだ。違うんだな?」


私は男の目を見たままゆっくりと頷く。

それを確認した男はどこかホッとしたように小さく息を吐くと「分かった。誤解して悪かったな」と言って倒れている男を2人掛かりで肩に担ぎ、足を引きずりながら去って行った。

姿が見えなくなり、やっと私は口からは盛大に息を吐き出しながらズルズル壁に背を押し付け座り込んだ。膝頭に額を押し付けるような姿勢で再度吐いた溜息は先程よりも小さく済んだが、まだ心臓は少し速い。


「大丈夫?」

「うん…まぁ。ごめんちょっと落ち着くから少し待って」

「うん」


拳3つ分くらいの間を空けて、彼が隣に座ったのを気配で感じる。少しずつ落ち着く心臓。嫌な汗も引いてきて、のろのろ顔を上げて彼の方を見ると銃を撫でながら何とも苦々しい顔をしている。


「…何その顔」

「…折角買ってもらったばっかりなのに…もう傷付いた…」


あぁ…そういえば銃で鉈受け流してたっけ。覗き込むと、目を凝らしてよく見ればグリップの底の部分に少々凹みが出来ている。しかしそんな目立つ場所でもないのに、明らかにセオは凹んでいる。

確かに買ったばかりの服が汚れたりしたら、私も少しばかりショックを受ける事もある。きっとそんな感じだろう。


「鉈の側面当てるつもりだったのに目測誤っちゃった…」


はぁ、と今度は彼から大きな溜息が零れた。こういう所は年相応なんだな、と素直に好感が持てる。

先程の男と対峙していた時の彼は初めて見る彼だった。まだ少し今のこの彼と上手く結び付けられないが、あんなに簡単に打ち負かしてしまうとは驚きだった。体格差だってかなりあったのに。当の本人は先程の事など微塵も気にした様子はない。完全に新品の銃が傷付いた事だけが頭の中を占めているようだ。


「そういえばさ」

「?」

「前にだって旅してたんだよね?随分余裕なさそうだったけど、何かあった?」

「…あ〜。別に大した理由じゃないよ。単に人から襲い掛かられたのが初めてだったから、ちょっと慣れてなくてさ」

「…そう」

「情けないとは自分でも思うよ。魔物とは何回も対峙したのにさ。それが人に変わっただけでこんなんなってさ…」

「いいよ。無理に言葉にしなくて」

「………」

「それで良いんだよ。貴女は本来ならあんな風に追われる事なんてなかったんだから。自分の事情けなく思わなくて良い」

「…どうも」


それが限界だった。それだけ言って、また膝に額を押し付けた。

こんな泣き出してしまいそうな顔見せられない。彼の年齢は知らないけれど、明らかに年下の男の子を困らせる事はしたくなかった。ただでさえ色々と面倒を掛けているのに、これ以上の事は私のプライドが許さない領域だ。彼にはある程度私の地盤が固まったら奴隷の契約を解消して、自由にするつもりなのだから。


少しして落ち着きを取り戻し、ようやく見せられる顔になったので物資の買い出しの再開の為立ち上がろうとしたら、目の前に彼の手。先に立ち上がっていた彼は仄かな笑顔で私の手を待っている。断る理由もないので有り難くその手を取り、立ち上がって歩き出したのだが………。


「…あの、手」

「逸れないようにだよ」


この細い人気のない裏路地でどうやって逸れると?

疑問しか浮かばないその返答にどう返せば良いのか分からず、結局そのまま離すタイミングを逃してしまった。


「帽子も買った方が良いかもね」

「そうだね。後で寄ろう」

「ん」


繋がれた手を見て内心凹む。これは明らかに気を遣われている。彼は情けなく思わなくて良いと言ってくれたけれど、やっぱり凹むものは凹む。

彼の距離感は私には心地好い。近付き過ぎず、離れすぎず。彼を自由にするまで、この距離のままが良い。そうして、その時がきたら笑ってお別れを言って手を振りたい。そんな普通の別れ方をしたい。完全に私の勝手な願望だが、彼とならそれが出来る気がする。

きっと私はセオの事を友達のように思っている。言葉は少ないけれど、何が言いたいのか顔を見ればすぐに分かってしまう、年相応に笑ったり凹んだりする優しい年下の友達。

彼も私の事をそんな風に思ってくれたら嬉しい。元の世界に還った後も、偶に思い出して「そういやあんな奴いたな」程度に思い出してくれる、そんな友達に。

は…初めてのポイント評価…‼︎

本っっっっっ当に有り難うございます‼︎一体何度見した事か…‼︎改めて頑張らねばと思いました!有り難うございます‼︎

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