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モンスター  作者: カバン
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序章

 空から照りつけてくる太陽はとても輝かしいひかりを放つ。

しかし、その光よりも輝いている男の子がいる。

………と、おもっているセーラー服の女の子が木の木陰で身を潜める。

そんな彼女が太陽よりも暑いんじゃないかと思うほどのどことなく熱気に満ちた視線をサッカーで遊んでいる、いや、遊ばれている細身の男の子に向けられていた。

男の子は黒髪で耳をおおう程度の長さを持ち前髪は自然に切り揃えられている。お世辞にも運動ができる体型には見えず、どちらかというと文科系をイメージさせる体型である。

男の子は黒い学生ズボンとカッターシャツを着てサッカーボールを弄る。

放課後で美術部の彼がカッターシャツを汗で濡らしながら必死にボールと戯れる姿はあまりに滑稽で、しかし小学生の純粋な遊び心をくすぶっているようにも見える。

はたから見れば何故美術部がサッカーを?と疑問に思われるような光景も彼、工藤一蹴(くどういっしゅう)を見つめ続けている女の子にとっては知らないはずがないことであった。


 彼が必死にやっているのは授業のひとつでサッカーを行う授業だったときのことだ。先生によって分断されたチームで自らのパスミスやブロックの失敗などでチームを負けに追いやってしまったと自責していたことから、自分の不甲斐なさを悔やんで今度は同じことにならないように努力しているのだ。そんな友達想いで、とても一途な彼を格好いいと思い一方的な想いを送り続ける彼女にはこのぐらいのことはお見通しなのだ。

木陰から視線を送る彼女、田村結衣(たむらゆい)は頭のなかで工藤のことしか考えられなくなっているという、一種の病にかっかってしまったのだ。

(一蹴くん!あなたはホントに優しくて実直な人だわ。一蹴くんの優しいところが私だけに向けられたらなぁ……)

目が一気にトロンとし、今にも溶けてしまいそうな顔になる。

普段の顔立ちは整った顔で目も大きくてパッチリとしているのだが、そんな面影は今は一切残っていなかった。

そして、そんな妄想を振りほどきいま現実に目の前にいる美男子(田村のなかでは)に熱い視線を送り出す。

すると彼が居ないことに気づいた。


「えぇっ!!!」


思わず上ずった声が出て、動揺する。木陰から出て、辺りを見渡す。

居ない、何処に?

運動場を奥で練習している野球部達を見、次は北東の階段を上ったところに大きく風格のある建物、体育館を見る。

彼女は心のなかで呟く。

(ここじゃない。)

そして体育館からむかってみぎにあるのが校舎だ。

校舎を見て彼女は走り出す。

彼女はモデルのような体型で、スラッと長い足がスカートに隠れきらずに見え隠れする。そんな彼女は疾風のこどき早さで体育館そして、校舎に続く階段をかけ上がる。

彼女はスポーツ万能というとても秀でた能力をもっている。

そのなかでも走るのがとても得意だった。

そして息も切らさず着いた校舎の前にたち、校舎を睨み付ける。


「三階……いえ、二階ね。」


三階建ての校舎をひとめみて何かを見据えるような視線は的確に二階を睨んでいた。

決して見えるのは白い壁と、太陽の光を反射する窓口だけだというのに。

彼女は校舎に入っていく。

簡素な作りのドアを開け、最寄りの階段を上る。

迷いのない歩きは何かが見えているようだった。


二階に着き、ふたつほど教室を通りすぎる。どれも放課後の為生徒の姿はひとつとしてない。

しかし、彼女は三つめの教室のところでたちどまった。なにも言わず表情も整った顔を一度も崩さずに教室の中に入っていく。

少し屈んでたくさんある机の下を覗く。そこにはかくれんぼで逃げ隠れする人を探しだそうと頑張っているこどものようでもあった。

物音ひとつないような教室で耳をそばだてる。

どんな些細な音も逃すまいとする精神が見てとれた。

そして、カチャリと掃除用具入れのロッカーから静に物音が鳴った。

この静かな教室には十分すぎる物音だった。

迷いない足取りで彼女はロッカーに近づき勢いよく開けた。しかし、そこには彼女が思ったものとは違い倒れたほうきだけだった


彼女はひとりでに首を捻る。


「ここだとおもったんだけどなぁ」


そう言い残し彼女は教室を後にした。



 無人となった教室。

なにもなかったはずのロッカーが無造作に開かれる。

そして、足音と呼吸音が数度なってから教卓が、ガタンと音をたて揺れた。

すると、何もなかった教卓の上にぼやけた霧が晴れたように空気の靄がとれ、そこに現れたのは工藤一蹴だった。


「はぁ、全くあの子は怖いなぁ。」


青ざめた表情で振り返りロッカーを見る。


「ここに隠れてるのがばれたときは見えてるんじゃないかと思ったよ。あの子ももしかして僕と同じ超能力者なのか?」


そう、工藤一蹴は自身の体を透明にする能力がある透明人間。超能力者である。

 そんな彼はこの菅ヶ原中学校に入学して初日、とても強い一目惚れをした。相手は名前も知らない美少女だった。肩口まで伸びた黒髪が清楚な雰囲気を醸し出し、くっきりとした鼻に柳眉。透き通った肌は白く瞳には吸い込みそうな魔力を感じられた。

工藤は入学式の体育館で緊張していた思いが別のとこで緊張するはめになった。そんな彼女の回りを取り巻く男も女も皆、憧憬と羨望の眼差しを送っていた。

 工藤は運良く彼女と同じクラスになって友人からいいなと羨ましがられたがそれを努めて無視し、彼女にちょっとでも話したいと勇気を出した。

目標は彼女が座っている一番後ろの席窓側。そこには多くの人だかりができていた。当然のことながらクラスのものそして上級生などもにぎわっていた。そんな人だかりに踏み込むのはきが引けた。

工藤は自分に力がないことを知っているし、運動も不得意だとわかっていた。しかし、諦めることは考え付かなかった。

その人だかりの中心に彼女がいるのだから。

一歩一歩強く踏みしめて人だかりをかき分け入ろうとする。

しかし、中の重圧はすごかった。上級生のアメフト部が中心近くに集まっていたのだ。そのそとまきにには野球部、サッカー部と運動部で塗り固められていた。

草食動物である工藤にとって肉食獣の巣窟に飛び込むのは無茶であり無謀といえた。


「邪魔だどけ!」


強く押された体は紙切れの如く吹き飛んだ。

ドサッと倒れ、転がる石ころを誰も見ないように皆気にするものなどいなかった。

しかしー


「大丈夫?」


そんな石ころに女神は微笑み手を差しのべてくれたのだ。

数多の星よりも輝いて眩しい月のような微笑みには工藤一蹴という人間を照らし出してくれているようだった。

自分には眩しすぎるくらいのものだった。

白く柔らかい手を勇気を振り絞って掴み立ち上がる。

その時の周りの視線には羨望や嫉妬、悪く言えば憎悪や殺意が込められているようだった。


「あ、あの!ありがとうございます。田村結衣さん」


「ふふ、おかしな人。同級生なんだから敬語じゃなくていいのよ。ところで名前を聞いてもいい?」


「工藤一蹴で……ッス。」


一瞬のうちに二人とも破顔し、和やかな空気がこの場を包んだ。


「くどう……君ね、宜しく、工藤君。」


その日の出来事は幻のようであり、とても幸せな夢のようであった。

いまでも強く残っている。彼女につけ回されるようになるまでの数日前の記憶である。


「あ、一蹴君。奇遇だねこんなとこで会うなんて。」


昔のことを振り返っていた時に急に響いた声にびくつきながら振り替える。するとそこにはもじもじといじらしい表情を浮かべた美少女が白いはだを赤く染めていた。

端から見ればこの光景を羨ましくて嫉妬してしまうだろうが工藤にとっては紛れもなく恐怖でしかなかった。


彼女の狂気を目撃してしまった透明人間の彼からすると、彼女はモンスターである。



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