(8)
「リンフォンか。あれは確かにいいオカルトだよな」
「結局はリンフォンがなんなんか、っちゅうのが詳しくはよう分からんのと、完成後の地獄とやらがどんなもんなんかも想像でしか補えないって所が恐怖をかきたてよるよな」
「で、そのリンフォンってのがどうお前の“隠し玉”ってのと繋がるんだよ?」
「あの話の最後に彼氏が言うセリフ覚えとるか?」
急にそう聞かれ悟はリンフォンの記憶を手繰り寄せる。
話自体はだいぶ前に一度読んだきりだ。分かり易い恐怖はないながらも、余韻を残す不気味さは強烈なインパクトとは違った、後を引きトラウマのように悟の心の隅にしがみついていた。それ故数多あるオカルト話の類の中では記憶に残っている方ではある。
――最後のセリフは確か……。
「“こんなものがこの店以外にもどこかで存在していない事を、心から願ってる”」
「部長なだけはあるな」
「肩書きだけだろうが」
言いながらも悟の背中にはほのかに冷たい感覚が流れていた。
完成させると地獄が開くといわれるパズル、リンフォン。あれがこの世に一個のものではなく、もしも複数存在していたとすれば。誰かがどこかで地獄の鍵を開いてしまう可能性が高まるという事だ。
悟は自分が口にしたセリフを再度頭で読み返す。
“こんなものがこの店以外にもどこかで存在していない事を心から願ってる”
わざわざそれを確認させた操の意図を感じ取り、悟の顔には嫌な予感と期待が混じった下手くそな笑顔が浮かんだ。
「おい、まさか……」
その反応を期待していたのだろう。操は得意気に笑って見せた。
「せや。これが俺の隠し玉や」
「まさか、あるってのか?」
「らしい。まだ現物は俺も見てへんから、確認出来とらんのや。でももしこれがマジもんやったら」
「楓もぶっとぶな」
地獄を開くなんていうろくでもないパズルの存在に、悟達は最高のイタズラを思い付いたようなろくでもない笑顔で互いを見た。
「出し渋る必要なんてないだろ。一発かまそうぜ」
「せやな。分かった! 出し惜しみなしや。このネタに集中するわ。また分かったら連絡するわ」
「頼んだぜ」
リンフォン自体どこから流布されたオカルトかも分からない確証もない話だとか、現実味がないだとか。そのリンフォンが実在するからって本当にそれが、地獄を開くような禍々しい物なのかとか、そんな色んな不確定要素は関係ない。
ただ、掻き立てられた期待の感情に身を任せたいだけだ。
――面白い事になるかもしれない。
ただそれだけで十分だ。