辞令は突然に
―――ドバーン!
また、やってしまった。
また、化粧箱を崩してしまった。
「早月!!お前、何やってんねん!!」
やばい!犬山店長だ。
「早月!お前またドジしとんのか!」
「……すみません」
「お前な、ちょっとこっちこい」
今日で三回目のお説教。
ストックルームの一番奥、薄暗いこの場所がホントに嫌いだ。
何人もの後輩や先輩がここでお説教を受けた次の日から職場に来なくなる。
私ももう、だめなのかな。
この会社、シューズマートに入って早一年。
販売はそこそこできるようになったものの、在庫倒したり小さいミスが目立つ。
仕事の出来は、中の中の中!!
私、もうだめかも……
「早月。俺はお前の事認めとんやで」
「……はい」
そんなこと言われたら、私…
「この、鬼の犬山と呼ばれた俺に、一年も泣き言ゆわんとついてきた」
「………はい」
私……
「その根性はホンマに凄いとおもてる。男でも三日も持たへんのにや」
「…………はい」
泣いちゃいますけど……!!!
「てんちょぉおおぉー!!」
「やめぃ!!でも、お前には決定的に足らんものがある!」
「……足りないもの…ですか」
「せや!販売力は申し分ないわ!愛想もええ。やけどな、足りんのや」
「…なにが、足りませんか」
「おぉ。それはな」
「それは?…」
「ずばり、注意力!観察力!推理力」
「グサッーーーーー」
「せやろ。グサッときたやろ!」
「はい…。でもですね、犬山店長!」
「なんや」
「注意力・観察力は、分かります!でも、推理力は販売に必要ですか?!」
「アホか!めちゃくちゃ必要や!」
「なんでですか」
「目の前のお客様がどんな靴を求めてるんか。どうゆう用途で必要としてるんか。それを推理しながら接客してたら、お客様自身がホンマに求めてるものを提供できるやろ!」
なるほどそうか。お客様の事を考えろってことなんだよね。
「ってことで、早月 芽衣に辞令をいいわたーす!」
「…はい?」
「せやから、辞令やって」
「…辞令……そうですか。ってえぇ?!辞令!?」
「せや。」
はぁ!?そんな爽やかな笑顔で言われても!!
「い…犬山店長!!それは、さ…左遷ですか…もう私に見切りをつけたんですかー!」
「はぁ?あほか!話は最後まできけや!早月、お前には宇佐美店に行ってもらう」
「宇佐美店???」
「なんや、お前知らんのか?」
「知ってますよ!ここってかなり田舎の店舗でしょ?やっぱり左遷じゃ……」
「あほ。この資料読んでみ」
「なんですか?」
「ここ一年での宇佐美店の売上と昨年比や」
「え。うそ…毎月ほぼ昨対200%」
「せや。店長が時田に変わってからやな。まぁもともと売上の悪い店やったのもあるけどな」
「時田さん…?」
「知らんか?まぁ、百聞一見にしかずや。ごちゃごちゃゆわんと明後日から勤務やから、前乗りして挨拶でもしてこいや」
「…はい」
あぁ、犬山店長はこういってるけど、やっぱり左遷よね…ど田舎の店舗でなにを学べと…
「あ、あとお前の役職な、店長補佐やから時田のそばであいつの技術学べな。」
「え、いきなり補佐ですか?!そんな!」
「大丈夫や。すぐ慣れる。それに時田は俺が認めたやつや。心配すんな」
「はぁ」
「ま。しばしのお別れや、今日はしっかり販売せぇや」
「はいっ!!」