episode001 全ての始まり
燃え盛る炎。崩れ落ちるビル群。新日本政府が初めて実戦投入した人が乗り込んで操縦する人型ロボット兵器ペルソナは老若男女に関係なく人を撃ち続ける。撃たれた人々は血を地面に浴びせながら倒れていく。
「おい、絶対に生き残るぞ!」
平和だった東京の渋谷が今戦場と化している。逃げ惑う人々も、銃を手に取り反抗しようとした人も皆ペルソナの凶弾に倒れた。
人々は恐怖に支配された。
「一体俺たちが何をしたってんだ!」
武器をもたない日本がなぜこんなことになってしまったんだ!
日本はスッカリ変わってしまった。新兵器が次々と開発され、その技術は瞬く間に世界へ知れ渡り、そして気づけば東京がその新兵器に壊されていた。
「よし、ここからなら!」
ペルソナの後ろに回りこんだ男がロケットランチャーを構える。相手は全長六メートルのペルソナ。ミサイルを浴びせればすぐに倒せる。
だが、男は気づいていなかった。投入された兵器はペルソナだけではないことに。
「うん?うわ、なんだ!」
突然何かが飛び出してきた。犬だと思い頭を叩いてやったが、無駄だった。なぜなら頭はもう一つ存在したからだ。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
新日本政府は新型ウイルスで動物実験を行っていた。それが人を喰い殺してしまう結果になるとは誰も想ってもいなかっただろう。
新日本政府の真意も分からぬまま誰もが絶望感に浸り始めた。
「くそっ!」
真っ先に銃を手に取った少年はペルソナを一機撃墜することに成功した。だが、それだけで友を何人も失う事になってしまった。
(まだ十七の俺には荷が重すぎたってのか」
少年は自分の無力さに絶望していた。
「いたぞ!テロリストだぁ!」
新日本政府の軍人がこちらに向かって発砲してくる。
「ハァ……ハァ……あがぁぁぁ!」
同じく銃を手に取った者たちとペルソナの銃撃戦に巻き込まれる。少年は爆風に吹き飛ばされた。廃墟と化した渋谷の道路に少年は倒れた。
「くそっ。なんでだ、なんでだ……!」
拳を地面に叩きつける。少年は地面を這いつくばり、銃を手に取ろうとした。だが、その銃は新日本政府の突撃兵に潰された。新日本政府の突撃兵は特殊な装甲服に身を包んでおり、常人より遥かに上の身体能力が身につく。接近戦はおろか戦争について素人の少年には敵わない相手だ。
「死ね、テロリストめ」
「どっちがテロリストだ。攻撃してきたのはそっちだろうが……」
マシンガンの銃口が真っ直ぐ自分に向く。
(こんなとこで死ぬのか、チキショウ!)
少年は死を覚悟した。その刹那―。
「ぐわっ!」
突撃兵が悲鳴を上げた。ふと見上げると、ガスマスクを思わせるヘルメットと胸部装甲の間から流れ出る血。その血が吹き出る箇所を押さえる突撃兵の姿があった。そのままあえぎながらその場に倒れこむ。
「な、んだ……?」
さらに前方を見る。三機のペルソナがあっという間に炎上し、爆散していく。
よく見ると、くずれたビルの瓦礫の上に立つ者が一人。周りには爆発してもう動かないペルソナや突撃兵の死体の山があった。
瓦礫の上に立っているのはまだ幼い顔立ちをした少年だった。もしかしたら十五歳にも満たないかもしれない。だが、その背中には何か黒いオーラを感じる。人を殺すのに何の迷いも感じられない。
少年は振り向いた。真っ直ぐこちらを睨んでくる。その瞳には甘さや優しさなんて感情は何一つ感じられない。それに、その少年が右手に持っているのはまさしく剣だ。おそらく、自身を殺そうとした突撃兵を殺害したのもあの少年だ。
その少年の後ろにペルソナが佇む。だが、目に映らぬ速さでペルソナを真っ二つに両断した。たちまち爆発してゆく。
「僕より速く加速できる者はいない」
少年の声が聞こえてきた。
「加速?」
加速って、どういうことだ?
だが、そこで彼は気を失ってしまった。
その日の出来事は、丁度バレンタインデーだったことか、《バレンタインの惨劇》と呼ばれるようになった。