7話、組織《ゼロ》
《学園長室前》
「ここが学園長の部屋です。僕はこれで教室に戻ります。」
「あぁ、助かった。」
「慧護君とは同じ年齢ですし、一緒のクラスになれるかもしれません。その時はよろしくお願いします。」
「こっちこそ。」
俺はメグルが教室に向かうのを見送り部屋の扉を開ける。
「失礼します。」
扉の向こうには机に腰掛けニコニコ微笑みを浮かべた白髪の老人がいた。
「久しぶりですね、慧護君。」
「何が久しぶりだ、クソジジイ!今更、俺に何の用だ⁉」
「そんな、つれない事を言わないでください。昔からの戦友じゃないですか?。まぁ、呼び出しに応えてくれるとはおもいませんでしたけど。」
「無理矢理だったからな⁈有無も言わさずだったからな⁈」
白髪の老人はさらに顔をほころばせる。
「君なら簡単に逃げられたでしょうに。…あぁ、もう昔とは違うんでしたね?」
「…本当に嫌な奴だな。分かってるなら何で呼んだんだよ。俺にはもう昔程の力はないぞ。」
一年前なのにとても懐かしく感じる。
「貴方を呼んだ理由は保護とお願いがあってです。」
「保護?何でわざわざ。」
「今年、私の学園の卒業生は284人でした。ですが、そのうち100人程行方不明になっています。」
「何だよそれ?多すぎだろ。すでに行方不明なんてレベルじゃねぇよ。」
「…行方不明の方がまだいいんですよ。他の卒業生は全員殺されているんですから。」
「は?」
どういう意味だ?
「昔からあったでしょ。組織による卒業生の誘拐、勧誘が、しっかり訓練された能力者は使いやすいですからね。」
「それにしても数が多すぎだろ?」
「ある組織が強引な勧誘をしているんですよ。それも、戦って実力があれば勧誘、なければそのまま殺すという。ですから、襲われてない内に慧護君を学園に連れて来たんですよ。…今の君は弱いですからね。」
相変わらずイラってくるものいいだ。
「なるほど。…それで、何処の組織なんだ?」
「…貴方がよく知っている組織ですよ。」
「……ッ!!まさか⁈」
「そう、慧護君がリーダーを倒しては壊滅させた組織ですよ。」
「馬鹿な、仲間も解散させて完全になくなったはず。」
「…えぇ、元のメンバーはほとんどいません。ですが、まったく別のメンバーで新しく創られた組織です。リーダーを除いて。」
「それこそだぞ。あいつの能力は俺との戦いで半分以下になっているはず。なのに何故?」
あいつは元はランク1の魔力持ちだった。だが、今はランク4くらいまで落ちているはず。はっきり言ってリーダーとしては力不足だ。
「慧護君、一緒にいた君が一番解っているはずだよ。彼は能力だけが脅威じゃない彼には尋常じゃないカリスマ性がある。能力とは別で人を操る才能に長けている。」
……確かに。
「それに能力が半分以下になったとしても一対一の戦闘で彼に勝てる人間はいない。」
確かに、あいつの能力はほぼ反則的な能力だからな。
「だから、しばらくの間、彼に近づかないでください。」
「なるほど、意味は理解した。だけど、俺は近づく気なんてないぞ。悪いがもう零を止める力は俺にはないからな。」
「そんな事はないですよ。と言うよりむしろ逆、君にしか彼を止められません。そこで、お願いがあるんです。」
「嫌だね。断る。」
「…まだ何も言ってないですよ。貴方にまた、組織を壊滅させるのを手伝って欲しいん「い~や~だ~!!」……最後まで言わせてくださいよ。」
「さっきも言っただろ?俺の能力も昔の半分以下なんだよ!この学園の生徒にだって勝てるかわからないんだぞ?」
「なら、この学園で強くなってもらうしかありませんね。」
「だから…。」
「断れませんよ。」
ジジイはニコニコ顔から真剣な顔に変わる。
「ここからが本題です。君にはこの学園に潜入している『魔力狩り』を捉えて欲しいんです。」
すぐにでも断りたかったが聞く気がなさそうなので仕方なく最後まで聞く事にした。
「今この学園で魔力狩りという事件が発生しています。夜中の間に学生が手首を切り落とされ殺されています。すでに13人もの生徒が犠牲になっています。」
「大変だな。それがどうして俺に関係あるんだ?」
冷たいとは思うが俺にできる事なんてないんだ。
「犯人の能力は未だ不明。ですが、間違いなく組織のメンバーです。」
「……。」
ジジイは静かに息を吐く。
「おそらく、目的は能力者集め、…そして初さんに接触する事でしょう。」
「は?何でそこで初姉が出て来るんだよ?」
「解ってるんでしょ?何故組織が彼女を狙うのか。彼と同じ珍しい眼に魔力を持つ能力者。……そして、組織『ゼロ』のリーダー《皇帝》工藤零の妹なんですから。」
ジジイはさらに続ける。
「組織に彼女を入れようとするのは当然でしょう。……いいんですか?彼女を組織に入れてしまって。やっと卒業するというのに、戦いの中に放り込むんですか?」
「……。」
「君が知ってるあの戦場に。……それが嫌で、戦ってきたんでしょ?」
あんな場所に初姉を、…
「…分かった。」
「はい?」
「やるよ。あの馬鹿をもう一度止めてやる。」
「…そうですか。フフフ、もっとごねるかと思ってたんですけどね?」
「あぁ、初姉がかかってるんじゃ仕方ない。だからまず魔力狩りの詳しい情報を寄越せ。
」
「それならもうすぐ説明してくれる人が来ますよ。」
ジジイは後ろの扉指差し答える。
「相変わらずの能力だな。《観測者》。」
「まぁ、君が変わり過ぎなだけですよ。」
それから数秒後扉が勢い良く開いた。
「学園長!あの木戸慧護というやつを魔力狩りの事件に参加させるつもりですか⁈」
入って来たのは長い黒髪を一つに束ね、右手に刀を持った少女だった。
「はい、もちろんです。彼は優秀ですからね。皐月さん、貴方も見てたんでしょ?彼の戦いを。」
「あんなのただの偶然ではありませんか⁈私は反対です!彼が本当に強いのかもわかりませんし、今日入学して来た生徒を信用なんて出来ません!」
まぁ、もっともな意見だ。ただでさえ魔力狩りなんて侵入者を許しているんだ。それなのにぽっと出の俺を仲間に加えるなんてできるはずがない。
「ただし、私と試合して実力があれば許可してもいいですが。」
……あれ?
「おお、本当ですか皐月さん?良かったですね、慧護君。」
「あぁ、…って本当にいいのか?」
「……仕方ないだろう。学園長の命令だ。断る事なんてできるわけがないだろ。だが、実力もない奴を入れるつもりはない。」
「…悪いな。」
「勘違いするな?試合は本気でやる。怪我しても知らないからな?」
「分かった!」
「…何度も言うが怪我しても私の責任ではないからな?私は知らないからな⁈」
「?…あぁ。」
何でこんなに念を押すんだろう?
「ふふふ、慧護君。気をつけた方がいいですよ。彼女はこの学園の生徒会長にして初さんと同じ三強の1人ですから。」
なるほど、だからか。
「文句がないなら訓練所に向かうぞ!覚悟はいいな!」
「ああ!」
「言い忘れていたが私の名前は藤原皐月、能力は触れた金属を自由な形に変えられる。」
「木戸慧護だ。いいのか?能力まで言ってしまって?」
「別に隠す程じゃない。それに悪いが、私は初ほどぬるくないぞ。死なないように気をつけろ。」
どうやら、相当みたいだな。
俺は藤原先輩の後ろについて行きながらどうやって攻略するか考える事にした。