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5話、久しぶりの再会

《木戸慧護、本田メグル》



「おいおい、グラウンドに氷山が出来たぞ?」


その中には勝負を挑んだ生徒達が全員入っている。


「フフフ。相変わらず工藤先輩は凄いですね。」


「氷漬けの生徒は大丈夫なのか?」


「死んでなければ大丈夫ですね、保険委員会の連中なら死者以外なら大抵の傷は治しますから。」


よく見ると白い制服を着た人間達が氷を削りながら生徒達を救出している。……スゲーなこの学園。別の事を心配したくなってきた。


「朝からいい試合が見れましたね。まぁ、これで大事な事は全部話したと思います。」


「あぁ、部活とランクと行事だろ。」


「はい。他にも色々危険な事はありますが、死にはしないでしょう。それでは、本来の用事の学園長の所へ行きましょう。」


……そういえば忘れてた。


「了解。」


俺はようやく、本来の用事を思い出しメグルの横について話ながら歩いていく。


まだ試合の興奮からか生徒達がかなり残っている。まぁ、大半が工藤初に話しかけるためだろうが。


俺はもう一度工藤初を見る。空色の蒼い髪に整った綺麗な顔、確かにファンクラブが出来てもおかしくないな。さっきは遠くからだったのでしっかり確認出来なかったが間違いない。


そして、もう一つの確認も。



「なぁ、めぐる。」


「何ですか?」


「彼女と話すことって出来ないのか?」


「フフフ。やっぱり慧護君も惚れちゃった?」


「そんなんじゃないって!」


「残念だけど無理だよ。……まぁ、決闘を挑めばいけるかもしれないよ。」


「あぁ、やっぱりそれしかないのか。」


俺がため息を吐くのを見てメグルは笑いながら前に進んでいく。 工藤初を見ると審判をやっていたあの小柄な少女と楽しそうに話している。……仲がよさそうだ。



「メグル、悪い。もう少し遅れてもいいか?」


「?別にいいですけど。何かするんですか?」


「あぁ、知り合いがいたんでちょっと挨拶を。」


俺は生徒達を掻き分けながら工藤初に近づいて行く。周りにはまだたくさんの生徒達がいるが声ぐらい届くだろう。


「工藤先輩!」


「……?」


勢い良く近くにいた生徒達が振り向く。もちろん工藤初も。


「俺と決闘をお願いします!」










《木戸慧護・本田メグル》



「いったい何を考えてるんですか?」


「何が?」


「決まってるでしょう。あれだけ説明したレベル2にいきなり決闘を挑むなんて……死にたいんですか?」


「いや、ただ知り合いだから挨拶しようと思っただけだよ。」


「なら、普通に話し掛ければいいでしょう。まさか、僕が決闘しかないとか言ったからですか?知り合いなら別でしょう。」


メグルは呆れたような顔でこちらを見る。


「いや、知り合いといえば知り合いなんだけど、昔の話だから、多分向こうは覚えてないんだよな。」


「そういえば、君を見ても何も反応しませんでしたね。……人違いじゃないですか?」


「あんな蒼髪の美少女は早々いないだろ。」


「……それもそうですね。というより決闘の方は大丈夫なんですか?下手したら3秒も掛からずに勝負がついてしまうかもしれないよ?話す時間あるかな。」


「まぁ、勝てば問題ないだろ?その次の日にでもゆっくり説明するさ。」


「そうですね。……って勝つ気なの?!」


「へ?そりゃあ勝ち目なかったら勝負なんて挑まないさ。」


「相手はレベル2なんだよ?!勝ち目なんて。」


俺は地面に落ちている石ころを広いながら不敵に笑う。


「取り敢えず、10秒以内に終わらせてくるよ。」


そう言って工藤初のいる決闘場に向かって行った。





《決闘場》




「ごめんね、心。何度も審判してもらって。」


「気にすんな。どうせ5分も掛からないだろ?むしろ試合が終わったのに挑んでくる奴が悪いんだから気にするな。」


そう言って小柄な少女が俺を睨みつけてくる。


……視線が痛い。まぁ、間違っちゃいないけど。俺は蒼髪の美少女工藤初を見る。俺のことを不思議そうに見つめる視線に俺のことを知ってる様子はない。……当然覚えてるはずはない。このまま他人として関わるつもりはなかったんだ。俺にはその資格がないから。だが、そう思う自分とは裏腹に彼女に会えたことに喜んでいる自分がいて、思わず何も考えず行動していた。








《工藤初》


何だろう。目の前に立っている少年は見覚えは無いはずなのに、何処か懐かしく、とても落ち着く気持ちにさせる。それが何なのかわからず逆にもどかしい。……うーん………駄目だわからない。……勝負に勝ってから考えよう。私は自分が理解出来ない感情を脇に置き彼との勝負に集中することにした。彼は右手で石ころを弄りながらのんびり構えている。恐らく何らかの能力を石に加えるつもりなのだろう。私は彼が何をしてくるか前に凍らせるつもりで心の合図を待つ。


「二人とも準備はいいな!試合ーーー」


心と呼ばれた少女は高々と右手を上げると。勢い良く振り下ろした。



「始め!」


「アイス!」


開始と同時に俺は素早く右に飛んだ!


「……速い。」



さっきまで俺のいた場所には氷の塊が置いてあった。危ねえ!てか、アイツ開始の合図の前からもう左眼閉じてやがった!やっぱりあいつの能力は発現までに1秒はかかるのがネックみたいだな。……右眼を閉じて開く行程も。距離6メートル、


「うらっ!!」


俺は右手に持っていた石を彼女の顔にめがけて投げつけそのまま突っ込む。



「きたねぇぞ!」


「女の子に石を投げるなんて!」


「あいつは殺す!」


周りの観客から野次が飛ぶ。うるさいお前等!《魔力持ち》同士の戦いはもっと危険な物使うだろうが!だから、汚いとか言うな。傷つくから。


工藤初は体を捻り石を難なく躱す、だがその間に俺は距離を詰める。残り4メートルだ。このままあと1回彼女の攻撃を防げば近付ける。そのために言葉を紡ぐ。


「久しぶりだね。」



「……? 」


疾走しながら彼女を見る。彼女の瞳に俺の見覚えはないだろう。次の攻撃のため右眼を閉じていく。だが、


「アイ『初姉。』ッ!!」


ーー聞き覚えがあるだろ?



俺の言葉に閉じかけていた右眼を驚きのあまり見開く。右眼を閉じて開く、その行程を行えなければ能力は発現しない。俺はその隙にさらに間合いを詰める。


あわてて彼女は右眼を閉じて氷を創ろうとするが、


「遅い。」


彼女の閉じた右の視界から後ろに回り込み彼女の首に手刀を叩き込む寸前で止める。


「俺の勝ちで良いか?」


「……けい君?」


こちらを振り向かずに質問を質問で返してきた。


「おう。10年ぶり?」


それに俺は肯定で返す。10年前に学園に連れて行かれた幼馴染、工藤初。木戸慧護との久しぶりの再会だった。


「で、どうする?降参でいいっうわっ!!」


いきなり抱きしめられた。


「慧君!会いたかった!」


「う、初姉!ちょっ!人が!胸が!」


「もう会えないと思ってた!」


そのまま初姉は泣き始めた。ああ~ヤバイ。周りの視線が痛い、でも体にあたる感触は痛くない!


今の彼女に何か言える訳もなく俺が体を動かせず悩んでいると





ベキッッ!!!!



突然、俺の脇腹に激痛が走った。


「グホッ!!」



俺の体は初姉から離れ地面に叩きつけられた。突然の攻撃のため反応出来ずモロに食らってしまった。まだ体に力が入らず顔だけ上げて見るとさっきまで審判をしていた少女(心って言ってたか)が俺を睨んで立っていた。


「……何しやがる。」


「初から離れろ!クソ餓鬼!」



「今試合中だろ⁉いきなりなんだよ!てかお前、年上に対して態度が悪いぞ。」


何とか立ち上がりその少女に文句を言う。


「初の事を姉と呼ぶなら私はより下だろ。私は初と同じ17だぞ!」


「………は?」


……何の冗談だ?俺は少女を見る。黒髪のショートカット、恐らく150ないだろう身長に幼い顔立ち、起伏のない体つきは間違っても17歳には見えない。ランドセルがよく似合う女の子だ。


「……いや、頑張っても10才だろ?」



プチッ。




何かがきれる音がした。俺の素直な感想を聞いた瞬間、少女の拳が真っ赤に燃える。少女の周りの温度が急激に上がるのが分かる程。


「……テメェは燃やす!」


そして、勢いよく俺の顔面に赤く燃える手で殴りかかってきた。


「アブね!」


俺は咄嗟に少女の手首を掴み何とか顔面に当たる前に手を止めた。……そうはいってもその手から発せられる熱は半端じゃなく、俺の体からは汗が噴き出す。俺は急いで後ろに飛び間合いを取る。


「何しやがる!危ないだろ!」


危うく干物になるところだった。


「黙れ!何がペチャパイだ!何がチビだ!」


「そこまで言ってねぇよ!」


……捏造しすぎだ。


「私はこれからが成長期なんだ!あと、3年でテメェを踏み潰すくらいでかくなる予定なんだよ!」


「どんだけでかくなるつもりだ?!」


「とりあえず人を見下ろせるぐらい。」


「意外と普通だ!」


「そして、相手にチビと言ってやる。」


「幼稚すぎる!」


こいつ、どんだけ背にコンプレックス持ってんだ?……煮干しでもあげるか?


お互いに睨みつけて相手の出方を伺う。



「しかし、テメェ強いな!普通なら私の攻撃は避けるのすら難しいのに受け止めるとはな?」


「……昔から理不尽な暴力には慣れてるからな。」


俺は肩を落としてため息を吐く、まぁ、今回は自分が悪かった訳だけど。


「さっきは失礼な事を言って悪かった。すまない。」


俺は正直に頭を下げた。


「まったくだ。いいか、次に年下扱いしてみろ。本気で燃やすからな。」


「うっ!了解。」


怖えぇ、この人はなるべく怒らせないようにしよう。


「よし、じゃあ戦うか。」


「は?何故?」


「強い相手と戦いたいのは当然だろ?」


「いや、俺さっきまで初姉と戦ってたんだけど。」


「そんなの関係ねぇ、現にお前も戦ったばかりの初に決闘挑んでたじゃないか。」


うっ!確かに。


「だから私と勝負しうわっ!」


「……心、駄目。」


今度は初姉が心を蹴り飛ばしたみたいだ。


「こら初!何しやがる、私はこいつと勝負するんだよ!」


「慧君に怪我させるような事させない。」


「あぁ!」


「それに話しも終わってない。」


「……話って泣いてただけじゃん。」


「……泣いてない。」


「いや、泣いてたよ。」


「……見間違い。」


「………。」


「………。」



お互いに睨み合い、ーーー喧嘩を始めた。



「いいから私とやらせろ!」


「駄目。」


お互いに一歩も譲らず口と拳と蹴りが飛び交っている。俺は暫くそれを眺めた後大きく溜息を吐いた。


……グダグダだ。ただ初姉と話がしたかっただけなのに。


「ふふふ、もう10分は経ちましたよ。」


「あ、メグル。悪い、こんなつもりじゃなかったのに。」


「望んでもこんなことにはなりませんよ。普通は。」


「ははは。」


「さぁ、今の内に逃げましょう。ここにいたら危険です。」


「え?何で?」


「まだみんな気付いてないですが、貴方は3強の1人に勝ったんですよ。しかも、学園のアイドルに。」


「あんなの隙を突いただけだし。」


「何十人が相手でも勝てない相手に能力もなしで?」


「……。」


「ウイウイの人数教えましたよね?工藤先輩に勝ったらデートができることも。」


「……。」


「それと周りの観客の中に七つの会の長が五人も来てたよ。」


「……。」


「おめでとう慧護君、君が言ってた危険の全部に関わったことになるよ。……たった一日で。」



「……メグル。」


「何?」


「早く学園長の所に連れて行って。」


「うん。」


俺たちはコソコソとその場を後にした。今日は本当についてない一日だと思ってた。だけど、まだ半分も過ぎてない事をこの後思い知る事になる。



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